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おまけ5:そして僕と君は出会った。あったかもしれない未来の中で

この二十数年で色々なことが僕らの周りにはあったと言えるだろう

例えば、そうだな。元々そよかぜ園にいた子たちの話をして行こうか

まずは、そうだな・・・夕希ちゃんと真実さんから


・・


「彼方ちゃん。防犯ブザー鳴らそうよ」

「僕も、鳴らすべきだと思う」

「けど、拓真さんいい人だし・・・むしろ今鳴らしたら拓実さんが濡れ衣被って警察に突き出されるような気がするし・・・」


夕希ちゃんはあの後、先輩だった鹿野上真人さんにきちんと返答の手紙を贈り、そのまま順調に交際を続けていった

結婚したと報告された時は自分のことのように嬉しかったな

あの時はまだ陽彦と再会できていなかったから、僕だけで盛大なお祝いをしたけれど・・・できれば二人でお祝いしたかった気持ちはある


その後、蛍くんが産まれて・・・今は冬月財閥のご令嬢とその執事見習いさんとよく遊んでいるそうだ

目を離したら公園の砂場で一緒に山を作っていたらしい。そこから始まった奇妙な関係だが、三人とも仲良しのようだ


そんな三人に関わる面倒な大人が三人

それが真実さんの息子さん二人。確か、拓真くんと拓実くんだったかな

真実さん自身は彼らが十歳になる前に病気で亡くなってしまったけれど、そこから一葉さんが男手一つで双子を育て上げたようだ

拓実くんは夏彦の同級生だからある程度は分かる。家にも何回か遊びに来てくれた。真実さんによく似た雰囲気の男の子だ

問題は・・・あの拓也さんの性格を色濃く受け継いでしまった拓真くんの方だ


「あはは、彼方ちゃん。お菓子と紅茶あげるから一緒に遊ぼうよ。後は帰れ」

「完全に不審者の典型だよな」

「困ったクソ兄貴です」

「雅文、拓実。なにか言ったかな?」

「何でもございません・・・はあ、こんなのが俺の秘書とか冗談でも嫌すぎる」


父親と同じ、岸間に仕えることになった拓真くんは現在進行系で十五歳の女の子に声掛け事案と度重なるストーカー行為をしているらしい

本人曰く一目惚れらしい。うんざりしていた拓実くんの気持ちが伝わるレベルで本当にどうかと思ったのは記憶に新しい


・・


まあ、そよかぜ園に当時いた子たちはそれぞれの道を進んでいるけれど、僕と夏彦が遭遇した事件が可愛らしく思えるほどに変なことに巻き込まれているらしい。主に子供さんが


なんなんだろうね。まるで陽彦がかつて書いていた小説の、大人世代から子供世代に視点が移行しているような変な感じ

しかし、そんな僕らの中でおそらく一番酷いと言いきれる彼の話をしようか


・・


大護君と茉莉ちゃんのその後は、結構酷かった

次男の双馬くんが夏彦の進学先に在学しており、そこから再び交流をするようになったことがきっかけで「ことの顛末」を知れたと思う


大護君自身が全てに対して面倒くさいと感じており、なんとなく人間を人間だと思っていないような変な感覚を高校生時代から僕は覚えていたが・・・嫌な勘は最悪の形であたってしまった


十人いる子供たちは、遺伝情報がどこまで引き継いでいるかの確認情報源

そして、人らしくない自分の子供がきちんと人間なのか・・・十人いる子供たちで確認なんて本当にバカバカしい話だ

茉莉ちゃんからこの話をされたのが全て片付いた後だったので、渦中時期に話をされていたら僕は間違いなく大護君を殴りに言っていたと思う

一人の父親として、医者として

そんなことで子供を作ろうだなんて、茉莉ちゃんにもその子供たちにも不誠実すぎる


そんな父親の本性と企みに気がついたのが長男の一馬くんと三男の深参くん

お父さんのことを心から信じていた茉莉ちゃんと双馬くんを説得しようと試みたが、意外な形で二人に「父親離れ」を決意させた


こういうの、思い出すだけでも嫌気がするんだけど・・・まあ、なんだろう

四男の三波くんが海外留学から帰っていた時のこと

長女の桜ちゃんと二人で買い物に行っていたら、父親の浮気現場を目撃したんだと

写真を収めた三波くんはそれを一馬くんに提出して、ショックで倒れた桜ちゃんの介抱をしていたそうだ


それからは小さい子達を三波くんに任せて、母親対父親の喧嘩が勃発

三つ子は傍聴人として参加

しかしそれでもまだ双馬君だけは「脅迫とかで「そうせざるを得ない」理由があったのでは?」と理由を聞いた上で判断と、一馬くん曰く「馬鹿なのか優しすぎるのかわかりかねる」レベルで父親をまだ信じていたらしい

けれど理由が「自分たちが産まれた理由」と同じ「ただの遺伝確認」と聞いた上に、更には「都合がいいから言葉巧みに誘導して、お前の彼女にも手を出そうか。一度ぐらい寝たんだろ?」と言われて双馬君が誰よりも早く父親を殴り飛ばしたそうだ

・・・本当に、どこまでも救いようのない人だった


最終的に切り捨てることを選んだ茉莉ちゃんは、まだ言葉すら話せないほど小さな六男こと司君は必ず自分が連れて行くとして、父親と自分、どちらについていきたいか子供たちに聞いた

まあ、全員一致で母親だったみたいだけど


「・・・そーまにーにと、いっしょ」

「・・・お母さんと一緒がいい」


まだ小さかった四女の奏ちゃんと三女の音羽ちゃんの二人は「誰がいるから」が判断基準だったと聞く


「んー、兄さんたちがいた方が楽しいから兄さ・・・お母さん側で」

「お父さんのほうが面白そうだけど、俺まで実験台扱いは気に入らない。多分、最高傑作は一馬兄さんだしね・・・母さんについて行くよ。普通のほうがまだいいかもしれない」


そして真ん中の二人・・・次女の志夏ちゃんと五男の清志くんの双子は「楽しさ」でついて行く方を決めた

少し危うい子はいるけれど・・・兄妹達がどうにかしてくれることを信じている


「・・・遺伝子提供とハリス先生に会わせてくれたことだけは感謝してやる。けど、もう少し上辺だけでも上手くやれなかったのか?あんたみたいな人が、なぜ今ボロを出したのかは、気になるけど・・・もう、話も声も聞きたくない。気持ち悪い」


「私は、お父さんのこと・・・見てくれていないってことはわかってたけど、家に帰る日は少ないけれど、私達を育てるために頑張ってくれているんだって思って・・・普通に好きだったんだよ。大事な家族だから。でも、貴方が家族をないがしろにするなら、私はそんな人は家族の中にいらない。今すぐ、消えてほしい」


「・・・幸いにして、俺はあんたの月収ぐらい稼いでんだわ。志貴と・・・なんなら鳴瀬に土下座して仕事量増やして、兄妹と母さんぐらい養ってやる。一馬の入院費用のことも気にするな。俺が出してやる・・・養育費の支払いとかもいらねえからとっとと失せろ」


「・・・信じていたんだけどな。俺をどうにかする分ならまだ良かった。けど、兄妹やましてや結に手を出そうだなんて・・・あんた、人としてどうかしてる。理由があるんじゃないかと信じていた自分がバカバカしく思うほど、あんたには失望させられた。なんで、あんたみたいな人を信じたのか自分でもわからないよ・・・父さん」


「やっと、皆がどうするべきかわかってくれた。ねえ九重大護さん。自分の遺伝子が入っておきながら、自分とは真逆・・・挙句の果てには逆らうようになったこの結果を、貴方はどう受け止めますか?また、お得意の思考の時間に入りますか?・・・まあ、貴方みたいな人でなしには、生涯理解できない問題だと、僕は思いますけどね」


大護君は年長に位置する子供たちからボロクソに言われたと茉莉ちゃんが笑っていた

こうして笑えるようになったのはつい最近

知らない土地で奮戦して、挫折しか体験させられず

色々と疲れ切って思考を止めていた彼女は子供たちの手できちんと前を向くようになってくれた


「今は皆、私の・・・夜咲の苗字に変えたいって言ったから、夜咲さんちの十人兄妹ね。あ、大丈夫よ。三つ子と桜はきちんと大学に進学できてるし、三波も好きな勉強できてる。でも、これからだろうな。清志と志夏はどの道に進むのか、全然わからない・・・」

「けどね。きちんとした生活が、司がきちんと大学行けるように、上の五人が頑張るって言ってくれて・・・だからまず「お母さんはゆっくり休んで」って言ってくれてね。本当に助けられてばかり」

「でも、頑張るんだ。今から初就職は大変だけど、深参と三波が稼いでくれているとはいえ、頼りきりってわけにはいかないから。深参と音楽を作っている志貴君と響子ちゃんに悪いし、それに家のことが落ち着かないと、自由に出来ないでしょ?結ちゃん、家庭の事情で待たせているみたいだから」


まだまだ、彼女は子供たちと一緒にスタートへ立ったばかり

それでもきっと、彼女たちが歩く未来は明るいものだと僕は思う

そして・・・最後に彼らのことを話さなければならないだろう


・・


「与月・・・ちゃんと陽輝は映画館の受付でチケット買えてるか?」

「大丈夫大丈夫・・・あ、百円ないみたい。宙音がポシェットから百円出して呆れてる」

「保護者としてどうなんだよ・・・」


そして僕の親友は、今、自分を殺しに来た女の子と一緒に暮らしています

こればかりは本気で気の迷いか、と思ったが・・・施設を出てから数年。陽輝くんが産まれてからしばらく、陽彦自身が身を固める決心をしたそうだ

まさか映画館で会うなんて思わなかったけど・・・なんで物陰に隠れているんだろう


「何してるの、陽彦」

「ああ、尊か。見ての通り陽輝を尾行しているところだ」

「陽彦おじさん何してるんだよ・・・与月おば」

「あ?」

「・・・与月お姉さんも、止めたら?」

「やだ、夏彦君。お姉さんだなんて」

「「「言わせてる・・・」」」


夏彦はなぜか与月さんのことをおばさんじゃなくてお姉さんと呼ぶ

・・・僕らと同い年だからいい年してると思うけどね。お姉さんに拘る理由がわからないよ


「あらやだ。陽彦も尊君もお兄さんって言われると嬉しいでしょう?」

「俺にそんな趣味はない」

「現在進行系でお兄さんどころか子供扱いだよ・・・」

「ふざけんな顔面偏差値暴力山吹め」

「まあ理解できるけどさぁ・・・五十付近の女がお姉さん呼びを求めるのはどうなのよ」

「巳芳のお坊ちゃん。失言はよろしくないですよ」


与月さんがナイフを覚くんの首元に近づける

やれ、こんなに人が多いんだからそういうのは良くないと思うけどな。ちゃんとおもちゃのナイフだろうね?


「・・・二百歳の私はなんと呼ばれるのが正解なのでしょうか?」

「むふむふざむらいじゃねえかなぁ」

「むー」


そしてまた失言に失言を重ねていく覚くんはむふむふざむらいの刀を装備した彼女に追いかけ回される

やれ、こんなに人が多いんだから目立つことはやめようね。それ、お会計済ませたのかな?


「夏彦君、夏彦君。ポップコーン食べたい!」

「食べたい!」

「はいはい。一番大きいの買おうね。塩でいい?」

「俺、キャラメル食べたい」

「私、期間限定バター醤油が気になってる」

「「「・・・」」」

「買うから!全種買うから!食べ比べセットください!」

「私カルペス!」

「俺フォンタ!」

「飲み物まで・・・あ、ええっと・・・俺はアイスティーでお願いします」


「待って夏彦。なんで陽輝くんと宙音ちゃんと合流して映画を見に行こうとしているの。しかも今から始まる回のやつ。もうチケット買えないんだけど!?」

「いや、話し込んでいるから・・・で、俺は陽輝君にさりげなくチケット購入を薦められてなんだかんだでこの回で見ることになって・・・あ、ポップコーンのサービス券貰ったから後で使おう」

「わーいありが・・・そこは声をかけるかちゃんと待ってよ!?」

「じゃあもう始まるから・・・ごめんな、父さん。後でもう一周するからさ・・・」

「いいのかい?じゃあチケット買っておくね・・・」

「頼むよ」


もう一周してくれる優しさが目に染みつつ、三人はそのまま劇場内に足を向かわせる


「夏彦くん、特典ブロマイド誰だった?」

「俺、むふむふざむらい・・・へえ、せっかって名前なんだ・・・は?雪霞?」

「いいなぁ・・・私、むふむふざむらいの家を守ってる「牛飼いのいわい」」

「俺、むふむふざむらいの相棒ポジションにいる「蛇使いのさとし」レアなのか?こいつ」

「雪霞に、祝に智・・・外見は彼女にそっくりなむふむふ・・・まさかこのむふむふざむらいって・・・江戸時代舞台だし、花籠家がモデルなのか?」

「どうしたんだ、夏彦君」

「い、いや・・・なんでもない。行こうか」


二人に連れられて、一時間後に再び夏彦と僕は本来のメンバーと加えて陽彦を引き連れて映画館に向かうことになるのは別の話

ちなみにその後の特典ブロマイドはヒロインこと「巫女のすず」と「狼男のこかげ」それから「狼フレンドのとしゆき」にゲストキャラの「イノシシ仮面」と「山神」という結果


その結果に、夏彦が頭を抱えた理由は・・・僕がいない方の物語でわかると思う

そこに進むかどうかは、君の判断に任せるよ


・・


さて、ここからは息子たちに置いていかれた哀れな父親たちの話をしよう

同伴していた三人が気を利かせて僕ら二人にしてくれたので、僕らはのんびり喫茶店でお茶を楽しんで近況を聞いていた


陽彦は高校卒業と同時に廃業。今は普通のサラリーマンをしている

あの陽彦が社会に順応する仕事をしている・・・と衝撃を受けたのだが、結構できるタイプだったらしい。やればできる陽彦・・・


しかし未だに自分でネクタイは結べないし、なんなら一人で家にも帰れない

つまり、陽彦は与月さんなしで生きていけない人間だ

そんな与月さんは組織を円満?に辞めて殺し屋から普通の専業主婦にジョブチェンジ

今は二人揃って普通に暮らしているそうだ


「尊、お前まだパフェ食べんの?」

「もう胃もたれする年頃だから・・・普通にショートケーキ。それからオリジナルケーキを」

「多いな」

「ケーキ自体はまだ好きだから」

「胃袋も若いのか?」

「若かったら生クリームもぺろりだよ。けど、最近は食べるのもきつくてね。少し少なめ」

「確かにお前にしては、甘さ控えめだよな」


「若い頃と同じようにはいかないから。それに、後で夏彦とポップコーンを食べる使命があるからね!」

「いい年こいて、親子でつまむのかよ。夏彦も付き合わされて大変だな」

「まあ、傍から見たら僕らは兄弟らしいから」


見た目だけは、不思議と若いからね

年相応にシワを刻んだ額に八の字のシワを刻んだ陽彦は僕を黙って睨みつける


「・・・与月の前で言うなよ?」

「言わないよ。与月お姉さんにはね?」

「馬鹿にしてるな、お前・・・」

「まあね。しかし、陽彦が意外だったよ。まさかあの子を選ぶとはね」

「・・・あいつを捕まえておかないと俺が将来独り身になるかと思ったら、こいつでいいかと思っただけだ。孤独死したくねえ」

「本音は?」

「・・・言うわけねえだろうが」

「そう。残念だな」


紅茶を一口飲んでから、オリジナルケーキを一口分放り込む

内側のクリームがどうやらチョコレートクリームらしい。コーヒーを練り込んでいるのか、少し苦味があるクリームの中に更に隠された生クリーム


うん。苦味と甘味がいい感じの組み合わせだね

陽彦みたいなケーキを味わいつつ、それを飲み込み再び話に戻っていく


「しかし、こんな風に二人で話すのも久しぶりだな」

「まあね。奥さんと子供たちが一緒って事が多かったし、こういうのは本当に学生時代ぶりだね」

「ああ。再会したのも、夏彦が産まれて少しした頃か」

「うん。あの時はピリピリしていたから、暗号なしのチャイムが響いた瞬間びっくりしたんだから」

「だからって包丁片手に出迎えないでくれるか?」

「しょうがないだろ。あいつが来たのかと思ったんだから」

「しっかし、俺が目を離した後に変なのに関わることになってな」

「全くだよ。変なのは陽彦だけで十分なのに」

「おい」


色々あったけど、ここまで生きられる未来は少なからず存在する

日向さん曰く「病死以外は変えられる未来のほうが多い」らしいから

選択を間違えなければきっと、あの先の未来も紡げたのだと僕は思う

真実さんと鷹斗さん・・・病死で亡くなる二人はどう足掻いても病死してしまうのはとても残念だけど・・・


「なあ、尊」

「なんだい、陽彦」

「・・・楽しかったか?」

「うん。とても。それ以上に残念だと思うけどね」

「どうして?」


ゆっくり目を閉じて、また開く

開けた視界の先にはもう、先程までいた喫茶店は存在しない

ただの無。それだけが僕と陽彦の前に広がっていた

こうなった理由は単純。夢の終わりの時間がやってきたから


「夏澄とは朝のいってらっしゃいが最期の会話になっちゃったし、終わる前に、映画、夏彦と見に行けなかったからさ」

「あー・・・なんかごめんな。夢の中の陽輝が邪魔しちまって」

「気にしないで。それに、もしも一緒に映画に行っていたら・・・僕を送り出すのは陽彦じゃなくて夏彦になっちゃうだろ?」

「・・・だろうな」


「この役目は陽彦じゃないと出来ないんだ」

「その理由は?」

「次へ逝きたくなくなるだろう?」

「まあ、気持ちはわからんでもない」


息子から、娘から、妻から背中を押されて次へ

自分ではない自分になりにいけと言われるのは流石に陽彦でも堪えるはずだと僕は思う

だからといって、親友を送り出すのもしんどいだろうけど


「僕のお願いに付き合わせてごめんね。最期ぐらい君との思い出を、幸せだったはずの時間を見たかった・・・そんなお願いを叶えるために付き合わせて」

「いいんだよ。全く。お前は本当にお願いを滅多に言わない・・・お前こそ、もう少し自分に素直になったらどうなんだ?」

「次は、善処するよ」

「・・・そうしろ。今度は普通にな」

「そうなればいいね」


一歩前に歩いて、光が近い場所に立つ


「お前の嫁さん、向こうで待ってるってさ」

「お嫁さんじゃないよ。お嫁さんに出来なかった女の子」

「それでもする気はあったんだろうが」

「まあね」


「・・・なあ、尊」

「なんだい?」

「また、会えるよな」

「会えるよ。神様に補正してもらって、また陽彦と夏澄と夏彦に会えるようにしてもらうから!」

「それはそれでどうなんだよ!?コネ思いっきり使いやがって!」

「コネは使うためにあるんだよ?たとえそれが僕じゃなくて夏彦が作ったコネでもね!」


笑顔のまま、尊は向こう側へ消えていく

全く、最期までメチャクチャなやつだよ


そしてこの終わりの幕引きも俺に任せきり・・・本当に主人公なんだろうな、あいつ


まあ、こんなそんなで俺と尊の物語は全体的な意味でここまでだ

もしかしたらまたどこかで幕間の話はするかもしれないけれど

野坂陽彦と山吹尊の、高校三年生の春と、死んだ後のひととき。俺たちが俺たちである時間はおしまい


次は、もっと暗い話で会うことになるだろう

俺という小説家が筆を折る、あの半年の物語で・・・また「貴方」と会える日を楽しみにしている


次へ行ったあいつを追いかけるように俺もまた、次へ飛び込んだ

次は普通の人生を望みたいが、無理だろうな

俺の親友は、絶対に普通じゃない

その枠に収まるのは、そよかぜが吹き渡る穏やかな日常の中にふとした瞬間に現れる、暴風のようにぶっ飛んだ男なのだから

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