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#2. 計画

マクシミリアン・ド・ロベスピエール。


ジャコバンの執事にして、恐怖政治の象徴。


革命家が独裁者へと変わった典型――そう呼ぶ者もいる。


私が知っていたロベスピエールは、その程度の、薄い肖像だけだった。


彼を本格的に学んだことはないし、学ぶ理由もなかった。


私は歴史家ではない。


だから御者が押しつけるように渡してきた小冊子は、高校の教科書以来の、私にとって最初の「ちゃんとした」ロベスピエールとの出会いになった。


薄暗い部屋に閉じこもり、滑稽で不気味な成り行きと小冊子だけを相手に、私は頁を開いた。


最初にこぼれた感想は、不作法もいいところだった。


「……これが、革命思想?」


眉間に皺が寄っていることに、しばらくしてから気づいた。


拙い文でも、腰の引けた弁舌でもない。


死刑の廃止、法の下の平等、世襲差別の撤廃、人種平等と信教の自由、連座の禁止、普通選挙、公職資格の撤廃――。


二十一世紀という、うるさく“現代的”な視点から読めば、それは過激な檄文ではなく、「痛いほど当然」な権利目録に見える。


私は三つの大原則のどれか――私有の否定、直接民主制の断行、国家そのものの解体――が、少なくとも一度は顔を出すと身構えていた。


代わりに目にしたのは、今の目からすれば、驚くほど穏当で、むしろ日常的な計画だった。


「違う。そうじゃない」


ロベスピエールの急進が弱いのではない。


私がいた世界の側が、すでにその急進を前提にしてしまっている。


拍子抜けしたのは、ロベスピエールが急進的でないからではない。


近代の民主主義が、いくつかの点で彼の急進を「日常」にまで薄めてしまったからだ。


では――問われるのは、私という、よりにもよってロベスピエールになってしまった人間の側だ。


天は、私をここに置くことで、革命期フランスに民主主義を定着させよとでも?


それは私ではない誰か――英雄的な教育者か、老練な政治家に似合う任務だ。


ついさっきまで昼寝と薄っぺらい反骨に満足していたソファ常駐の院生には、似合わない。


皮肉と残酷を好む神でなければ、こんな怠け者を渦中へ放り込むものか。


仮に、何か超越的な手が悪意でも設計でも私を置いたとして、だからといって公益の殉教を義務づけられる謂れはあるのか。


外では、群衆がまだ叫んでいる。


「王を殺せ!」と、掠れた声の合唱が止まらない。


私の殉教など、ばかばかしいにもほどがある――そう思うと、苦い笑いが勝手に漏れた。


なぜ私が、フランスのために身を捧げねばならない。


ここは私の祖国ではない。


ロベスピエールは、ようやく数時間だけ「私」になったばかりだ。


生存の計算を誠実にやるなら、勧められるのは英雄ではなく用心だ。


だから、決めた。


「まず生きる」――そう自分に言い聞かせた。


向こう見ずに高潔ぶっても意味はない。


生きていなければ、後の選択を買う通貨すら持てない。


当面の戒めは、慎重でいく。


小冊子の隅にペン先を走らせ、ぶっきらぼうに書きつける。


「プランA:破棄」


小さな裏切りと、大きな安堵が同時に胸に落ちた。


アメリカ――プランAは消す。


新世界への逃亡は、たしかに完全な逃げ道に見えた。


だが、ロベスピエールとしては消えられない。


名も顔も交友も、消失を不可能にする。


共和の情熱で知られているほど、逃走は脱走に、あるいは王党との通謀に読まれる。


王が逃げ、代議士も逃げる――そんな見出しは、もう車輪に乗って走り出している。


「プランB……」と次を書き足す。


ナポレオンを保険にするのは、どこかロマンがある。


恐怖政治を生き延びられたなら、やがて昇るコルシカ人の星の下で、保護を得られるかもしれない。


だが、それも危うい賭けだ。


歴史の弧が気まぐれなのは、よく知っている。


若き士官を支えた結果、私は同盟者として抱きしめられるか、旧い共和派の遺物として袖にされるか、不都合な残滓として消されるか――どれになるか、今の私には読めない。


「なら、プランC」


不名誉の撤退、失脚の末の亡命、みじめでも生きている結末――多くの落魄れた革命家が踏んだ道。


英雄的でないが、正直な選択だ。


だが亡命にも刃は潜む。


多くの過激派が、試みの途中で首を短くした。


結局、臆病者の私に似合う最良の術は、「やり過ごす」こと。


漂い、耐える。


官僚の生存術――最低限をこなし、宥められない敵は作らず、嵐が別の方向へそれるまで頭を低くする。


臆病者の計画だ。


それ以上でも以下でもない。


だがいまは、殉教より臆病がましだ。


私は肩をすくめ、「計画:この場で生き延びる」と書いた。


あとで舵は切ればいい。


運が向けば逃げ、分別が呼べば踏みとどまり、必要が迫れば撃つ。


差し当たり、目先の数日は稼げる。


王の逃亡が成功か失敗か、まもなく決着がつくはずだ。


歴史書どおりにいくなら、王と王妃の運命は遠くない。


ドアがノックされた。


「お風呂、湯が入りましたよ」――女主人の娘が、革命の最中でも生活は回すと言わんばかりの明るさで声をかける。


「いま行きます!」と返し、私は運命の巨大さのあとに続く、小さな家事のありがたみを覚えた。


束の間でいい。


日常へ足を戻す。


名はロベスピエールでも、借間のぬるい風呂とささやかな安堵までは手放したくない。


少なくとも、生き延び、いまの人生の意味を問い直す時間を確保すること――それ自体が、自由への忠実の一形かもしれない。


それでも、服を脱ぎ、ぬるい湯へ沈みながら、心の中でぼやかずにいられなかった。


---


昼近く、正午の少し前。


「王夫妻が捕まったって?」


「らしいな」


その朝の私は、馬車を呼ぶ気にもなれず、あるいは呼ぶのが怖くて、パリの街を歩いて議場へ向かった。


国民議会で耳にした報せは、驚きでも感動でもない、予定調和の一報だった。


「御者たちだよ、もちろん」


ダントンは、広間の隅々まで満たす太い笑い声で言った。


「いつだって同じさ――下々の胸にある自由が、僭主の息の根を止める。皮肉だろう、ロベスピエール。最も尊大な魂が、自分より卑しいと見なした者たちに打ち倒されるなんて」


私は薄く笑ってみせた。


これがジョルジュ・ダントン――コルデルリエ派の実務の獅子、社交的で、危険で、無視できない男。


この段階の革命では、ジャコバンはまだ後年のような一本槍の急進派ではなかった。


立憲王政派も、穏健共和派も、過激派も同席する、政治サロンであって、機械ではない。


ダントンの巣たるコルデルリエは、ジャコバンと人も重なれば、いつも衝突もした。


理性を語るのがジャコバン、飢えを叫ぶのがコルデルリエ。


片や知の貴族へ、片や群衆へと身が傾く。


だが、そんな区分さえ、今日の滑稽な事実の前では色褪せる。


――一日?


瞬きをする。


王の逃亡は、一日とももたなかった。


追い詰められたブルボンの威光がやっとのことでやったのは、宿駅と農民に引きずり戻されるまでの、たった一夜の旅路。


「情けない」


私はつぶやいた。


「王冠を失うのも無理はない」


ダントンが私の表情を捉える。


「嬉しそうには見えないな、市民」


「嬉しいわけがない。


必然だった」


「どうしてそう言える?」


声音に計る気配がある。


打つ前に測る男の、礼儀を装った試金石。


薄く、断頭台の匂いまで混じる。


私は肩をすくめ、単純な論理家を演じる。


「昨日、私に『家にいろ』と言ったのはあんただ。つまり、何か筋書きがあると分かった。自分の馬車まで貸すのが、その証拠だ」


彼の眉が寄る。


私は即興の筋を、そのまま押し通す。


「フランス王はオーストリア国境に向かった。こんな混乱では、代議士は修道院へ、サロンへ、密会へと散る。だが、清廉なるロベスピエールがどこにも姿を見せないとなれば、人は何を疑う?狂気か、裏切りか、絶望か。あんたはその疑いから私を庇った――そういうことだろう。礼は言うよ、ダントン」


彼は含み笑いをし、首を振った。


「相変わらず理屈っぽい。だが認めるだろう?民の魂は壮麗だ。裏切った者を、裏切られた者が捕らえる。詩だよ、詩」


「認めよう」


私は軽く応じる。


「昨日のお前は詩情には見えなかったがな」


彼は茶化すように言った。


「何時間も虚空を見つめていた。悲嘆で気が触れたんじゃないかって声も出た。はは!ヘーベルでさえ、『王がパリを見捨ててやっとロベスピエールの頭が壊れた』ってな」


歯を噛む。


言い方が軽すぎる。


また測っている。


「まさか今さら王に情けをかけるつもりじゃないだろうな?」


ためらいの匂いを異端の臭いと嗅ぎ分け、獲物に変えるのが連中の常套だ。


反発を返しかけて、私は息を吐き、顔を平らに整える。


ただの戯れかもしれない。


忠誠の試しなのかもしれない。


あるいはダントン自身、私を敵と見るか味方と見るか、まだ決めかねているのか。


「かもな」


私は言う。


「情けは、感じたのかもしれない」


彼の目が、正直さにわずかに揺れる。


「市民ルイは、戦場から逃げた。臆病者の選択だ。弱い男の選択だ。いずれ人民は、彼が踏みにじった憲法の名において裁くだろう。だが、哀れみなら――ある。それは否定しない」


私は薄暗い広間越しにダントンの眼差しを受け止める。


「死にたい者はいない。王でさえ、断頭台は怖い。だが、慈悲と正義は敵同士じゃない。私は彼を裏切り者として断罪できるし、同時に、一つの命が無駄にされることを悼むこともできる」


ダントンは背凭れに身を預け、口の端をわずかに上げた。


「言い過ぎたな。お前はやはり革命の機械だ」


「褒め言葉として受け取っておく」


「褒め言葉さ。パリ中の女の誰一人、お前の首を振り向かせられないんだからな。美を退ける男は、徳に嫁いでいるに違いない」


また笑う。


だがその笑いの下に、私は別の調子を聞き取る。


人を死地へ送る前に、よく使う調子。


「まあ……そんなところだ」


私は薄く笑って返す。


ダントンは顎を掻き、ため息をついた。


「清廉はお前に任せるとしてだ、マクシミリアン。気をつけろ。ヘーベルは昨日から舌を研いでる。あいつに気をやられるなよ」


「可能なのか、それ」


「はは!無理かもな。だが用心しろ。マラーの熱、ヘーベルの罵声、そしてこの俺の癇癪――議会はもはや議会じゃない。狂人病棟だ」


彼は私の肩を叩いた。


友情の合図か、力の誇示か。


背を向けるその背に、またあの混じり気を感じる。


豪放と殺気が、同じ皮膚の内側に同居している。


今日抱きしめて、明日には告発する類の男。


刹那、私は思う。


結局、誰が誰を断頭台へ送ったのだったか。


「革命の機械、ね」


喉の奥でつぶやく。


「もし本当に知っていたら」


それでも、その言葉は胸に残った。


彼なりの賛辞だったのかもしれない。


私が役に馴染んだと思ったのかもしれない。


だが違う。


私はロベスピエールではない。


別世紀から流れ着いた魂であり、ライオンの巣に紛れ込んだ偶然の替え玉だ。


やがて、議長の声が広間に響いた。


「市民諸君、開会する」


私はためらわず席に向かう。


誰に指示されたわけでもないのに、群衆が本能のように道を開ける。


左側。


やがて世界中の議場を名指すことになる、その側。


私は両手を背に組み、平静の肖像を纏って腰を下ろした。


誂えたように体に馴染む椅子。


いや、運命という名の仕立て屋が、最初から私のために縫っていたのかもしれない。


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