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土井さんのお嫁ちゃん  作者: 谷鹿秋
番外編
9/10

本編中・くしゃみと勇気

二話と三話の間のお話。


 冬場の洞穴。

 うとうとと微睡んでいると。


「ーーくしゅんっ!」


 小さなくしゃみに目が覚めた。

 隣を見ると、木の葉を被りながらも身を縮める小花がいて。


「やっぱり葉っぱだけじゃ寒かったかな」


 でも人間が寝る時に被るもの、布団って言うんだけっけ。あんな分厚いものはないし。


 葉っぱをもう少し分厚く掛けてあげることしか思い浮かばない。あるいは俺自身の体温で温めてあげるとか。

 

「それはいくらなんでもダメでしょ」


 人間は七歳になったら男女別に寝るって聞いたことがある。


 でも俺は小花の旦那さんだから一緒に寝てもいいのかな。いやでも、向こうは女の子だし。目が覚めて俺が隣にいたらびっくりするかもしれない。それに小花って言いたいことを言えないような節があるから、本当は一緒に寝たくないのに「気を遣ってくださり、ありがとうございます」なんて言わせちゃったらそれはそれで申し訳ない。


 どうしようかと考えながら、寝ている小花の周りをぐるぐると歩いていたら。


「ぷしゅんっ!」

「!」


 二度目のくしゃみ。


 ダメだ。悩んでいる場合じゃない。このままでは間違いなく風邪を引く。熱にうなされる小花は見たくない。


 (家族を守るために身を張るのが夫の務め!)


 ええい、ままよ!と俺は我が身を投げた。小花と葉っぱの間に身を捩じ込む。


 すると、小さな手がもぞりもぞりと俺の背を揉み。


「ーーもぎゅっ」


 抱き締められた。変な声出ちゃった。


 小花の腕の中。俺は体温を分けるようにそっと寄り添う。


「あったかい……」


 おもむろに漏れた呟きに、ほっと胸を撫で下ろす。規則正しい寝息が落ちて来るのを聞きながら、俺もまた瞼を閉じた。




 雪が止んだ。


 小花を洞穴に残し、俺は自分の祠を見に行く。小屋にも寄ってみるが、天井から雪解け水が漏れているし。埃と寒さとでとても住めたものではなかった。


「やっぱり、布団があった方がいいよねー」

「服はまだし、布団は運べんぞ」

「そこをなんとか」


 他に住める場所がないか探して回っていると、空から紫煙さんが声を掛けてきた。


 彼は木から木へと飛び移りながら、くいっと首を傾げてみせる。


「小狐たちに頼んだらどうかえ」

「狐……、絹と綿のこと?」

「左様」

「絹と綿かあ」


 双子の狐、絹と綿。


 人が捨てた大きな屋敷を改装して住んでいる二人。


 確かに、あれだけ広いお屋敷なら、部屋も余っているだろうし、温かい布団もあるかもしれない。でも。


「絹は俺のこと嫌いだからなー……」


 俺とほぼ同い年の彼らは、おタヌキ様信仰が根付く前に「おキツネ様」と呼ばれていた。彼らもまた、人間の信仰の対象だった。


 掻っ払うつもりは毛頭なかった。

 けれど、絹は人間の信仰を俺に取られたと思っている。


「大体、アレは俺のせいじゃないし。向こうが勝手に言いがかり付けてきただけで」

「家族のために身を張るのが夫の務めと言ったな」

「言ったね」

「それなら、家族のために頭を下げるのもその務め」


 俺が不意に足を止めると、紫煙さんもまた俺より五歩先の木の枝に止まった。翼を畳み、じっとこちらを見つめる。


「人は住処を得るために労して働く。頭一つ下げて寝床を得るなら、安いもんだと思わんか」


 物は考えようってことか。


 正直気は進まない。ソリが合わないヤツと顔を合わせるというだけで、正直憂鬱だった。


 (でも)


 脳裏を過るのは小花の笑顔。目を離したら消えてしまいそうな儚さを覚えるけれど、つい手を伸ばしたくなる温かさを持っている。不思議な子。


 俺はふうと息を吐き、再びを歩進めた。


「ま、案じるより当たって砕けろって感じだよねー」

「砕けてどうする」


 紫煙さんが溜息混じりに飛び立った。

ブクマ、評価ありがとうございます(*´人`*)励みになります*

引き続き番外編執筆中です。今後ともよろしくお願い致します(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)

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