生と死の狭間
「行くぞ…」
そしてその死神の目は数段と鋭くなった。
やばい、こいつまさか今まで手加減していたのか…?
この威圧感、この気だるさ、体が悲鳴を上げているのが聞こえる。
だけど、僕には難しいことはできない、ただアイリを守るというシンプルなことしかできない。
けど別にそれでもいい、難しいことは未来の英雄様候補であるアイリに任せればいい。
「…アイリ、今日の調子はどう?」
「ど、どうって良くはないわよ…。見ればわかるでしょ」
アイリは魔力が高いせいもあって、奴の魔力を僕よりも敏感に感じ取っているはずだ。
僕より何倍も怖くて逃げだしたいと思っているはず。
けど、アイリはここにいる。僕のそばにいる。
僕がアイリの足りないところを補い、アイリは僕の足りないところを補って戦えば奴にも勝てるはずだ。
僕はアイリにしてもらいたいことを伝えた。
「そうか、だよな。調子が悪いところ申し訳ないんだけど、アイリには攻撃の方を任せたいんだ」
「攻撃って中級魔術のこと? 悔しいけどあいつには中級魔術は効かないと思うわよ?」
中級魔術も効かない相手か。
なら…
「なら上級魔術を今完成させてくれ」
僕は無理難題を突き付けた。
「はぁ!? 私上級魔術はまだ習得できていないわよ?」
「わかってる。けど、奴を倒すには上級魔術に頼るしかないんだ!」
もちろん僕が無理を言っているなんてことはわかっている。
けどそれしかない。今はその才能に頼るしかない。
「それはそうかもしれないけど、でも…」
「僕がアイリの邪魔をさせない!だからたっぷり時間を使え!失敗してもまたやり直せ!お願いだ…」
「そ、それじゃオーデンスがもたないじゃない!」
いやもたせる。死んでも。
その後のことなんて考えない!
今に全力を注ぐ。
「アイリ…、頼りにしてるからな」
「!」
「もう…、本当に無茶ばっかするんだから」
アイリは諦めがついたようにため息をついた。
「はは、慣れてくれ」
「慣れるわけないでしょ。はぁ、わかったわ。1分頂戴」
「もっと要求してもいいんだぜ?」
僕は1分の過酷さをわかっていた。
奴相手に1分。
そして残りの魔力量、体は限界を超えている。
先ほど以上の攻撃が来るというのは予想できる。けどもたせるって決めた。
おそらくこの攻撃が最後のチャンスだと思っていいだろう。
僕はアイリにできるだけ心配をかけたくなかった。
それがアイリの魔力制御に異常をきたすかもしれないから。
だから僕はできるだけ気丈に振舞った
。
「十分だわ。絶対成功させる」
ほんとうにかっこいいな。
泣き虫のところさえなければほんとうにいつか国民に慕われるような英雄になれる気がしてきた。
「わかった」
そう言い、僕はアイリから目を離した。
もう振り返らない。
アイリならできると信じている。
僕は奴からアイリを守ることに集中するだけだ。
魔術はイメージ力が大事だとお母さんが言っていた。
魔術の完成をイメージする、魔力障壁は防御の魔術ではあるがそれはとても脆く、欠陥魔術でもある。
だけどその欠陥魔術が今僕たちを守ってくれている。
魔力障壁は欠陥魔術じゃない。
僕が証明して見せる!
「イメージしろ。硬いもの、絶対に破れない盾…。」
僕が知っている知識の中でもっとも硬くて絶対に破れないもの…。
何がある?さがせ、あったはずだ。
そうだあれは最強の盾。
小さいころ母さんの絵本で聞かされたおとぎ話。
その盾はどんなものの攻撃も許さなかった。
それが鬼だろうと悪魔だろうと、神であろうとも。
僕はその絵本がとても好きだった。
とてもかっこいいと思ったから。
でもその物語の結末はどうだっただろうか…。
その盾を持った主人公は英雄になれたのだろうか。
思い出せない。
今思い出せるのその盾の名はーーー
「ミシャの盾」
僕がそれを口にした途端、魔力障壁は僕のイメージしたものになった。
魔力障壁は小さくなっていたが、それはとても欠陥魔術と呼ばれる魔術の姿ではなかった。
とても神々しく、心地よい安心感を与えた。
僕と奴の間にある一枚の小さな壁。
すべてはその盾に委ねられた。
「俺の攻撃を受け止めきれるか見ものだ。途中で力尽きてくれるなよ」
「死剣」
刹那周りの音が消えた。
何も聞こえない。
奴が最後に発した「死剣」を聞いた後に音が無くなった。
だが奴は目の前にいる。動かない。
まだ動かない…。いつまで?
いつまでそうしているつもりだ?
僕はそれにどうしようもないくらいの違和感を持ち、魔力障壁「ミシャ」の維持に集中しようと魔力制御をしようとしたとき、その攻撃はきた。
気が付けば奴はもう至近距離におり、漆黒の剣が魔力障壁に到達していた。
「な、なにが起きたんだ?」
魔力障壁は「死剣」の攻撃を何とか防いでいる。
けど、魔力がもってかれる。
吸われている気がする。
あの漆黒の剣に…。
「あれ、何も見えない」
急に視界が変化した。
目の前に奴がいたはずなのに今は暗闇の中にいて何も見えない。
どうすればいい?
魔力障壁もない。
何もない。
まだ音もない。
「僕は死んだのか…?」
この空間は虚無しかなかった。
どこにも触れられるところがない。
地面があるわけではなく、浮いているような感覚。
僕はただひたすら何もできず、そこに立ち尽くすことしかできなかった。
怖い。
僕はこんな音もなく真っ暗なところで誰にも最期を見られることなく死ぬのか…。
いやだ、死にたくない。
「だれか!誰か助けてくれよ!」
「お父さん!お母さん!アイリ!どこにいるんだよ!」
僕は精一杯声を張り上げた。
その声は響くことはなく、すぐに無音となった。
僕は涙を流していた。
孤独だ。
孤独に死ぬのがこんなに恐怖だなんて…。
寂しいよ、どうすればいいんだ…。
「アイリ、あいつに勝てたかな…」
ふとそんなことを思った。
死んでもなおアイリのことが心配なのか僕は…。
アイリは上級魔術を完成させることができたろうか。
「見てみたかったなアイリの上級魔術…」
あれ、今思い出したけどこの光景見覚えがあるような。
こんなところ来たことがないはずなのに…。
ここは無の世界であり死後の世界でもある。
死んでもない限りこんなとこに来るなんて…。
あ、そうだった。僕一回死んでたんだ。
だからこの世界に既視感があったんだ。
さっきの戦いではあまり考えないようにしてたけど僕ってなんで生きがえることができたんだろう。
もしかしたらここは死後の世界なんてものではなくて、死の狭間の世界とかか?
ならどこかに出口があるはず…。
見つけないと、急いで戻ってアイリを助けないと。
「会いたい。みんなにまた会いたい…」
景色が変わらなくて歩いているのかわからないままひたすら何かを探した。
僕は進んでいると信じたかった。
そう思わないと平常ではいられなかった。
そうして彷徨っているとそこに誰かがいたのだ。
真っ暗で何も見えないはずなのにそこに人がいることを感じ取れた。
「すいません、もしかして誰かいますか?」
質問してみるが、返事は帰ってこなかった。
そして注意深くそこを見ているともうひとり後ろにいた。
「あれ、知り合いか何かですか?」
また質問してみるが、やはり返事は帰ってこない。
僕はそれに憤りを感じなかったし、ましてや恐怖も感じなかった。
なんとなくだがこの人たちは僕の味方な気がしたから。
けど、なにをすれば返事をしてくれるのだろう。
「? なんかまた増えてる?」
気が付けば二人目の人の後ろに人がいた。
これで三人。
いや、まだいるな。
どんどん増えてる、止まらない。
何人いるんだこれ!?
百以上はいるぞ…。
「またここに来てしまいましたか…」
一番前にいた何者かがやっとしゃべりだしたと思ったらわけのわからないことを言い出した。
「どういうことですか?」
「いえ何も。こちらが出口です」
なんと真っ白なドアが突然とそこにできていた。
これが出口?じゃあ帰れるのか?
でも不思議なことがいっぱいだ。
この人たちは一体?
「そ、その前に聞きたいことが何個か…」
「聞いても意味がありません。どうせ忘れてしまうので」
「そうなんですか…」
「さあ、入ってください」
僕は導かれるがままに出口に入っていく。
この出口を出ればまたアイリのもとへ…。
「また僕はあなたたちに会えますか?」
忘れると言われたのに僕は質問せずにいられなかった。
けど知りたかった。
なぜか僕は会って間もないこの人たちのことが気になって仕方がなかった。
「いえ、わたしはもういなくなります。次会うことがあれば私の後ろの人が対応します」
いなくなる?なんでいなくなってしまうんだ?
「できれば次もこちらに来ないことを心から願っております」
「え、あ…」
僕はいつの間にか出口へと入っていた。
聞けない。
でもこれは言わないと
「あ、ありがとうございました!頑張ります!」
「はい、応援しております」
そして僕は白い光に包まれた。




