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本編中・ネギと尻尾

四話と五話の間のお話。


「すまないな、綿。手伝ってもらって」

「いいよ。僕が好きでやってるんだから」


 秋空の下。

 人型になった僕は袂を纏めて、じゃがいもを収穫している絹の手伝いをしていた。


「こんなもんか」

「今年はたくさん採れたね」

「まあな。まだ向こうもある」


 乾燥させるために広げたじゃがいもを見下ろし、満足気に頷く絹。


 収穫の秋とだけあって、絹が耕す畑では様々な野菜が採れる。


 じゃがいも、さつまいも、ネギ、にんじん。


 しゃがいもは保存のため日陰へ運び、泥がついたまま乾燥させる。それから家で日の当たらない比較的涼しい部屋に置いておくのが、我が家の通例になっている。


「雲行きを見ると、明日も快晴だからな。仕舞うのは明後日でいいだろう」

「そうだね。じゃあ今日は蒸かし芋にしようか」

「ああ、いいな。収穫したてはしっとりしていてなかなかに美味い」


 僕の話を聞いて、絹はじゃがいもをいくつか籠に入れながら目を細める。きっと春先に食べた新じゃがいもの味を思い出しているのだろう。背の尻尾が嬉しそうにゆらゆらと揺れている。


「土井に人里で鶏でも狩って来るように言おうか」

「何する気」

「鶏とじゃがいもに酒と醤油を入れて一緒に煮込む」


 美味いと思うんだがな、と籠を片手に立ち上がり、眉を顰め考え込む絹。


 絹が作る料理は外れがない。

 味が濃いと舌が痛くて食べられないから、必然的に薄味だけど。食材の旨味が染みていて、噛めば噛むほど味が出る。


「絹って器用だよね」

「!ま、まあな!」


 絹は「なんたって私だからな!綿のためなら当然だ!」と胸を張る。


「食べたいものがあったらいつでも言ってくれ。君のためなら何だって作ってみせるさ」

「うーん、そうだなあ」


 急に言われても思い浮かばないや。


 腕を組んで悩みながら歩いていると、井戸のところで屈んでいる小さな背中を見つけて僕は足を止めた。


「あれ、小花ちゃん」

「何をしているんだ、アイツ」


 僕と絹は顔を見合わせ、どちらともなく彼女の元へ歩き出す。


「小花ちゃん」

「!綿さん。絹さんも」

「何をしている」

「あ、えっと……」


 その背に声を掛けるとこちらを振り返り、それからすっと自分の手元へ視線を落としてしまった小花ちゃん。


 二人で上から覗き込むと、その手にはいつか絹が渡したネギが生けられた湯呑みがあった。


 どうやら水を変えていたらしい。

 前よりぐんと伸びたネギが、水を含みしっとりと濡れている。


「なんだ、立派に育っているじゃないか」

「はい。でも」

「でも?」

「長くなったら、頭が下がってしまって」

「ああ、それか」


 絹は「ちょっと待ってろ」と言って、じゃがいもの入った籠を井戸の脇に置いてから、屋敷に戻って行った。


 小花ちゃんの隣にしゃがみネギを見てみると、なるほど。湯呑みからはみ出た部分が支えを失い心無しか垂れてしまっている。


「これに入れ直せ」

「これに、ですか」


 戻ってきた絹の手にあったのは、口が広めに造られた縦長の花瓶。今のネギを差しても十分な長さがあった。


 小花ちゃんは小首を傾げながらも、花瓶を受け取り「分かりました」とネギを差し直す。そして井戸から水を汲み根っこを浸した。


「それが終わったらこっちを手伝え」

「分かりました」

「絹、こっちにも頂戴」

「ん」


 それから三人で井戸の前に並んでじゃがいもを洗った。


 翌日。


「絹さん、見てください!真っ直ぐになりました!」


 僕が絹と一緒に土間で昨日のじゃがいもの皮を剥いていると、小花ちゃんが花瓶を抱えて嬉しそうにやってきた。


 見ると昨日曲がっていたのが嘘のよう。本当に癖がなくなり、花瓶に沿って真っ直ぐに伸びている。


「へえ、凄いな」

「はい。ネギって凄いんですね」

「ネギが凄いんじゃない。自然が凄いんだ」


 僕と小花ちゃんが感嘆すると、絹はさも当然とばかりに言い直す。


「三つ葉も小松菜もそうだが。葉っぱものは一度刈っても大抵伸びる」

「そうなんですね」

「興味があるなら、今度小松菜も同じように水で育ててみるか」

「えっ?」


 絹の思わぬ提案に僕は目を丸くし、小花ちゃんは口をぽかんと開ける。


「い、いいんですか……?」

「ただし、やるからには最後まで責任持てよ」

「は、はいっ!分かりました!」


 単純に自分が出来ることが増えるのが嬉しいのだろう。


 頬をほんのり色付かせ、小さな拳を握って瞳を輝かせる小花ちゃん。絹はそんな彼女を見て、どこか楽しそうに口角を上げる。


 (なんだかんだで面倒見いいんだから)


 本人は気付いているのかいないのか。

 機嫌良く揺れる尻尾を眺めて、僕はそっと微笑んだ。

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