0014(一)13
俺は反発し、ほとんど立ち上がって叫んでいた。
「ちょっと待ってください! 何勝手に終わらせてんですか!」
全員が俺の激高ぶりにきょとんと目を開く。風林先輩が兜の下の顔を曇らせて尋ねてきた。
「どうした高松。お主の望み通り、雲雀は駄ゲー部をやめないと申しておるのじゃぞ」
「俺はジャーヴァスをクリアしてません!」
「強情な奴じゃな。もういいではないか、目的は果たしたのだ」
「じゃあ何で雲雀先輩は『もういい』なんて言い出したんですか?」
俺は雲雀先輩を弾劾するように直視した。視線の刃で貫かれ、彼女は苦しげに顔をゆがめる。
「それは……高松君が頑張ってくれたからなので。さっきも言ったように、十分気持ちは伝わったので……」
「俺は納得できませんよ、それじゃ!」
俺は胸のむかつきのまま吼えていた。
冗談じゃない。俺はこの犯罪級の駄ゲーを、ジャーヴァスをクリアしていない。まだ雲雀先輩の高みに達していないのだ。それなのに「終わった」「目的達成」と言われても、幼稚園児が保育園で失敗をなだめられているようで、俺は全く了承できなかった。
時間がない。俺は再び液晶画面に舞い戻り、再度最後の城に入った。横スクロールアクションになる。ボスまでの道のりに時間がかかることを考えれば、これがラストチャンスだ。
最後のボスを倒すにはどうすればいいのか? 今までどおり攻撃してもまたやられるのがオチだ。雲雀先輩は言っていた。『ヒントなしでは倒せない』と。そのヒントを、俺はどこかで目にしていなかったか?
思い出せ、高松豊。ジャーヴァスのラスボスを倒す方法がきっと記憶の中に埋もれているはずだ。俺はザコ敵を倒しつつ通路を進みながら、目まぐるしく脳を働かせた。
残り時間は3分。もう倒す時間を考えてもギリギリだ。背中には全部員の息詰まるような気配を感じる。何か、何か手はないのか?
とうとうラスボスの部屋に入った。もう何度も入った部屋。何度もゲームオーバーになった部屋……。
まともに戦って勝てないとなると、アイテムだろうか。だがアイテムでラスボスを倒せるものなのだろうか? それに、たとえそうだったとして、それは一体……。
そのときだった。1週間の戦いの積もり積もった苦しさが、辛さが、俺の思考にかかる暗雲を一斉に払いのけたのだ。
「クリスタルは強敵を排除する」
俺は快心の呟きを放っていた。ジャーヴァス世界の「リングワールド」中央にある街「パントーン」、その占い屋が言っていたではないか。
今の今まで使った事のないアイテム、クリスタル。恐らくこれが……!
俺はコマンド画面を出し、アイテム「クリスタル」を選んでボタンを押した。雲雀先輩が背後で泣き崩れる。
「高松君……!」
一瞬の後だった。目の前でラスボスが爆発したのだ。なんとクリスタルは、文字通り一撃でラスボスを倒したのである。
画面はすぐさま切り替わり、右から王様のグラフィックと冒険の結末――王になった、うんぬん――のメッセージが流れてきた。
そう、俺はクリアしたのだ。最強レベルのクソゲー、買った子供が皆トラウマを抱えたアクションRPG、タイトーの『未来神話ジャーヴァス』を。
次の瞬間、部室が倒壊するかのような大歓声が巻き起こった。
「すげーっ、クリアしちまったか!」
「信じられないもん! こんな駄作を……」
「さすが、拙者の見込んだ男だけはあったな!」
「なかなかやるやないか、高松」
俺は複数の先輩に抱きつかれ、揉みくちゃにされ、手荒い祝福を受けた。頭や肩を何度もはたかれる。画面では、スタッフロールがタイトル画面の曲(バリエーション少ない)と共にゆっくりと展開していた。
泣き声が聞こえる。騒ぎが一段落すると、雲雀先輩の嗚咽が静寂の中際立って響いてきた。
「高松君……おめでとうなので」
雲雀先輩は絨毯に両膝をついた体勢で、両手で口元を押さえ、止め処もなく涙を流している。澄明な水滴が頬を伝って幾粒も膝元に落下した。
「信じられないので……。最後のボスの倒し方を自力で思い出すなんて……。色々情報に頼ったかもしれないけれど、高松君は立派な『ジャーヴァサー』なので」
何じゃそりゃ。
「約束うんぬんじゃなく、私、高松君のプレイを見ていて胸に想い出したので。駄ゲー攻略にかける、熱いゲーマー魂を。私はジャーヴァスをクリアして有頂天になって、燃え尽きた気になって、すっかりその気概を忘れていたので」
雲雀先輩は信じがたい美しさで、にっこり微笑んだ。
「ありがとう、高松君。今度は心から納得して言うので。私、新川雲雀は、駄ゲー部に残って、これからも駄ゲー攻略に邁進するので!」
今度は俺も込みで、再び駄ゲー部部室は拍手喝采に満ちた。主役が入れ替わり、雲雀先輩が俺以外の部員一同に揉みくちゃにされる。俺はといえば、それまで張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れて、疲労と睡魔とでまぶたの重さに抗しがたくなっていた。
ちょっとだけ眠ろう。そう、ちょっとだけ……。
心地よい満足感に浸りながら、俺は丸まって横たわってそっと目を閉じる。視界の端に、最後に映ったのは「(C)TAITO CORP. 1987」の文字だった。




