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観光地と鳥

 昨日の様々な珍事のせいからか、昂った感情が冷めぬまま早くに目が覚めてしまった一同は朝食を終えると、ウルタプを交えてポウナム石探し旅行の計画を立てるため、ウッドデッキに出ると楕円形の大きなテーブルを囲んでいた。

 早起きの鶏達が、人間の食事のおこぼれにあずかろうと、素知らぬフリをしてカイ達との距離を縮めていると、アヒルや他のライバルも集まり始めた。

 鳥の囀りと時折聞こえる仔牛、仔羊の愛らしい声が風に乗ってカイ達の耳元に届くと、その場の雰囲気を和ませる。

 

「さて、次は何処へ行けばいいのですかな」

 発言を躊躇してしまう会議のような空気にアリが切り込みを入れる。

「南島や」

 たっぷりとチョコレートパウダーを振りかけたカプチーノの泡を、スプーンで少しずつ食べるウルタプが視線をカップから外さぬままで答える。

「南島? え? もう北島にはないってことか?」

 子供のように足をバタつかせながらカップを手に取り満足気にコーヒーを口にふくむウルタプにカイが尋ねると、彼女がコクリと首を縦にふる。

「じゃあ、北島の旅はここで終わりってこと?」

 レイノルドも視線をウルタプが持つカップに合わせると、残念そうに言葉を零す。

「最北端とかロトルアとか行きたかったな」

「でも南島も沢山観光地があるよね」

「クイーンズタウンとか有名だよな」

「名目上留学で来た私達にはそんなに時間がないし、南島に行っちゃうのもアリかもね」

「あ~でもロトルアの温泉には入ってみたかったね」

「だねぇ」

 今まで静かだった結月達だが、観光巡り話に花を咲かせ始めると、本来の目的であったポウナム石探しについては、彼等の脳裏から消え去ってしまう。

「温泉なら、もうちょっと北に行った所にあるよ」

「え? そうなの? 行ってみたーい」

「ゴホン」

 目の前にあるコーヒーカップを空にしたウルタプは紙ナプキンで口周りを拭くと咳払いで皆の会話を止める。

「あんたら観光したいなら、カイとうちでポウナム探すから、ここから別行動にしよか。幸いアオテアロアは何処でも森があるし、カイとうちだけの方が移動が簡単やしな」

「・・・」

 ウルタプの口調は決して厳しくはなかったが、何故か皆は黙り込むと俯き加減になってしまう。

「ダメだよ。僕も一緒に行く」

 レイノルドは両手の拳をデッキテーブルに置くと硬い意思を伝えるように強い目でウルタプを見つめた。

「私だって・・・ 観光はしたいけど、カイのポウナム石探しの方が大事だもん」

 結月も顔を上げると力強く主張する。

「儂もカイを放っておく訳にはいかぬ」

「ポウナム石が全部見つかったら、何か起こるかもしれねぇから興味あるし、俺はウルタプ様のお供したいしなぁ」

 壮星は両手を頭上で組むとデッキチェアーの背もたれに身体を預けた。

「でもさぁ、せっかくニュージーランドに来たんだから、色んな所に行って欲しいしな」

 結月達を想うカイは何か良策がないか考えを巡らせていると、ウルタプがスプーンでカップを叩く音がテーブルに響き渡る。

「温泉って、ナワでもいいか? ロトルアはな、間欠泉の力やら色々とキマリがあって移動でけへんけど、ナワなら、しゃーない連れて行ったるわ」

 ウルタプの提案に一番最初に反応を示した壮星は目を輝かせるとテーブルに身を乗り出した。

「もしかして、また瞬間移動してくださるんですか?」

「そうや」

 自慢げに顎を上げるとウルタプは短く応える。


 日本と同様に火山国であるニュージーランドでは各地に温泉が点在する。ロトルアの泥温泉や、南島のハンマースプリングスなどが有名だが、地元民に愛される小さな温泉地も数多くある。また有料の温泉地に加えて無料の温泉もあり、ロトルア郊外にあるケロセンクリークやタウポ町のSpa Thermal 公園内の川沿いに沸く温泉、オークランド沖にあるグレートバリア島の大自然に囲まれた無料の温泉が有名である。


「じゃあさぁ、90マイルビーチは? 90マイルビーチにも日本の鳥取砂丘みたいな所があってさ、結月達と砂滑りしたい」

 ウルタプがカイの方へ視線を移すが、カイはその険しいさに気付かず結月達に90マイルビーチの説明を始めた。すると、ウルタプの眉間にシワが入る。

「ほら、イルカが来てたって言う歴史のあるビーチ、何だったっけ? えーと、あっオポノニとかも面白いと思うぜ。ここからは直ぐだし」

 黙ってカイの言葉を聞いていたウルタプの鼓動がドンドンと大きくなっていくのが聞こえないカイは話を続ける。

「ベイオブアイランドではイルカと泳げるけど、時間がなかったらクルーズするだけでもいいし、ワイタンギで条約締結も学べるしな」

 カイは頭上に結月達との楽しい風景を描くとウルタプとは違う意味で胸を高鳴らせた。

「カイはさっきから何を言うてんねや?」

「え、ほら、ナワ温泉以外にも連れて行ってくれたらいいなぁって。皆も思うだろ?」

 その場に居るカイを除いた全員は、渋面顔を見せるウルタプに気付いていたため、カイの呼び掛けに望みを口にするのを躊躇すると、結月達の口元が一文字になってしまう。

「はぁ――」

 ウルタプは一つ大きな溜息をつくと呆れ顔をカイに向ける。

「え? 駄目か?」

「アカン」

「何で?」

「砂丘で遊んで、温泉入って、ワイタンギ寄って、時間が掛かり過ぎや。南島に行く前にワイトモケーブに寄らなアカン。ワイトモからロトルアはそんな遠くないしな」

 暫く黙っていた凜がウルタプの言葉に反応すると、手元にあったガイドブックを開いた。几帳面な凜はガイドブックに付箋を貼っており、予め訪れたい場所が直ぐに見付けられるようにしてあるのだ。

「ワイトモケーブって、グローワームで有名な所よ。行ってみたいと思ってた」

「あ、洞窟に入ったら、土ボタルで綺麗だって所?」

 結月が思い出したように凜のアイデアに付け加える。

「そこ、俺も行ってみたかった所だ」

「ワイトモケーブの近くのルアクニケーブもいいよ」

 結月達がワイトモケーブで盛り上がることで若干顔のシワが消えたウルタプの様子を伺いながらレイノルドが付け加えた。

「じゃあさぁ、ナワ温泉に行ったら南に下って行くのでいいのか?」

 ウルタプに気兼ねしないカイだが、反面、結月達を気遣う彼は皆の希望を代弁しようと案じ顔を見せる。

「ポウナム石を探すのに南島に行けるんだし、大丈夫よ」

「ホントに良いのかぁ・・あ、でも、せっかくここまで来たんだしさ、せめて最北端のケープレインガには行こうぜ」

 先程まで難しい顔でカイ達の会話を聞いていたウルタプの態度が急激に素に戻ると、視線を落とした。

「そこへは行かんでええ事を祈っとき」

「え?」

 小さく零したウルタプの言葉に深い訳があると感じ取ったカイは、それ以上問う事を止める。一瞬その場が静かになると、長閑なファームからの澄んだ音色がテーブルに再び戻って来た。

「ねぇ、あの青い鳥ってもしかして、絶滅危惧種のニュージーランドにしかいない飛べない鳥?」

 いつの間にか鶏のライバルは増えており、その中に赤い嘴を持つ青い鳥が加わっていた。

「よく似てるけど、あれはプケコだよ。凛が言ってるのは、タカへだね」

「タカへ? プケコ?」

 凛だけでなく結月と壮星も興味を示すと鳥達を眺めた。

「タカヘは絶滅したって思われたほど貴重な鳥でさ、保護活動をしている今でもまだ500羽もいないんじゃないか。オークランド動物園で見れるぜ、あと無人島や国立公園で保護してるって聞いたな」 

「赤い嘴でプケコに似てるけど、青緑の輝くような羽ですごく綺麗な鳥だよ」

「そうなんだ」

「キウイバードもだけど、飛べなくても大丈夫だったほど、人間が来るまではニュージーランドって平和な島だったんだね」

「だなぁ」

 結月達は牧草地の向こう側に広がる山々に視線を移すと各々に想いを馳せた。

「じゃあ、あの鳥も飛べないの?」

「プケコは飛べるよ」

「昨日、牧場歩いている時に私達の回りで飛んでたフレンドリーな鳥はなんだったっけ?」

「あれは、ファンテイルだな。尻尾が扇みたいでさ、特徴的だっただろ」

「人が歩いた後に飛び出る虫とかを捕まえようと人間の回りを飛ぶんだよ」

「そうなんだ。凄く可愛かった」

 結月達が鳥の話で盛り上がっていると、まるで彼女達が呼び寄せたように突如綺麗な青い鳥がデッキテーブルの上に降り立つと全員の視線を一遍に浴びる。

「ウルタプ様、居場所が分かったで」

「・・・・」

「えええええっ!」

「鳥がしゃっべったっっっ!」

 驚きで皆一斉に飛び上がると、次々に重いデッキチェアーがぶっ倒れた。


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