114.彼女の目的
「この愚かな実験動物め……」
「ぐあああっ!」
ルミーネは、傷を負いながらも魔法を放ち、グーゼス様を吹き飛ばした。
しかし、彼女の傷は深い。あれだけの血が流れたのだから、無事で済む訳はないだろう。
彼女は敵である。だが、それでも彼女は私を守ってくれた。そのため、そんな彼女を心配するのは当然のことだ。
「ルミーネ、大丈夫? すぐに治療を……」
「……いえ、必要ありません」
「え?」
私は、ルミーネの体を見て驚いた。
彼女の体には、傷がないのである。あれだけ大量の血を流したというのに、傷がないなんてことはあり得ない。明らかに、何かがおかしいのだ。
「どうして、傷がないの?」
「さて、どうしてでしょうかね……」
「治ったの? この一瞬で……?」
あの傷が一瞬で完治する。それは、普通ではない。
例え、回復魔法を使ったとしても、こんな風に一瞬で治ることはないだろう。そもそも、グーゼス様を吹き飛ばしていた彼女にそんなことができるとは思えない。
私は、混乱していた。ルミーネの体には、一体何が起こっているのだろうか。
それがわからない。彼女は一体、何者なのだろうか。
「ふふ、そろそろ潮時でしょうか……」
「え?」
「薄々勘づいているかもしれませんが、私は人の命を奪うつもりはありません。もちろん、目的のために色々と策略は張り巡らせましたが、その一線だけは守っていたのです」
ルミーネは、ゆっくりとそのように語り始めた。
やはり、彼女は人命を奪うことは避けていたようだ。目的のために手段は選ばなかったが、その一線だけは守っていたということだろうか。
「あなたの目的は、一体なんなの?」
「私の目的……それは、この肉体を消滅させること」
「肉体を消滅させる?」
「先程見た通り、私の体は再生します。この体は、老いることもなく死ぬこともない不死身の肉体なのです」
「不死身の肉体……そんなものが……」
ルミーネの語ることは、にわかには信じられないものだった。
不死身の肉体。そんなものは、おとぎ話や伝説でしか聞いたことがない。
だが、実際に私は彼女の体が治る光景を見ていた。そのため、それが本当なのだと信じられる。
「あのグーゼス様は、私を消滅させるための実験体です。不死身に近い力を持っているのは、あなたも知っているでしょう?」
「再生能力……あれは、その実験のためだったんだね……」
「彼を選んだのは、私怨です。彼の行いは、私にとっても許せないことでしたからね……」
グーゼス様は、ルミーネと同じような再生能力を持っていた。それは、彼女が消滅できるかどうかを確かめるためのものだったようだ。