118.一番の罰
私は、研究所の方に戻ろうとしていた。
すると、その道中に見知った人達を見つける。ルミーネや騎士団の面々だ。
ルミーネは、少し気まずそうな表情をしている。それは、そうだろう。彼女にとって、現状は四面楚歌も同然だ。
「ルミーネ……」
「ふふ、聖女様。これで、グーゼス様は全て倒れました。後は、私を煮るなり焼くなり好きにしてもらって構いませんよ」
私に対して、ルミーネは弱々しい声でそう言っていた。
彼女の事情は、なんとなくわかっている。
恐らく、ルミーネは自分を消滅させようとして失敗したのだ。その結果、あの研究所の中で倒れていたのだろう。
そんな彼女が、何を望んでいるか。それも、なんとなくわかっている。きっと、彼女は私に頼むのだろう。自分を殺してくれと。
「ルミーネ、私はあなたを殺さないよ」
「……そうですよね。あなたなら、そういうと思っていましたよ。お優しいあなたに、私を殺せるはずがありませんよね」
「そうじゃない。あなたには、生きていてもらわなければならないんだよ」
「……どうして?」
私は、ルミーネを殺すつもりはない。だが、それは優しいからではない。厳しいからこそ、私は彼女を殺さないのだ。
そもそも、彼女を消し去る力が私にあるかは定かではない。しかし、仮にあったとしても実効することはないのだ。
「あなたは、数々の罪を犯した。その罪を償わなければならない」
「罪を償う……それなら、猶更私を消してくれませんか?」
「そんなことをしても、あなたは満足するだけ……罰にならない」
「なるほど、そういうことですか……」
私の言葉に対して、ルミーネは笑っていた。
それは、悲しい笑みだ。それだけ、彼女は消え去りたいのだろう。
ならば、猶更彼女の命を奪う訳にはいかない。生きて、彼女にはしっかりと罪を償ってもらわなければならないだろう。
「ドルギアさん、それでいいですよね?」
「ああ、もちろんだ。このお嬢ちゃんの事情はわかったからな……そもそも、お嬢ちゃんがしたことを総合しても、別に死罪とはいえないはずだしな……おっと、よく考えてみれば、俺より年上なのか」
「ドルギアさん、失礼ですよ?」
「そ、そうか……」
ドルギアさんも、それで納得してくれた。
この場における最高責任者である彼がそう言うなら大丈夫だ。
「ルミーネ、あなたは生きて罪を償って……そして、見ていて欲しい。私のことを……」
「……それは、どういう意味ですか?」
「わかっているんでしょう?」
「……」
私は、ルミーネにゆっくりと語りかけた。
その願いが、彼女の心に届いてくれることを信じながら。