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ジレるハートに火をつけて

 玲花(れいか)のドレス、ヘルメスの情報奪取・解析能力よって得たバリアントからの視点。

 それを手繰った先にあったのは南の島、火山のようなものの見える陸地だった。

 ひとまず迫るバリアントを撃墜したという事で本社へ帰還したボク達は、遠距離撮影用のドローンを飛ばし情報の真偽を確かめようとしていた。


「あのまま私達が行くんじゃダメだったんですか?」

「間違いなく戦闘になる、それも大きな規模のね」

「そもそもコンナンタラってなに……?」

「コンジュラー、工場型のバリアント……ここ数十年は降りて来ていなかった個体だね」


 4人で固唾を呑んでモニターを見守る中、最近見かける事のなかったバリアントへの当然の疑問に三月(みつき)社長が解説を入れていく。


「そもそも最初の侵略の時、降下してきたのはこいつらだったんだ。 これ自体の戦闘能力は対空砲火くらいしか持たない……が、現地のエネルギーを使いバリアントを製造する能力を持っていて、それによって地球は一時期奴らに支配されかけたんだ」

「だから工場、か……で、そいつの降下がわからなかったのはなんで?」

「そこがまだわかってない……ただ、これまでの例でバリアントが突然接近して来たように見えてたあたり、コンジュラー自体がジャミング能力を持ってたんじゃないかなって」

「そんな厄介な事、考えたくはない話だけどね」

「あ、島見えて来ましたよ!」


 モニターに陸地が映れば、それはかつて人が住んでいたとは思えぬ荒廃の仕方をしている。

 建物や土壌といった「資源」をブルドーザーとタイヤのような構造の小型バリアント達が根こそぎ刈り取っては運んでいき、それを島の中心地である火山に陣取る縦長の、ビルの一側面を丸々口に変えたような巨大なバリアントが飲み込んでいく。

 そうしていくつかの資源を作業用小型バリアント──ポーンごと飲み込むと咀嚼するように震えだす。

 震えが収まり、その次の瞬間には本体ではなく地を大きく揺らしながら中型バリアント、メイガスを吐き出す様が遠目にも見て取れた。


「アレがコンジュラー……」

「え、アレどうやって壊すの? アタシ達じゃ火力足りなくない?」

「外れてほしかったんだけどな……こんな予測……」


 三者三様、落胆や困惑を隠せない中でドローンが捕捉されたらしく、メイガスからの狙撃を受けモニターの映像が砂嵐に変わる。

 ミーティングルームには、ざざざ、という音のみが流れていた。

 その沈黙の気まずさを振り払うように、手を挙げ提案する。


「あの、ちょっといいですか」

「何かな?」

「……確か八丈島って旧時代には東京の管轄でしたよね? アレ全部エトワールに投げません?」

「おっと、これはとんだ変化球が来たね」

「あー、でもそうだよね、アタシらだけでやんの無理でしょコレ」


 弱気と言われようと、不確実な事はしたくない。

 ましてや3人だけでコンジュラーを破壊するなど聞いた事もない話で、出現当時のドレスが今より劣るとはいえ、人数は少なくて6人がかりでようやく撃破したという記録しか残っていないのだ。


「君達にやってやろうという気概というものは……」

「無いです」

「無いかな」

「ありません」

「……まあ、無駄に命を散らすよりはいいかな……」


 三月社長は観念したように項垂れた後、携帯端末にエトワールコーポレーションの連絡先を表示し、表情をぐねぐねと変えていく。

 嫌いだからかけたくないのだろうが、横浜クレイドルや東京クレイドルの何百万という人類を守るためだ、我慢してもらうほかない。

 ようやく通話ボタンを押し、繋がるまでの間に顔をなんとか整えていく。


「あ、もしもし……はい、私フェブラリーラボの三月と申します……はい、今回はですね……」



 ●


 社長を交えたミーティングはいつだって退屈だ。

 内容はいつもと同じPR活動、違うのは場所と日時くらいのもので、出撃前のブリーフィングと違って何も刺激がない。

 ビルの外、人類を保護する偽りの空を見上げてため息をついた。


「……聞いているのか、枢木(くるるぎ)

「聞いてない」

「ちょっと、千聖(ちさと)!」


 咎めるような質問に対しノータイムノーシンキングで答えれば、それに(めぐみ)はおかんむりのようで立ち上がって抗議する。


「ちゃんと私みたいに聞いてるフリをしなきゃダメって言ってるでしょ!」

「……海野(うんの)もこの調子だし、加茂(かも)も寝ているか。 まともな社会人なら始末書モノだな」

「じゃ、まともな社会人連れてくれば? アタシら以上にバリアント狩れてエース張れるヤツ」

「真剣に検討している」

「あっそ」


 どうやら恵はともかくアタシにも灯里(ともり)にも最初からこういった働きは期待していないらしい、ため息すらつかずに話を進めていこうとする。


「で? いつも通り各地巡ってドレス着て、キャーカッコいーってやってグッズ売る。 昔みたいに希望の象徴って感じでもないしガキとオタクにしか受けないだろうけどさ」

「千聖、そのオタクに媚びていく必要があるの! あの人たち金払いはすっごくいいんだから!」

「……業務への理解度"は"高くて助かるな、海野」


 どうやらそういうものらしい。

 これをしっかりとやる事で専用ドレスの配備などが進むので、乗り気ではないが手抜きはしていない。

 だが、あまりにもやる事が変わらないのでミーティングはただただ退屈なのだ。


「社長、ミーティング中に失礼します」

「構わん、どうした」


 社長が呼ばれ、受付の人間と何かを話している。

 どうやら社長へ連絡してきた人間がいるらしいが、待たされてミーティングが長引くのはゴメンだ。

 そう思いさっさと上がろうとした、その時だった。


「はい、フェブラリーラボからです」


 フェブラリーラボ、八子が今活躍している会社だ。

 そこから社長への直々の案件、恐らくは公に出来ないような事だろうか。

 だが、それよりも八子(やこ)だ。

 あいつが絡んでくる話ならば、絶好のチャンスとなる。


「へぇ、要件は?」

「なんでもバリアントに関し相談があるとか……」

「いいじゃん、ここで合同ミーティングと行こうか」

「待て、枢木! 勝手に仕切るんじゃあない!」

「お言葉ですが社長、作戦行動になった場合実働となるのは私達です。 その判断の基準となるべくメイデン代表として同席するのはおかしい事ではないと思いますが?」

「そーだそーだ、言ってやんなよ恵ィ」


 社長に対してはあまり良い感情を抱いていないのか、こういう機会があるとここぞとばかりに追撃してくる。

 灯里などつい数十秒前まで鼻提灯出して寝ていたとは思えぬ便乗っぷりだ。


「ええい、わかった……だが最終的な判断は私がするからな!」

「わかりました」


 その言葉を待っていましたと言わんばかりに部屋に備え付けられたスクリーンを起動する。

 通信を繋げると、フェブラリーラボの風景が映し出された。


『ああ、繋がった……ご無沙汰しております、私フェブラリーラボの……』

「御託はいい、わざわざ何の用だ」

『率直に言います、東京クレイドルの管轄エリアにて工場型のバリアントが確認されました』


 その情報に、流石に驚きを隠せない。

 たった4人しかいない部屋にどよめきが走る。


「証拠はあるのか?」

『はい、こちらの映像をご覧いただければ』


 そう言って向こう側で端末を操作すると、向こうの社長の顔の横あたりに新しく画面が出てくる。

 その映像は確かに巨大な工場型バリアントを映し出していた。


「……なるほど、それでどうしろと?」

『八丈島は東京クレイドル管轄、ですので駆除はそちらの義務では?』

「単純距離ではそちらが近いだろうに……だいたい管轄エリアという概念も旧時代のもの、外界開発が進められている今では形骸化したものだ」


 最近はクレイドルの外の開発が進んではいるが、その土地の所有権を開発した自治体なり企業に預けるというルールが出来てからは、昔あった境界線が機能していない。

 というより機能させる必要があるほどに環境を回復させられてはいないのだ……と、恵から習った覚えがある。


『し、しかし……海上に関しては開発の手は及んでいません、であればその所有権は東京クレイドルにあり、その担当企業であるエトワールさんに……』

「どうしてもやってほしい、というなら誠意を見せてもらわねばな。 ああ、土下座などする必要はないぞ」


 要は金を出せ、と言っているのだ。

 我が上司ながら金にがめつい男で好感もあったものではない、不本意ではあるが向こうの社長に条件付きの助け舟を出す事にした。

 隣にいた社長を物理的に押し退けカメラの前に立つ。


「……話に割り込んで悪いね、そっちに八子いるでしょ?」

『え? あ、あぁ……八子くん、お呼びだ』

『はい……代わりました、雹堂(ひょうどう)です』


 向こうの社長に代わって八子が画面の中央に映し出される。

 横では割り込まれた社長が恵に宥めすかされているようで、本当に恵は気が効くというか悪い男に捕まって利用されないかが不安にすらなってくる。


「……アタシだ、久しぶりだな」


 挨拶に対して挨拶が返ってこず、少しばかり気まずい雰囲気が流れる。

 これが元とはいえトップエースの余裕かと苦々しく思っていると、画面の中の八子は頬を掻きながら照れ臭そうにして言った。


『ええと……どなたでしたっけ?』

「お前……ッ、本当昔からそういう所失礼だったよなぁ!?」


 社長からも、恵からも、灯里からすらも「お前が言うのか」という目線を向けられるがスルー。

 アタシの失礼はわかっててやってるもので、向こうは完全に無自覚だ。


「アタシだよ! アンタとも出撃してた枢木千聖(くるるぎ ちさと)!」

『ああ、すみません……仕事でもプライベートでもほとんど匣とばっかり組んでたもので……』

「イヤミか?」

「どっちかってーと惚気じゃないかなァ」


 なんだか完全に向こうのペースに話を持っていかれてしまったが、とにかく本題に入る。


「で、その工場型とやらを潰したいんだろ?」

『はい、フェブラリーラボには3人しか所属メイデンがいないので……』

「それで良くクレイドル公認の駆除業者やってられるわね……」

「アレは我が社とは比べものにならんブラックだ、覚えておけ」


 向こうの気力を削ぐ悪意ある横槍が激しいが、気にせず話を進めていく。


「じゃあアタシ達3人が協力する……灯里、恵、それでいいな?」

「オッケーオッケー」

「構わないわ」

「待て待て待て! せめて業務委託という形でこちらに報酬の多くが行くようにだな……」


 社長が大人気なく抗議の声を上げるが、振り払われた灯里が今度は子供のように容赦のないタックルで止めにかかる。

 ぐふぅ、という声を最後に暫くは悶える肉塊となった社長を尻目に交渉は続く。


「ただし、条件がいくつかある。 まずこのオッさんが心配してるようにタダ働きをするつもりはない……当然そこはいいな?」

『ああ、当たり前だとも』

「んじゃ次の条件だ……八子!」


 大きな声で呼ばれ、思わず昔のクセが出たかピンと気をつけの姿勢になる。

 軍隊ではないが、ある程度の基本動作はエトワールの訓練で身につくものだ。


『は、はいっ』

「そっちのチームとアタシ達で撃墜数を競う、どっちのチームが優れたメイデンか……勝負ってのはどうだ」

『……撃墜数を競うのはわかりました』


 いつもスパスパと、失礼な事も含めて容赦のない八子にしては歯切れが悪い。

 続く言葉がその疑念を証明する。


『でも、優れたメイデンという事なら勝負するまでもないと思います』

「なんだァ? 競うまでもないってか、そんなに自信があんなら面白いじゃん……」


 元・エースがここまで驕っているならば、それを叩き潰すのはきっと最高だろう。

 PR活動などでやらされていたマイクパフォーマンスに関しても、八子は大したものだったという事を思い出した。


『いえ、一年間ずっと燻ってたボクなんかよりも千聖さんや恵さん、灯里さん……他にも沢山いるエトワールでずっと戦ってきたメイデンのほうが優れていて、立派だと思うので……』


 ぷちん、身体中の血管という血管、堪忍袋、その他諸々大事な所が──キレた。


「お前本ッッッ当に、お前、マジでお前……!」


 画面に殴りかかりかねないアタシを恵が羽交い締めにして止めにかかる。

 こんな勉強第一の委員長ですみたいな顔しておいて、この中で一番ガタイがいいのは恵なのであっさり止められてしまうが、それでも手足をばたつかせながら抗議の声を上げる。


「アタシはそういう綺麗事が言いたいんじゃなくってなあ! 単純な実力で競いてえんだよ! 強者の側からさっさと負け認めてんじゃねえ! 本気でやり合おうつってんだ、わかるか!? あとなんでアタシの事覚えてなくて恵と灯里は覚えてんだ! あ、これは単なる嫉妬な! とにかくわかったか!?」

『い、今わかりました!』

「わかったならいい!」

「八子って匣といい千聖といい、昔から人の地雷踏むの上手かったわよね……」


 怒号を放つだけ放てば話が伝わったらしく、ばたりと抵抗をやめて肩で息をしながら打ち合わせを進めていく。

 なんとか復帰した社長は既に何もかもを諦めたような顔をしていた。


「……で、作戦はいつだ?」

『明後日……日曜日の昼を予定しているよ』

「それはPRと被っている! 今日中には出来んのか!」

『八子くんの回復を待たなければいけないから、それは難しいですね』


 社長の抗議に対して、向こうの社長は淡々と理由を告げて受け流していく。

 先ほどの余裕の無さが嘘のようだ。

 と、そこで向こうにいるちっこいのまで顔を出してきた。


『え、ええと……横からすみません。

 PR活動って事はメイデンの宣伝とかを行うんですよね?』

「ああ、そちらのような零細企業には縁のない話かもしれないがね」

『でしたら工場型……コンジュラーの全盛期では、その破壊を果たしたメイデンは英雄として迎えられたりしてました。 なので、その様子をドローンなどで中継するほうがPRになるのでは?』

「成る程……我が社の優れたメイデンとドレスが恐るべきコンジュラーを破壊せしめた、と喧伝するわけか……悪くない話だ」


 うちの社長の、金を絡めれば案外チョロいらしい性質を知ってか知らずか。

 向こうのメイデンはまだ小さいのに理路整然と説得を成功させる。


「良かろう、ならば明後日の昼だ。 それまでに必要なデータをこちらと共有するように。 わかったな、三月?」

『わかりました、ありがとうございます』

「例には及ばん、当然の事をするだけの話だ」

「掌返し上手すぎっしょ……」


 そのやりとりを最後に通信が切れる、交渉成立だ。


「社長、向こうの社長と知り合いなんですか?」

「……昔の話だ。 そんな事より今の話はわかったな? データが届き次第ブリーフィングを始めるぞ!」

「了ォー解っ!」


 若干憂いを帯びた──似合わない表情の社長はさておき。

 きっかけはどうあれ、向こうとやりあう算段がついたのだ。

 この機会をどう活かそうか、頭をフル回転させてブリーフィングに備えるのだった。

忍者と極道にハマって言動が影響受けそうなので初投稿です

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