ダルタニアンの軍略
本土に帝国の大群が押し寄せてきたとあって。急きょ編成されたリエール公国の軍は進軍中の帝国軍に野戦を仕掛けた。
リエール側指揮官「帝国の隊列が整う前に騎士団は右翼から突撃、鶴翼の陣で押し潰せ!」
しかし、帝国の新型小銃と十分な野戦訓練を受けた練度の高い将兵を前に、リエールの奇襲的野戦は返り討ちに遭い、2割を失う大損害を被った。
アレス「正面で当たるのは分が悪いな。」
ブリッジ「どうします?夜襲を仕掛けますか?」
アレス「それもありだな。少数で敵の補給基地をたたこう。」
初戦で敗退したリエールの軍は商業都市まで後退し、籠城の構えを見せた。
その商業都市には避難していたサヤ姫やダルタニアンもいた。
円形の城塞の形をしていた商業都市は確かに守るには適していたかもしれない。
ダルタニアン「……」
サヤ姫とともに避難した部屋からダルタニアンは難民キャンプを見をろしていた。
初めて、アレスに声をかけたのを昨日のことのように思い出す。
サヤ「ダルタニアン、指揮官に会いに行くぞ?」
ダルタニアン「?何かいい案でも?」
サヤ「そんなもんはない、専門家じゃないしな!ここを抜けられると首都は目と鼻の先、まとまった数の軍もここのだけだ。どうするのか聞きに行くのじゃ。」
借りの指揮所にリエールの指揮官たちや騎士団が集まって今後、どう動くかを軍議していた。
そこへ、サヤとダルタニアンが入ってきた。
サヤ「この国は絶体絶命だぞ!貴公ら、どうするつもりか聞こうではないか!」
サヤ姫は内心焦っていた。
いざとなれば自分を人質に和平を申し入れる覚悟だった。
指揮官「これはこれは、姫様。」
アレス「正面突撃は不可能です。ここは籠城し、同盟国からの増援を待つべきかと。」
ダルタニアン「それじゃ、ジリ貧だ。本当にその同盟国は増援を送ってくれるのか?」
ダルタニアンの疑問に騎士達は黙った。正直、他国からの増援なぞ希望的観測、希望薄な事だった。
ブリッジ「じゃぁ、お前はどうする?仮面の。」
ダルタニアン「一計を案じましょう。敵は我が方が籠城すると思っている。長期戦を想定するはず。」
アレス「うん。そうだろうな。」
ブリッジ「塹壕戦か。」
ダルタニアン「なので、打って出るのです。」
指揮官「しかし、塹壕となると、こちらも手が出せんぞ。」
騎兵と備え付けの城塞都市の砲、わずかばかりの旧式野砲……
ダルタニアン「新型小銃の威力、練度の高い将兵。敵は初戦の勝ち戦でコチラを甘く見ているはず、塹壕構築に多くの将兵を割くでしょう。」
アレス「それから?」
アレスは軍略のことになると、よく喋るダルタニアンをまるで自分の子供のように楽しそうに見ていた。
ダルタニアン「俺が単騎で仕掛けます。騎士団はドラグーンを先頭に機動力を生かして反対側から奇襲。一気に敵陣にくさびを打ち込みます。そこを本隊でたたきましょう。」
サヤ「単騎がけ?!無謀ではないか?!」
ダルタニアン「お任せください。必ずや、帝国の喉元に噛み付いてやります!」
ブリッジはアレスに耳打ちした。
ブリッジ『奴の魔法剣ですか?』
アレス『帝国の偵察部隊をバラバラにしたやつだ。信用しよう。』
帝国側
ジュリアス「参謀、どう見る?」
参謀「あー、アイツラ籠城する気でしょうな。こちらの新型小銃の有効射程距離に恐れをなして。」
ジュリアス「だろうな。」
双眼鏡で見える商業都市の煙突からはわずかばかりの煙が上がってるだけだ。打って出る様子は見られない。
黒騎士「ここを抜けると王都です。」
ジュリアス「うん。それではこちらもゆっくりと攻めるとしよう。部隊の半分を塹壕構築に回せ。」
参謀「心得ました!」
ジュリアスは今度こそ勝てると踏んで慢心していた。
サヤ「見よ、ダルタニアン。ワシが持ちだした資材の携行食。役に立ったであろう。」
ダルタニアン「焼き払わなくて正解でした。お見事です姫。」
サヤ「フフン、もっと褒めるが良い!」
打って出るということになりリエールの将兵にはサヤが持ち出した携行食が振る舞われた。
一国の姫の差し入れとあって将兵の士気は上がった。
ダルタニアン「では、俺も行ってまいります。」
サヤ「必ず、帰ってこいよ!」
ダルタニアンは力強く頷くと、騎士団のいる詰所に早馬を借りに向かった。
アレス「ダルタニアン。一人で大丈夫か?」
ブリッジ「緊張して落馬するなよ?」
アレス「俺たちもすぐ出るからな。」
ダルタニアン「大丈夫さ。行ってくる。」
騎乗したダルタニアンの背中は大きく見えた。
アレス『デカくなったな。ダン。』
帝国の将兵は武器をおいて、スコップ片手に塹壕を掘っていた。
そこへ帝国から向かって右翼から早馬が単騎で駆けてくる。
帝国兵A「なんだありゃ?」
帝国兵B「時代錯誤の猪武者だぜw」
ダルタニアン『俺がこの国を、サヤを守る!』
何本も剣を腰にぶら下げたダルタニアンはそこから剣を抜いて思いっきり振った。
ブブブブブブ……!
聞き慣れない音がしたかと思うと、
ドォン!
大地とともに体がバラバラになった帝国兵が宙を舞った。
!!!
「敵襲ぅ!」
その叫び声に昼寝をしていた帝国の参謀は飛び起きた。
参謀「敵襲だって?!数は!?」
本陣からもジュリアスや黒騎士が出てきた。
ドォン!
帝国伝令「単騎による強襲、新兵器です!」
ジュリアス「なんだって?!」
参謀「単騎?!撃ち殺せよ!」
帝国伝令「効きません!」
ドォン!
参謀「なして?!」
その間にも、帝国陣地には敵の正体不明の新兵器による攻撃を受け、クモの巣を散らしたような大混乱に陥っていた。
ジュリアス「あんなもの初戦では見なかったぞ?」
しかも、それに連動するかのように左翼からドラグーンを先頭にした騎士団が迫ってきた。
参謀「迎え撃てよ!」
ダメだった。
スコップから武器に取り替えるまもなく、瞬く間にドラグーンの有効射程距離に入られ、抵抗らしい抵抗もできずに騎士団が帝国の陣深くに切り込んできた。
ジュリアス「全軍撤退!」
参謀「うわぁ!ダメだ!」
ドシュッ
参謀の首が飛ぶ。
騎士団は帝国本陣まで迫っていた。
アレス「敵将!討ち取れ!」
黒騎士「この時を待っていたぞ!」
アレス達騎兵の一団がジュリアスに迫る中、黒騎士はデスブリンガーを抜いて立ち塞がった。
ズバ!
魔法剣を無効化するデスブリンガー。
アレスの光波をデスブリンガーで受け、黒騎士はアレスを馬ごと切り捨てた。
アレス「!」
次々と騎乗から斬り掛かってくる騎士を黒騎士は持っていたデスブリンガーでチーズをスライスするかのように切り倒していく。
黒騎士「この隙に、撤退を!」
ジュリアス「助かった!」
逃げるジュリアスを背に黒騎士は次々に向かってくる敵を切り捨てていった。
ダルタニアン「お前の相手は俺だ!」
黒騎士「何奴?!」
ダルタニアンは戦場に突き刺さっていた剣を馬上から拾い上げると、黒騎士に馬を飛び降りながら切りかかった。
ブファ!
ダルタニアンの一振りで黒騎士は次元ごとこの世から消えた。
ガシャ!
剣を持っていた中身の入っていないフルプレートの右手だけ残して。
ダルタニアンの持っていた剣が粉々になる。
ダルタニアン「やった!アレスは?」
大混乱の戦場。
着剣したリエール側の歩兵突撃も始まっていて帝国軍は総崩れの状態だった。
その中で騎士達のアレスを呼ぶ叫び声が、すぐ近くで上がる。
ダルタニアン「!」
ブリッジ「しっかりしてください団長!」
アレス「……ダン、黒騎士は?」
ダルタニアン「仕留めた。」
アレス「ふぷ、さすがだな……」
体を両断され、馬とアレスの血で辺りは血の海だった。
アレス「お願、だ、最後に顔を……」
ダルタニアンは周りの騎士を気にせず仮面を外すと、泣き顔をアレスに見せた。
アレス「なんてツラしてやがるんだ。」
アレスは苦笑した。そして静かに目を閉じた。騎士達やダルタニアンの呼び声がだんだんと小さくなっていく。
ローザ もういいの?
アレス 後は、コイツラがやるさ。
バシャ
アレスの手は血の海に落ちた。
ジュリアスはその後、補給基地にわずかな手勢を連れて退却した。
ジュリアス「何がいけなかった?参謀も黒騎士も討ち取られた。俺の何がいけなかった!」
補給基地のテントで席を叩く。
その時、外が騒がしくなった。
「て、敵襲!」
ジュリアスはまたかと思い剣を抜いて外に出た。
火計。
燃え盛る補給基地の中にブルーリボンのエンブレムを肩にあしらった騎士達の姿があった。
ブリッジ「敵将、投降されたし。抵抗は無駄だ。」
こうして、すぐに帝国側の勝利で終わると見られた侵攻は返り討ちにあい、総司令官、ジュリアスは捕縛され、リエールの大勝利に終わった。
しかし、その代償も大きかった。
ダルタニアン「……砲台陣地。」
アレスを欠き、その半数を失っていた騎士団にはもはや、砲台陣地を攻略する力は残っていなかった。




