103.詮索するなら(モブ視点)
「まあ、私のことを調べるのは、勝手ですけど……その代償は大きいですよ?」
「だ、代償……」
「ふふふ、中々いい顔をしますね……」
ルミーネは、スライグにゆっくりと近づいてくる。
そんな彼女に対して、彼は後退する。しかし、スライグの背には先程まで入っていた店があるため、すぐに下がれなくなってしまう。
「さて、まずは……」
「なっ……!」
直後に、ルミーネの指先から光が放たれた。その光線は、スライグの頬を掠めながら、その後方の店の壁に穴を開ける。
「どうですか? すごいでしょう?」
「くっ……」
スライグの頬から、ゆっくりと血が流れていく。それと同時に汗も流れてきた。命の危機を感じたからだ。
しかし、彼にはどうすることもできなかった。非力な彼には、目の前の強大な魔法使いに対抗する力はないのだ。
「ふふふ、怖いですか?」
「はあ、はあ……」
ルミーネは、スライグの目と鼻の先まで迫って来ていた。彼女は、ゆっくりと壁に手をつく。
「その程度の覚悟で、よく私を調べようなんて思いましたね?」
「……くっ」
「これに懲りたら、もう二度と私のことを詮索しないでくださいね……次は、容赦なんてしませんよ?」
「……え?」
ルミーネの言葉の直後、スライグは自らの目の前の光景が変わっていくのを感じていた。
ルミーネの姿は透けて、周りに人が戻って来ている。その変化に、スライグは悟った。今まで自分が見ていた景色は、真のものではなかったのだということを。
「ここは……」
スライグは、改めて周囲の様子を確認した。
昼間の大通りらしく、辺りは人に溢れている。後ろの店に開いてはずの穴もない。
スライグは、幻影のようなものを見せられていたようだ。
「よく考えてみれば、これだけの人をどこかにやるなんて、できないか……」
恐らく、ルミーネはこの人ごみに紛れて、スライグに魔法をかけたのだろう。彼女自身は、既にこの場所にいない可能性は高い。いつまでも留まっておく必要はないので、既に去っているはずだ。
「いや、仮にこの場に留まっていたとしても……僕には結局彼女に対抗できる手段はない」
スライグは、改めて自分の非力さを実感していた。
彼には、ルミーネに対抗する手段はない。護衛はいるが、彼らを無闇に危険に晒すことはできない。
結局の所、自分が非力なのが駄目なのだ。それを実感しながら、スライグは天を仰ぐのだった。




