旅立ちの日
今日は旅立ちの日。
あの後ギルフォードさんは用が済んだから帰ると言い、帰ってしまった。
もちろん、感謝の言葉は最後に伝えといた。
僕らの命の恩人だ。
僕もあんな人みたいになりたいと少しは思えた。
父さんと母さんも別れ際に感謝の言葉と菓子折りを渡していた。
父さんに至っては、何度も感謝の言葉を伝えていて、ギルフォードさんもさすがに困っていた。
アイリの入学祝いパーティーに誘ったのだが、さすがに断られた。
アイリも少し落胆した様子だった。
ギルフォードさんが帰った後、僕は父さんと母さんに英雄養成学校に自分も行きたいと伝えた。
家にそんな金はないと言われることも承知で伝えた。
が、あえなく承諾された。
僕は拍子抜けた感じだったが、やはり条件はあって、入学試験で上位30人に入ることだった。
僕は入学試験の免除システムのことは知らなかったが、父さんたちはどうやら最初から知っていたらしく、もし僕が行きたいと言い出したらそれを条件にするつもりだったらしい。
父さんたちはちゃんと僕のことを考えていてくれて、僕は家族に恵まれているなと感じた。
その後、アイリの入学祝いパーティーをやるつもりだったが、僕の試験合格応援パーティーも兼ねて一緒にやることになった。
村の皆は盛大に僕たちを祝ってくれた。
僕がアイリについて行くと聞いて驚いた人たちも多かったが、みんな何も聞かずに送ろうとしてくれた。
きっと心のどこがで僕ならアイリについていきそうと思っていたのだろうか。
あんまり関わってきてなかった人たちにも祝われ、応援の言葉をもらった。
まぁ僕はオマケみたいなもんで、アイリの祝われ方はかなり異常だった。
僕の時と違い、泣いている人が多かった。
村の誇りだと言う人もいて、改めて英雄養成学校に特待生で招待されるということの凄さを思い知った。
みんなしばらくアイリに会えないと思い悲しんではいたが、僕の時はあっさりしていた事を考えると、多分合格できないで帰ってくると考えているのだろう。
まあ僕に力がないってことは村のみんなの周知だし仕方ないけど。
でも今は自分の隠された力に気がつくことができて、入学試験にも希望を持てた。
受かる自信は…多少はある!
絶対見返してやるからなお前ら!
その日はとにかく楽しんだ。
もう荷造りも終えていて、主に愛用の剣とヘラクレス王国都内までの食糧、金が入っている。
もう準備は万端だった。
そして次の日となり、
早朝に家を出て、アイリと一緒に村を出ようとした。
来てくれたのは僕とアイリの親だけだ。
昨日あんな盛大にパーティーをやって、早朝に起きて送ってくれるのだ。
家族にはお金や今までのことといい、感謝しても感謝しきれない。
父さんと母さんは泣いていた。
村のみんなは受からないと思っていても、僕の親は違った。
しばらくは会えないとわかっているから泣いて悲しんでいるのだ。
つまり僕が試験に合格して、入学できると信じているのだ。
僕に期待してくれている。
この期待を僕は裏切りたくない。
僕は父さんと母さんに向かって抱きついた。
しばらくは会えない。
もしかしたらもう会えることはないのかもしれない。
だから今のうちに親からの愛情を近くでたっぷり注いでもらうんだ。
とても悲しかったけど、もう決めたことだ。
僕は親から離れて、見送られながらアイリと一緒に村を出た。
振り返らなかった。
振り返ってしまったらまた気持ちが溢れてしまう。
だから僕は振り返らずに、馬車に乗って出発した。
そして一度も振り返らずに村を後にした。
「はぁ…」
ため息をついたのは僕だ。
今までずっと一緒にいたから、感覚が鈍ってたけど、今思えばあの日々の生活はかけがえの無い物なのだと実感した。
やっぱり覚悟はできていたとしても、寂しいものは寂しいな…。
アイリもきっと泣きそうな顔をしているのだろう。
僕はアイリの方を向いた。
「あーー早く着かないかなーー!王都ってどんなところなんだろ!やっぱり家とか広いんだろうなー!あとご飯もきっとおいしいんだろうなー!」
ものすっっっごいワクワクした顔をしていた。こんなワクワクしているアイリも珍しい。やっぱり前々から王都に憧れていたのだろう。なんせ僕たちの村と違い、辺境ではなく、ヘラクレス王国の中心であり、最も大きい街なのだ。
未知のことばかりだけど、自分の中の世界が広がって行くのはとても楽しいのだろう。
まぁ僕は楽しみという感情は湧かない。
精神状態がアイリと僕で全く違う。
今ものすごく緊張しているのだ…。
「アイリはすごく楽しそうだね…」
「そりゃそうよ!あの王都よ!村では出来なかったことがここではいっぱいできるのよ!想像するだけでニヤけるわ!」
「そ、そうか…」
想像以上に楽しみにしているな。
僕は王都についてはあまり詳しくないため、何があるのかはわからないが、きっと私生活で不十分はしないのだろう。
いやむしろ十分すぎるくらい娯楽が揃っていてるのかもしれない。
しかし僕にはその娯楽というのが、よくわからない。
修行ばっかりしていたから、何をどうすれば遊びなのかがわからない。
修行する前はアイリと遊んでいたらしいが、もう忘れてしまった。
今の僕にとっての娯楽は寝ることくらいだ。
「なによ!オーデンスは楽しみじゃないの!?」
楽しみじゃないよ…。まだ試験にも受かっていないのに。それに…
「僕には遊べるほどのお金は無いからね」
そう、たとえ合格したとしても、お金に余裕はない。
英雄養成学校は寮を借りるつもりでいるので、それの料金も含めると今後の生活は厳しくなって行くだろう。
だから僕は英雄養成学校に入っても、のんびりすることはできない。
しっかり仕事をして、地道にお金を貯めて行くしか無いのだ。
「…私の貸すわよ?」
「いやいいって」
「別にいつ返してもいいわよ?私だって仕事はするつもりだし、かなり余裕はあるわ!」
まぁ入学料と授業料は免除だしな。
かかる料金っていったら僕と同じで、寮料と食費くらいだろう。
入学料と授業料が無い分僕より遥かに楽だ。
ぐぬぬ、これが特待生か。
「気持ちは嬉しいけど、アイリには甘えたく無い。しかもまだ受かったわけでも無いし…」
「オーデンスならいけるわよ!何弱気になってるのよ!最初はあんなに強気だったじゃ無い!」
確かに最初に比べれば今僕は相当弱気になっているかもしれない。
時間が経つにつれて、失敗した時のことをどんどん考えてしまうのだ。
もうすぐ3日経つ。
王都にはもうすぐ着く。
そのことを考えると吐き気がしそうだ。
弱気になっちゃいけないとわかってるのに。
「うぅ…、吐きそう」
「もう!しょうがないわね!」
そう言い背中をさすってくれた。
まるで僕の母さんみたいだな…。
まだ吐いてはいないけど、少し吐き気が収まった気がする。
なにより、背中をさすられるだけで家族のことを思い出して、安心するな…。
これいいかも。
「アイリありがと…」
「別にいいわよ。もうこれくらいでいい?」
「あともう少し…」
「はぁ…、特別よ。終わったらちゃんと気を引き締めて絶対に合格しなさいよ」
「うん…」
「ただ合格するだけじゃダメよ?しっかり上位30人以内に入りなさいよ?」
「うん…」
ああ、安心するな。
アイリがさっきから何話してるのか全くわからないけど、そんな重要そうな話じゃなそうだし、いっか…。
「オーデンス聞いてる?」
「うん…」
「…」
あれ、手が止まった。
なんで…、もっとしてよ。
これじゃ王都に着くまでもたないじゃないか!
「止めないでよ…母さん」
「私はオーデンスのお母さんじゃないわよ!!」
「いてっ!!」
そう言い、アイリは僕の背中をぶっ叩いた。
痛い…。
けどその痛みのせいか、不思議と緊張は収まっていた。
アイリには甘えたく無いとは言ったが、無意識に随分と甘えてしまった。
まぁこれくらいは許して欲しい。
どうやら僕は父さんと母さんにまだまだ甘えたりていなかったらしい…。
そしてアイリは将来良いお嫁さんになりそうだな…。
相手は僕なら嬉しいけど、アイリを幸せにしてくれるなら誰でも良いかな。




