101.それぞれの役割
「エルーシャ、俺は一度あちらの国に戻ろうと思う」
「戻る? どうして?」
「暴動の中で、ルミーネが何をしたかを知っている者を探すのだ。その者達から話を聞けば、グーゼス殿下がどうなったのか、わかるかもしれない」
「なるほど……それなら、そっちはあなたに任せるわ」
そこで、レイオスさんとエルーシャさんはそんな会話を交わした。
グーゼス様が暴動の中でどうなったのか、それを改めて知るのは確かに重要なことだろう。
「ケルディス殿下、それで構いませんね?」
「ええ、よろしくお願いします。もしよろしければ、こちらの兵も派遣しましょうか?」
「そうですね……では、よろしくお願いします」
「わかりました」
ケルディス様も、レイオスさんの案には賛成のようだ。
とりあえず、そちらは彼に任せておけば問題ないだろう。レイオスさんは優秀な人である。情報は掴んでくれるはずだ。
「エルーシャ、お前はルルメアの方を任せる」
「ええ、それはもちろん任せて。ケルディス様、私もここに滞在しても構わないのでしょうか?」
「ええ、問題ありませんよ」
エルーシャさんの言葉に、ケルディス様は頷いた。
彼女がこちらに留まってくれるというのは、ありがたいことだ。レイオスさんと同じく、彼女も優秀な人である。心強い味方が、一人増えたといえるだろう。
「……そういえば、一つ聞いておきたかったのですが」
「はい、なんですか?」
「グーゼス様は、辻斬りとして活動していた訳ですよね……その時の被害者の数というのを、私は正確に把握していないのですが、教えてもらってもいいですか?」
「辻斬りの被害ですか? 被害にあったのは、五人です」
「その人達は、どれくらいの怪我を? 重傷だとか、軽傷だとか……」
「怪我としては、軽傷ですね」
そこで、私は気になっていることを聞いておいた。
グーゼス様の辻斬りの被害者。その正確な数と被害を私はあまり知らなかったのである。
どうやら、グーゼス様の辻斬りは死者を出してはいないようだ。それは、少し気になる点である。
「……どうかしたんですか?」
「いえ……グーゼス様とルミーネは、結局命は奪っていないのだなと思いまして……」
「……ああ、確かにそれはそうですね」
「不幸中の幸い……とでもいうべきでしょうか?」
「そうかもしれませんね……」
辻斬りの被害者にも、騎士達にも死者は出ていない。それは確かに、不幸中の幸いといえることかもしれない。
だが、本当にそれだけなのだろうか。私は、そんなことを思うのだった。