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おまけ4:もしも、君たちが別の道を歩いたら

選択さえ間違えなければよかったと、思う時は多々あった

だからこそ、息子とその娘たち、それから友人へ手を貸し続けてくれ、常世でもあの子の親だからという理由で僕らに色々と融通してくれた彼女は、次へ行く前に少しだけ夢を見せてくれたのだと思う


偉い神様だからこそ出来た、もしもの夢の先を・・・ここまで付き合ってくれた君たちへ贈ろうと思う

もしも僕が選択を間違えず、誰かに頼ることを覚えていたら

もしも陽彦が選択を間違えず、普通の家族を選び取ることができていたら

・・・そんな、可能性の先のお話だ


・・


「父さん、どうしたんだ」

「・・・陽輝」


外見は俺によく似ているが、中身は与月の才能をバリバリ引き継いでいるお昼寝モンスターこと我が家の長男は眠っていた俺の顔を覗き込みながら小さく首を傾げる


そろそろ思春期が開始してもおかしくないのだが、この陽輝は一味違う

常にマイペース。自分がしたい時にしたいと思っていることが正義。それ以外は適当と誰の影響を色濃く受けたのか理解し難いペースで色々な人を翻弄している


しかし、家族との会話が少なくなったわけではない

普通に話すのだが・・・なんというか、我が親友と話しているときよりも酷く疲れる

それほどまでに、うちの息子は面倒な奴なのだ

意外と面倒見はいいし、素直な子なのだが、何もかもストレートでマイペースだから困るんだよなぁ

こんなのに付き合える子なんているのだろうか、と考えつつ意識を覚醒に導く間

気がつけば陽輝が俺の隣に寝そべっていた


「父さん、お仕事お疲れ様」

「あ、ああ・・・」

「いつも勤労ご苦労さまです」

「お前が媚びうるなんて珍しいじゃないか・・・小遣い、増額希望なら母さんと交渉しろよ?」

「そこは安心してくれ。小遣いの倍の価格をようつーべで稼いでいる。家にも入れているぞ。お昼寝系ようつーばー「はるる」として活動中だ。催眠音声の魔術師で検索してくれ」

「宣伝するな宣伝を。もう見てるから俺に宣伝しても意味ないぞ」


陽輝の声に似てるなぁ・・・ぐらいの感覚で見てた画面越しの存在がまさか本人だったとは。知りたくなかった

でもまあ、炎上騒ぎだとか住所特定とかされてないみたいだし、あいつが楽しんでいるのならまあ・・・適当に済ませておこう


「いつも応援ありがとうございます、はるファザさん。スペチャ頂戴」

「なんで父親のハンドルネーム把握してやがる。それと、遠回しに小遣い要求するぐらいならストレートに小遣い要求しろよ。お母さんにな」


尊以上に遠慮がない言葉に頭痛薬を構えたくもなるのだが、まあ、これでも俺の息子

・・・意外と可愛く思えてしまうのは、不思議な話だ


「む。頭を抱えてどうしたんだ父さん。また眠くなったのか?それなら俺とお昼寝しよう。良い枕とアロマが手に入ったんだ。試してみよう」

「待て陽輝。お前、もう高校生なのに親父と眠ろうなんてどんな神経してやがる。そういうのは年頃らしく彼女としろ」

「女の子・・・か。寄ってくるのは小学生ばかり。俺はそういう趣味がないから困っている」


確かに鷹斗の娘以外、こいつの周りにいる女って皆小学生ぐらいだな・・・

妹の宙音も、なんの縁かさっぱりわからないけれど関わることになった藤馬の双子の娘とか・・・孤児院にいるこれまた双子の女の子も皆揃って小学生だ

流石に陽輝でも「ロリコン」とか言われたくないのだろう

けれど、一人だけロリコンと言われずに済む選択肢がある


「・・・じゃあせめて宙音と寝てくれないか?」

「宙音の中身は母さんとそっくりなんだ。だからお昼寝至上主義じゃなくてな。今では昼寝してる暇があったら遊べって催促されるもので・・・困ったものだ」

「困るのはお前の方だよ。お兄ちゃんらしくしろとは言わないからせめて家族を大事にする姿勢を見せてくれないか?」

「愚問だな。父さん。俺は父さんの眠気に対して真摯に向き合っている。これは家族を大事にしていると言っていいと思うのだが」

「ああいえばこういう」

「ちなみに俺は今小鳥と普通に付き合っているが、俺だって年頃。一緒に寝たら性的な意味で襲う自信がある」

「父親にそういう事言うな。気恥ずかしいだろうが」


もっと言うならあの世にいる鷹斗にぶっ殺されるだろうが。娘を傷物にしやがって!とか言われるんだぞ。俺の気持ちも考えろ


「なに。俺も宙音も父さんと母さんが性的なことをして産まれた子供だ。人間として種を残す行為の相談を人生の先輩にするのは当然だと俺は推測する」

「せめて匿名で相談しろ。やっほい知恵袋とかそのあたりでな」

「実名出さずに相談するなんて器用な部分が俺にあるとお思いか?」

「ないなら作りやがれ」


全く。このマイペース変人・・・一体誰に似てこんな風に出来上がったんだか

この調子だ。学校でも変わらないだろう

・・・友達、女子小学生以外にもいるんだろうな?

少しカマをかけてみるか


「お前な、そういう奇人変人な部分のせいで友達いないこと気がついているか?」

「いつ、俺に友達がいないと。夏彦がいる。尊さんにもこの相談をした」

「将来産婦人科医になる為に勉強してる大学生と現役産婦人科医にする相談としては妥当だが、お前さ、高校はどうしているんだ?後輩・・・はないとして、同級生と先輩の友達ぐらいいるよな?」

「・・・ノーコメントだ」

「いないのな、友達」

「いや。母さんと宙音から「お兄ちゃんは何か話すと問答無用で残念系に成り下がるから外で恥晒してこないで」って言われていてな。学校では必要最低限の会話しかしてないよ。だから友達はいないけど、なぜかファンクラブはいる」

「本当に訳わかんねえなお前」


「それが、父さんの息子だ。尊さん以外の友達がいなかった父さんには言われたくない」

「いたよ!普通に!友達ぐらい!尊以外死んだか縁切ったけど!」


与月と同じ白髪を静かに揺らしながら溜め息を吐く

確かに、黙っていれば儚げな印象はあるけれど・・・単に眠たいだけだよな、あれ


「・・・鷹斗の娘には、まあ・・・きちんと誠実にしてくれよ。一応、俺の戦友みたいな存在の娘なんだから」

「わかっている。同じ屋根の下で暮らしていても一度も手を出すどころか手さえつないでいない俺を信じてくれ」

「ま、まあそれは安心だが・・・」


確かに鷹斗が亡くなってしばらく、母親が面倒見きれないと言っていた小鳥は我が家に住まわせているが・・・いや、流石にそれはどうなのよと

いや、親としてはこれが安心できるといえば安心できるが、健全すぎやしませんかね、陽輝さんや


「もう少し進んでいいんじゃねえの・・・?」

「具体的にはどこまで」

「自分で考えろ」


ふと、陽輝の視線が壁時計に向けられる

陽輝は意外と時間に対してきっちりしている子だ・・・やっと解放してくれるのだろうか


「あ、そろそろ時間だ」

「どこかに行くのか?」

「映画館だ。宙音と約束していてな」

「何の映画だよ」

「むふむふざむらいリターンズ。逆襲のいのしし」

「あのシリーズまだやってたのかよ・・・まあ、気をつけてな」

「ああ。父さんも慢性頭痛早く治るといいな」

「主にお前と尊のせいだよ。ほら、早く行った」


最後に馬鹿なことを行って部屋を出ようとする陽輝を追い出しながら、その後姿を見守る

準備万端で待っていた宙音と合流して、出かけていく姿を確認し・・・きちんとした休日を送ろうとする

・・・だが、それを許してくれないのがこいつである


「陽彦、陽彦。陽輝がきちんとお出かけできるか監視しに行くよ」

「一人でいけよ。てかついていけよ」

「ちっち・・・こういうのは尾行が楽しいんだよ。ほら、起きた」

「休日なのになんでこんなこと・・・」

「そうこう言いつつもきちんと付き合ってくれるでしょ、陽彦は」

「お前は付き合わないとうるさいだろうが・・・」


重い体をゆっくり起こして、俺もまた外出準備を整える

それから完全尾行モードになった与月と共に、陽輝と宙音の後をつける

のんびりできない休日は静かに幕を開けていくのだ

もちろんそれは、あいつも同じのようだ


・・


「あ、夏彦、そこスペルミス」

「あー・・・ありがとう。あ、覚。そこの式間違ってる。順番逆だ」

「マジか。ありがとう」


ある日の休日に、息子とその後輩が我が家でノートと教科書を広げて朝から勉強していた

・・・正確には昨日の晩からかな

週末になったら、中学時代からの後輩で高校も大学も一緒の覚くんがお泊まりに来て、少し遊んでからひたすら勉強という日々を過ごしている

覚くんが懐いているから、というのもあるけれど二人はとても仲がいい

正直、そういう関係なのかと夏澄と二人考えたこともあるけれど・・・そんなことはないと理解したのは夏彦が高校生の時だったかな


「尊さん、コーヒーお持ちしました。早速、一局お願いします」

「了解。んー・・・やっぱり君と将棋をするのは楽しいね」

「私もですよ」


そんな二人が勉強する横で、うちの家政婦さんと将棋をするのが僕の休日の楽しみだ

夏澄の実家に帰省する時はその相手はお義父さんになるのだけれど

・・・しかし、そのお義父さんもお墨付きな実力を持つ彼女と対局するのは楽しいし、休日の楽しみともなっている


「そういえば、夏澄は?」

「今日はお仕事です。がんばり屋さんですね」


傍から見たら年下なのに、二百歳を超えている女の子

あの日出会った「むふむふざむらいさん」は予定より早かったけど僕ときちんと再会してくれた


まさか、仕事の都合で息子を一人で留守番させる機会が多い上に家のことが杜撰になりがちという悲しい現実に対処するために雇おうと決めた家政婦さんの応募に、彼女がくるなんて誰が予想しただろうか

そんなこんなで「むふむふざむらい」は「むふむふ家政婦」へジョブチェンジ

彼女を雇ってから、夏彦を中心に一波乱あったのだがそれは置いておいて・・・

今は落ち着いて穏やかな日々を四人家族で過ごしている


彼女から「手記には絶対に本名を残さないでほしい」と言われているので、むふむふざむらいで統一しているが、彼女には凄く可愛らしい名前がある

書けないのが凄くもったいないや


「そういえば、今日からむふむふざむらいの周年記念で映画をやるみたいだけど、君は何か関わったりしているのかい?」

「いいえ。阿佐ヶ谷家も私も何も関与していませんよ。なんせ原作者が死んでいますので。それに、主人公のモデルになっただけの存在が口を出すような話でもないでしょう?」

「そっか・・・じゃあ、別物なのかな。見に行こうかなと考えていたんだけど」

「どうでしょう・・・メインスポンサーの一つである「猪紀フーズ」のお嬢様がとても原案時代のむふむふざむらいを気に入っているので、それに忠実なものを作っているかもしれません」

「答えは、劇場でってやつだね・・・?」

「はい」


彼女とにやりと顔を見合わせて、勉強中の二人に声をかける

毎月毎週毎日毎時間口を開けば勉強しようと言い出しかねない青春のせの字が薄い息子たちに少し娯楽を提供してみよう


「じゃあ見に行こうか。夏彦、覚くん。今から映画に行こう!」

「何の映画?」

「むふむふざむらい。僕が好きなシリーズなんだ!」


流石に子供向けのアニメだから二人の反応はよろしくない

しかし二人共、テキストとノートをそれぞれ片付けて机の端に寄せて僕の方を見上げる


「尊おじさんのお誘いってかなりレアなので、お付き合いしますよ」

「せっかくの休みだからな。俺たちで良ければ付き合うよ」

「いいのかい?」

「いいから準備整えてるんじゃないですか。ほら、行きましょうよ。尊おじさん」

「うん!」


覚くんと僕がはしゃぐ後ろで彼女と夏彦が話している

多分、出かける話だ


「君も、出かける準備をしておいで。以前一緒にいた阿佐ヶ谷さんの作品なんでしょう?むふむふざむらい」

「ええ、そうですよ。でも、家のことが」

「気にしなくていい。君だってうちの家族なんだから。家のことは後で分担してやろう。だから一緒に行こう。せっかくなんだ。劇場でね」

「・・・夏彦くんのお願いには敵いませんね。帰ったらお手伝い、お願いしても?」

「わかってるよ。それじゃあ行こうか」

「はい」


彼女が探し求めていた存在と同じ人。それがうちの息子

二人は仲睦まじく並んで歩きつつ、僕らの前を歩いて先導してくれる


「俺と親子みたいっすね、尊おじさん」

「君が息子なのはちょっと勘弁してほしいな。もう少し、普通の子供らしい付き合いをしてくれる子がいいんだけど」

「仕方ないじゃないですか。家庭方針なんで。大叔母様の事情含め、受け入れてくれてありがたいと思っていますよ」


色々とあった

あの子が産まれて二十一年。様々な出来事があった

彼女が探し求めていた生まれ変わり。それから生まれ変わりを守る責務を持つ家の男の子

何も知らずに、常人には見えない特別な世界が視える能力を持つ息子は何度も誰かに命を狙われた

・・・僕と夏澄自身も、何度か死にかけたことがある

その度に夏彦を泣かせて、苦しめて

それでも僕らはあの子を手放したくなかった。死なせたくは、なかったのだ

たとえ自分の命を失おうとも、あの子の命だけは守り抜きたかったのだ


だからこそ、彼らの力が必要だった

家政婦である彼女と、後輩である彼の力が

あの子を守れる力を持った存在の協力が、必要だったのだ


「校内で夏彦を守れる子が君ぐらいしかいなかったから仕方なくだよ。こんな計略だらけの男、夏彦に近づけたくないが本音なんだから」

「おお怖・・・おっかない男を無意味に怒らせるのは俺の趣味じゃないので、とりあえず・・・ここは休戦しましょうぜ、尊おじさん?」

「・・・わかったよ。いつもどおり、仲のいいふりをしよう。裏で何が起きていたのか何も知らない息子の前で、表向きの関係を」

「了解です」


心の底から嫌いなタイプの人物に協力を求めるほど、追い詰められていたことは自覚している

けれどそうでないと守れなかった

家族がいなかった僕の家族になってくれた大事な女の子と息子の命を、心を守れなかった

この未来でさえも、僕自身の無力さを受け入れるところから得た未来だと思っている

受け入れられなければ、誰かに助けを求めることが出来なければ・・・僕はきっとあの日に死んでいたと思うから


「父さん、父さん」

「どうしたんだい、夏彦」

「今日は、いいことがあると思うよ」

「いいことって?宝くじを買ったら八億当たるのかい?」

「いや、そうじゃないけどさ・・・まあ、久方ぶりの再会、じゃないかな」

「・・・そっか。じゃあもう少しおめかしした方がいいかな!?」

「それは必要ないと思う。父さん、今日も格好いいから。母さんも見たらそう思うと俺は思うよ」


我が息子は結構人のことをよく見ている

その影響かかなりの褒め上手。一体誰に似たんだか・・・

でも、そういうのは僕に言うべきではないと思うよ


「・・・そういう口説きは僕じゃなくて、隣の彼女のような女の子にしてあげなさい」

「む?」

「ぬ?」

「・・・二人揃って無自覚か」


「どうしたの、父さん」

「なんでもない。夏彦はまだまだお子様だなって」

「んー・・・お子様でもいいかなと思う時はある」

「どうして」

「もう少しだけ、父さんと母さんと一緒にいさせてほしいから。子供の頃はなかなか上手くいかなかっただろう?」

「そうだね。でも、甘え過ぎは良くないからね?」

「父さんにも母さんにもあの子にも、それから覚や一馬さんたちに甘えすぎるのは良くないってわかってるから」

「本当かい?」

「本当だよ」


他愛ない会話と共に、四人で目的地の場所へ歩いていく

目指すは映画館。僕らの縁を紡いだむふむふざむらいの元へ

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