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スコップ・スコッパー・スコッペスト with魔眼王  作者: 丁々発止
1章 スコッパーと魔眼王
35/65

エピローグ

 果てもない闇が続く空間に、今は光が溢れていた。

 まるで満天の星空に飛び込んだかのように、上も、下も、右も、左も、見渡す限りの場所から光の粒子が立ちのぼっている。

 幻想的で美しく、しかし、どこか作り物めいて見える景色の中で、ただ黙々と歩を刻む。

 光の粒子を掻き分けるように、一歩、また一歩と。

 熱心に足を動かしているが、別にどこかを目指しているわけじゃない。

 ただなんとなく、気がついたときには歩いていたから、そのまま歩き続けているだけだ。

 どれだけの時間、歩いているのかは自分でも分からない。

 永遠のように長く歩いている気もするし、まだ歩き始めたばかりのような気もする。

 時間も目的も何もかも曖昧なまま、黙々と飽きもせずに歩いていると、ふと、そうした覚えもないのに、いつの間にか足を止めていたことに気づいた。

 理由が分からず首をひねっていると、いつからそこにいたのか、目の前に、見覚えのある真っ黒い巨人が立っていた。

 巨人は、顔の真ん中にポッカリ空いた空洞を、恨めしげにこちらに向けていた。


「――なんだよ」


 思わず声をかけたが、そいつは何も答えることはない。

 ただジッと、ポッカリと空いた暗闇を向けてくるだけだ。

 しばらくそんな調子で見つめ合っていたが、やがて巨人はフイッと顔を逸らすと、こちらに背を向けて、そのまま立ち去っていく。

 どこに――と思っていると、立ち去る巨人は光の粒子に呑まれるように消えていき、そのまばゆさに一瞬目が眩んだ。

 視界が戻ったときには、巨人の姿は既になく、周囲を満たしていた光の粒子も、役目を終えたかのように、どこか一方に向かって流れ始めた。

 常闇の中を、上でもなく、下でもなく、右でもなく、左でもない。そんな、どちらでもない場所に向かって、光は渦を巻きながら流れ込んでいく。


 世界とは、先ではなく奥に続いている。


 昔読んだ本に、そんなことが書いてあったのを思い出した。

 だったら、この光が流れ込んでいるのが、その奥なのだろうか。

 流星群が形作る渦を見つめながら、そんなことを思った。

 あの渦の奥には何があるのだろう。

 気になったまま、そこを覗き込もうと眼を凝らし、

 そして――――


 奥にいたナニカと眼が合った気がした。


 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ……


 ぼんやりとまぶたが開いた。

 何か夢を見ていたような気がするが、いまいち思い出せない。

 なんとなく、思い出せそうで思い出せない感じがスッキリしないが、夢なんてそんなものかもしれない。

 それよりここはどこだろう。

 視線を巡らせて確認できるのは、雑多。そういうしかない部屋だった。

 というか部屋……なのか?

 まあ、これを部屋と呼ぶとしてもゴミ屋敷の類いだろう。


「――ようやっと起きたかい」


 俺が寝ぼけまなこで周囲を探っていると、部屋の扉が開き、声をかけられた。

 声の主は見知った人物。魔道具屋の主人アガーテ婆さんだ。

 なるほど、ここは婆さんの店らしい。言われてみれば、この汚さは見覚えがある。


「起きたならさっさと帰りな。もうとっくに閉店時間は過ぎてるよ」


 そう言いながら、婆さんは俺が寝ていたベッドの横に、椅子を引いて座った。


「……怪我人には優しくしろよ」


「なにが怪我人だ。怪我はとうに治ってるだろう。あんたはただ寝坊助だよ」


 言われて左腕を見る。

 左腕はサイクロプスにへし折られたはずだが、その形跡はない。普通に動くし、痛みもない。他の傷も同様。満身創痍だったはずだが、今は快調と言ってもいい。体が少しだけ重いが、それは怪我や体調のせいじゃないことは分かっている。


「そもそも、俺はなんでここにいる? ……つーか、なんで生きてる」


「その子に感謝するんだね。あたしは直接見たわけじゃないけど、その子がすぐにポーションを使ってくれなかったら、あんたは今ごろこの世にいないって話だよ」


 ポーション? ああ、そういえば一つ使わずに残しておいたんだった。

 あれのおかげで助かったのか。


「ルーリエが俺をここまで?」


「いんや、あんたを担いで来たのはラエルの坊やだよ。話もあの子から聞いた」


 ラエル? ああ、ドライフルーツの露店商か。

 わざわざ担いできてくれたのか。相変わらずお人よし極めてるな。


「聞くところによると、あんた達『魔鉱窟』を攻略したらしいじゃないか」


「落とし穴から上がってきただけなのを攻略って言うんなら、そうかもな」


「『魔鉱窟』は今までボスモンスター自体発見されてなかったからね。それを未踏破区域で見つけて倒したっていうなら、それはもう攻略さ。今ごろ冒険者ギルドも騒ぎになってるだろうね」


 なるほど、確かに言われてみれば、そういうことになるのかもしれない。

 てことは、俺とルーリエは今まで誰も攻略したことのないダンジョンを、一番に攻略したってことか。

 なんか感慨深い気もするが、それよりも、


「……それって面倒事になったりしないよな?」


「あんたの言う面倒事ってのが何を指してるのかは分からないけど、あんたの周りで騒ぎが起きるって意味で言ってるんなら――そりゃあ、なるだろうね」


 マジかよ、面倒くせえな。

 今、俺の眉間にはシワが寄りまくっているだろう。


「……俺らが攻略したなんて黙ってりゃ分からないだろ。証拠もないし」


「あんた達は夕方の混み合ってる時間に、ダンジョンの入口に転移してきたらしいから、目撃者は腐るほどいるだろうさ。それ以前に――」


 婆さんがジッと俺の顔を見る。


「……なんだよ」


「気づいてないのかい?」


「なにがだよ」


「あんたの名前だよ。ネームウィンドウ見てごらん」


 は? 名前? 名前がなんだって――


名前:【魔眼王】継人(つぐと)

職業:Fランク冒険者


「――――は? ……魔眼王? なんだこれ……」


「それは『称号』だよ」


 称号? 称号って、あの地位や名誉なんかを表す、あれのことか?


「まあ、なんて言うのかね。世界に与えられたスキルなんて言われたりするけど、実際にそれがなんなのかは神のみぞ知るってところだね。ただ一つ言えることは、称号ってのはとてつもなく強力なスキルで、それを持つ奴は稀だってことさ」


「…………めずらしいスキルってことか。それがあったらなんかマズイのか?」


「普通欲しくても手に入るものじゃない。称号持ちの冒険者なんて超一流どころの中でも、さらにごく一部だけ。つまり、ダンジョン攻略云々より遥かに目立つってことさ。降って湧く面倒事なんてそれこそ星の数だよ。称号はネームウィンドウに強制的に表示されるから隠しようもないしね」


 なんだそりゃ。強力なスキルとか言われて一瞬喜んだのに、まるっきり罰ゲームじゃねえかよ。

 大体強制表示ってどういうことなんだよ。こんなもんが名前の横にくっついてたら、俺が魔眼使いだってバレバレになるだろうが。なんで奥の手さらしながら歩かなきゃならないんだよ。

 駄目だ、頭痛がしてきた。思わず頭を抱えそうになる。


「…………タグ無しを貫けばなんとかなるんじゃないか?」


「あんた一人だけなら好きにしなって言うところなんだけどねえ……」


「俺一人なら? どういう意味だよ?」


 婆さんが俺の胸を指差す。

 そこにはルーリエが、ひしっとしがみつき、すぴぷー、と呑気な寝息を立てていた。

 つーか、さっきから重いんだよ。こいつはなんで俺の上で寝てるんだ。……て、マジか。こいつ人の上に涎垂らしまくってやがる……!


「……ルーリエがどうしたって?」


「察しの悪い小僧だね。ネームウィンドウだよ。見てみな」


 ――は? おいおい、まさか冗談だろ……?


名前:【スコッパー】ルーリエ

職業:借金奴隷『レーゼハイマ』所有


 …………まさか、これも称号なのか?

 ルーリエにも称号が……。

 いや、にしても、これは……。


「――ふっ、ふは、ははは」


「笑い事じゃないよ」


「いや、笑うだろ。なんだよスコッパーって」


 スコッパーっていうのはあれか。スコップ使いということなのだろうか。

 称号が世界から与えられたものだというのなら、一体、世界って奴は何を考えているのか。

 いや、ピッタリだけどな。こいつはなぜかスコップが好きみたいだし。俺がスコッパーじゃなくて良かった、と心底思っていることはこの際置いておいても、ルーリエならきっと喜ぶに違いない。


 本当にこいつを見ていると細々としたことで悩むのが馬鹿らしくなってくるな。

 いや、そうか。そうだな。はじめから悩む必要などないのだ。俺はもう、あのとき、ルーリエと共に冒険者をすると決めたときに、すでに答えを出している。


「――はぁ、まあいいさ、あたしゃ関係ないしね。あんた達のことはあんた達が考えればいい。……あとうちは宿屋じゃないんだからね。その子が目を覚ましたら、とっとと帰るんだよ」


 いつまでも笑っていた俺に呆れたのか、婆さんは溜息をつきながら、部屋から出ていった。


「クックックッ」


 まあ確かに、このあと色々面倒事が待っているんだろう。

 命からがら生き残ったばかりだというのに、忙しないことこの上ない。

 きっとこれからも困難に見舞われ、今回のように死にそうな目にもまた遭うのかもしれない。

 だが――、


 眠りこけるルーリエの頭を撫でる。

 相変わらず、ふわふわで柔らかい髪だ。


「それがどうしたってんだ」


 俺はもう退かないと、媚びないと、立ち向かうと、そう決めたのだ。

 たとえ、それがどれほど困難な道だったとしても、まっすぐ進むと。

 この小さな相棒ルーリエと一緒なら、そんな無茶な道だって切り開いて――いや、掘り進めていけそうな気がする。

 なにせこいつは世界に認められた【スコッパー】なのだ。

 穴を掘らせたら右に出る者はいないに違いない。

 もし、それを邪魔する奴がいたら俺の出番だ。

 この【魔眼王】が睨みつけて黙らせてやるさ。


「それでも足りなきゃ、もっと強くなればいいだけだ」


 すぴぷー、と呑気に響く寝息に耳を傾けながら、つられて自分のまぶたが再び落ちるまでの間、これからのことを思い、ふわふわの髪をずっと撫で続けていた。

一章終了時ステータス


名前:【魔眼王】継人

種族:人間族

年齢:17

Lv:24

状態:‐


HP:756/756

MP:740/740(+34)(+10)

筋力:36

敏捷:34

知力:31

精神:37


スキル

【体術Lv3】【投擲術Lv2】【食いしばりLv1】【魔力感知Lv2】【魔力操作Lv2】 【言語Lv4】【算術Lv3】【極限集中Lv1】【毒耐性Lv1】


ユニークスキル

【呪殺の魔眼Lv2】【真理の魔眼Lv1】【重圧の魔眼Lv1】


装備:達人の鋼鉄のナイフ+1【見切りLv2】

  :ステータスタグ【アカウントLv1】【システムログLv1】



名前:【スコッパー】ルーリエ

種族:羊人族

年齢:9

Lv:20

状態:‐


HP:682/682

MP:586/586(+34)(+99)(+10)

筋力:29

敏捷:35

知力:15

精神:37


スキル

【羊毛Lv2】【聴覚探知Lv3】【無心Lv1】【解体Lv2】【掘削Lv3】【魔力感知Lv1】【魔力操作Lv2】【言語Lv2】【算術Lv1】【料理Lv1】


ユニークスキル

【スコップ術Lv1】


装備:力漲るアイアンスコップ+1【剛力Lv2】

  :宝物庫の金貨の指輪+2【アイテムボックスLv3】

  :ステータスタグ【アカウントLv1】【システムログLv1】

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