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王子と王女の政略結婚 -背の高い私と、背の低い貴方と-  作者: たま


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ジェシカの初恋・後

幼い頃から一緒に居た、ジェイクの乳兄弟、キャメロン。

政略結婚の為にネザードの第5王子に嫁いでいったこの国の伯爵令嬢は、御家騒動による内紛、内乱により夫に離縁されてカンタベルに出戻っていた。

彼女の夫は、妻である彼女を愛していた。だから、生きて欲しかったのだ。

彼は紛争の火種になるやもしれないネザード王家の血を引いた10歳だった長男を手元に置いて、彼女だけが自国に帰された。

彼女は泣いて一緒に居たいと訴えたらしいが、夫にその意見は聞き遂げられなかった。

彼女は泣く泣く一人でこの国に戻ってきた。

彼女も夫も知らなかったが、その時既に彼女は身籠っていた。

こちらに戻り、しばらくしてから彼女の妊娠が発覚した。

しかし、そのニュースを喜んでくれるはずの彼女の夫も、長男も、既に命を落としていた。

彼女は長男を産んでから子供に恵まれなかった。次男が生まれたが、彼は元々病弱ですぐに空に旅立っていった。その次の子供はこの世に生まれることもなく、旅立った。男か、女かすら分からなかった。

夫も失くして、長男も、既にこの世にいない。

彼女には、キャメロンしか残っていなかった。

カンタベル王家は、ちょうど妊娠が発覚した王妃の乳母として彼女を雇い入れる態で保護したのだ。

色々と思惑が重なり合ったのだろう。

彼女は夫の国に戻ることを拒否し、この国で身分を持たない一家臣として暮らすことを望んだ。

なぜなら、彼女の夫は彼女が死んだことにして彼女をカンタベルへと逃したのだから。

彼女の身分はその時に消えてなくなり、その為実家の伯爵令嬢に戻ることもしなかった。

彼女は、私は死んだ身だから、と言い張って身元を保証する事すら拒んだ。

彼女は乳母の役目を終えると、ある一定の身分を貰い王家の管轄している修道院に入った。

キャメロンは、そのまま第一王子の遊び友達兼護衛としてジェイクの傍にいることになった。

紛争の火種になる子供だから、王家の目の届くところに置いておきたかったのだろう。

幸いにして、彼は母親によく似ていた。

背の高いところ、体つきが逞しいのは父親に似たが、カンタベルでよくある目の色、髪の色をしていたので特に奇異の目で見られることはなかった。


母は、どうしても私を王妃にしたかったのだろう。

ジェイクがダメなら、キャムの婚約者に、そう思ったのだろう。

だって、彼は一応正当なネザード王家の血を引く後継者でもあるのだから。

短絡的で享楽的な母の考えそうな事だ。

内紛、内乱で荒れたネザード。

そんなところに異国であるカンタベルでヌクヌクと育ち、後ろ盾が全くないネザードで王になれるはずなどないのに。

父は噛んで含める様に母に説明をした。

キャムやジェイク、私の名前を出して話しているのが聞こえ、何も考えずにお茶を飲んでいる父たちの方に近づいた私は、そこで全部聞いてしまった。

母を落ち着かせるために、ゆっくりと理解しやすいように説いたために、本来であれば全てを理解するには幼過ぎた私でも、キャムの立場を否が応でも理解できてしまった。


ネザード王家の血を引く悲劇の子。

偶然その話を知り、同情し、それがキャムへの好意と錯覚しても仕方なかった。

錯覚した好意は、そのまま淡い恋心に変わっっていった。


その頃、10歳になった私には婚約の申し込みが殺到していた。

さすがに侯爵令嬢に婚約者の一人もいないのは外聞も悪いとばかりに父は乗り気になったが、母は最期までジェイクの側妃の座を狙うために婚約の申し込みは全て断っていたと聞いた。

娘も、乗り気だから。

あの子は、時間があればジェイコブ王太子殿下の所に行くのよ。

ジェイコブ王太子殿下をお慕いしているのよ。

毎日のように言われたから、なのか、煩わしいから放置しておいたのか。

父はとりあえず母の意見を取り入れたのかもしれない。

その時には、アリシア王女殿下の身長の件は伝わっていたのだから。

万が一の時の事を考えて、保険に私をとっておいても良いかもしれない、と。

本当は、キャメロンに会いたいがためにジェイクの元に通っていたのが、まさかの誤解を生んだのだ。

だから、それを逆手に取った。

このまま、誤解させたままでいたら、当分婚約者はあてがわれないのではないか、と。

幸い、彼の婚約者のアリシア王女殿下はこの場にいない。

だったら。

ジェイクが結婚するときまでは。

それまでは、夢を見させてもらおう、と。


なぜなら、どう頑張っても私と彼の身分差は釣り合わない。

本来の彼の身分であれば、釣り合っただろう。

だが、その身分は永遠に公表されることはない。

ようやく落ち着き始めた内乱がいつまた火を噴くとは限らない。

そう、彼の血は紛争の火種となる。

それだけではない、王家の血を隠していたと、カンタベルとネザードで戦争になる可能性もはらんでいるのだ。

そんな未来は、誰も望んでいない。

ネザードの内紛、内乱による武器の輸出でカンタベルとオタゴリアはかなり利益を出したと聞いた。

ジェイクと王女殿下の婚約もそれによるものとも。

キャメロン達家族の不幸の上に成り立つ友好。

それもあった。

意図しない意趣返し。

だから、ジェイクを利用させてもらうのにも心が痛まなかった。

それくらい、大目に見て当たり前だ、とばかりに思っていた。


視線を感じたキャメロンが、私の瞳を捉えた。

微笑もうとしたが、キャメロンの瞳はすぐに逸らされた。

もうこちらを見ていないキャメロンに向かい、心の中で呟く。


バイバイ、キャム。

大好きよ。


胸が痛む。

分かっていた。大丈夫、わかっていたから。

最初から、この恋はかなうはずのないものだったのだから。

キャムはこちらを見ない。

見ようともしない。


ずっとずっと、瞳で追いかけていた人。

ずっとずっと、大好きだった人。


最後の一小節が終わり、ジェイクと王女殿下の二人が見つめ合うのをぼんやりと見ていた。


今、目に涙が溜まったら、私が王太子殿下を好きだったという話に真実味が加わるわね。

それは、それで面白そう。


冷めた思いでそんな事を考えていた先で、ジェイクが屈んだ王女殿下の額に口づけを落とした。


全くもう、ジェイクったら。


出そうになった涙が引っ込んで、思わず笑ってしまった。

二人の退出を案内する声が聞こえた。


おめでとう、ジェイク。


笑みが浮かぶ。自然に体が動いて拍手をした。

それに呼応するように周囲も拍手を始めた。

キャムが護衛の為にジェイクの傍に移動する。

彼らが部屋から出る直前、控えていたキャムが一瞬だけ私の瞳を捉えた。

あ、と思う暇もなく、扉が閉まり、彼は私の視界から消えた。


最後に彼に見せた私の顔が笑顔で良かった、と思った。

少しでも良いから。

「キャムの事を大好きだった私」の、笑顔を彼が覚えていてくれたら。


長かった、子供時代が終わる。

私の大切な初恋も、終わりの時を迎えた。

好きだと伝えることも出来ずに、だけど気持ちを抑えることも出来ずにいた、幼い私の想い。


彼らが祷りの場に向かっても、パーティは続く。

これから顔合わせする人が、きっと私の婚約者候補、筆頭の人だ。

何人いるのだろうか?

一人?二人、それとももっとたくさん?

国内の人?異国の人?

きっと、いや、もう既に父は手を回し終えてるはずだ。

多分、そんな人数だって多くないだろう。

婚約したら、すぐに結婚へ進む。

流れに身を任せるしかない。


私は少しだけ目を閉じた。

キャムの微笑んだ顔が、思い浮かぶ。

大丈夫、いつか、きっとこの胸の痛みを懐かしく思い出せる日が来るはずだから。


「おやおや、こちらにおりましたか、オダリングス侯爵。

何とも愛らしいファーストダンスでしたなぁ」


「ウィンストン辺境伯ではないですか。

久しいですな。

いや、全くもってお似合いのお二人でしたな」


さり気なくタイミングを計ってこちらに来たウィンストン辺境伯と、その後ろに控えているのは、彼の息子か、関係者か。


「あぁ、紹介しよう、私の妻のメリッサと、娘のジェシカだ」


父が鷹揚に振り返り、私達を紹介する。

母が甲高い声で挨拶を返す。

願わくば、ジェイクと王女殿下のようにお互い心を通い合わせることが出来る人でありますように。

祈りながら、私も顔を上げた。


「お初にお目にかかります、オダリングス侯爵が第一女、ジェシカと申します」


侯爵令嬢として微笑む私の口から出た挨拶の声音は、別の人の声の様に聞こえた。


お終い


お読みいただき、有難うございました。


ブクマ、評価して下さった方、ありがとうございました。


そして予約投稿の日付を何故が間違えてました。

すみませんでした。


最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございます。



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