第76話 また、新曲出来ちゃったかも
時間ギリギリ。
「Soul change」は完成した。
アンプの上から落ちた空のペットボトルを拾い上げる。
床を這うシールドをまとめながら汗を拭う。
ギターケースが並び始め、スタジオには片付けの音だけが響いていた。
その中で、奏だけはエクスプローラを肩に掛けたまま動かない。
次の瞬間。
激しいリフがスタジオを切り裂いた。
達磨が勢いよく振り返る。
「……は?」
大地も奏を見る。
「奏。どうした?」
リフが止む。
静まり返るスタジオ。
「みんな、ごめん。」
誰も口を開かない。
奏はギターを見つめたまま言う。
「また、新曲出来ちゃったかも。」
達磨は口を開けたまま固まっていた。
大地は思わず天井を見上げる。
「えぇぇぇ!?」
姫希の悲鳴がスタジオに響く。
颯太の目だけが輝いていた。
「タイトル。」
奏は短く言う。
「KHAOS。」
大地はケースを肩へ掛ける。
「今日は撤収だ。悪いが新曲は出来たらデータでくれ。今週もう一度スタジオ入るぞ。」
「一応イメージだけ伝えさせて。」
奏は迷いなく続ける。
「大地さんはドラム。」
「颯太、ギター。」
「姫希、ギターでバッキング。」
「達磨、ボーカルだ。デスボイス練習しといて。」
達磨はようやく我に返る。
「ベースはどうすんだよ?」
奏は笑う。
「俺が弾く! 奏Xの復活だ!」
ケースへしまいかけた颯太の手が止まる。
「颯太、今日は撤収。ギターしまって。」
姫希がすぐに声を掛ける。
「でも……」
「でも、じゃない。」
姫希は苦笑しながら首を横に振る。
「みんな予定があるし、今日は疲れてるから。ね?」
颯太は名残惜しそうにギターをケースへ戻した。
「わかった。」
奏が振り向く。
「明日、颯太の部屋行っていいか?」
「うん。良いよ。」
「ちょい待ち。」
姫希が二人の間へ入る。
「颯太の部屋には私の荷物もあるんだよ。」
小さく息を吐く。
「もー、良い。この後部屋行って片付ける。」
達磨がニヤリと笑う。
「熱いね、お二人さん。」
姫希は頬を膨らませる。
「熱くない。」
「あの部屋は二人きりでも何にも進展しない。」
大地はスタジオの照明を落とした。
「早くしろー。帰るぞー。」
ドアが閉まる。
誰もいなくなったスタジオに、静けさだけが残った。




