第1話 ギターやろうぜ
二人の出会いは唐突だった。
夏祭り。
商店街の広場には特設ステージが組まれ、おじさんたちのバンドが本番を迎えようとしていた。
そこで事件が起きた。
「君たち、ギター弾けるんだってね」
突然、おじさんが二人に声を掛けた。
「一緒に出てくれよ。うちのギター、腰やっちまって」
あまりにも突然の話だった。
奏と颯太は顔を見合わせる。
初対面。
お互い中学生だということ以外、何も知らない。
「いや、俺たちは――」
断ろうとした、その時だった。
「はい、お小遣い」
おじさんが封筒を差し出す。
「頼むよ。本当に困ってるんだ」
もうステージでは演奏の準備が始まっていた。
二人は断るチャンスを失った。
演奏曲は流行りのコピー。
知らない曲ではない。
譜面も難しくない。
問題は、初対面の相手と合わせることだった。
奏は中学二年生。
音楽一家に育った天才ギタリスト。
颯太も中学二年生。
普通の家庭で育ち、いつも好きな曲をアレンジして弾いている、もう一人の天才ギタリスト。
ライブが始まる。
最初の一音で、奏は気付いた。
(……弾ける)
颯太も同じことを思っていた。
(こいつ、上手い)
コピー曲だから違いは出ない。
それでも、音の切り方。
リズムの取り方。
ピッキングの強さ。
そういう細かい部分から、相手の実力が伝わってくる。
互いに横目で相手を見る。
何も話さない。
ただ演奏だけが続く。
そして最後の曲が終わる。
大きな拍手が広場を包んだ。
夏祭りライブは大盛況だった。
「助かったよ」
おじさんは満足そうに笑う。
「片付けは良いから祭り楽しんでおいで」
二人は軽く頭を下げ、その場を離れた。
並んで歩く。
どちらも口を開かない。
さっきの演奏が頭から離れなかった。
相手はどこまで弾けるんだろう。
コピーだけじゃ分からない。
もっと違うものを弾かせたらどうなる。
自分より上なのか。
それとも――。
そんなことばかり考えていた。
屋台から漂うソースの匂い。
提灯の灯り。
人混みの向こうから、一曲の音楽が流れてくる。
颯太が足を止めた。
「あっ、俺、この曲好きだった」
何気ない一言だった。
奏も耳を澄ます。
「懐かしいな。でも俺ならこの歌詞でこう作る」
そう言って、自然に別のメロディを口ずさんだ。
颯太は少しだけ目を見開く。
「それならこう編曲するな」
今度は颯太が続きを口ずさむ。
奏はすぐにその先を重ねた。
二人の声が重なる。
初めてなのに。
打ち合わせなんてしていないのに。
まるで最初から一つの曲だったかのように、音がつながっていく。
一瞬、時が止まった。
「……なんだ」
颯太が笑う。
「すげえ気持ち良かった」
奏も同じ気持ちだった。
「ああ」
短く答える。
もう相手の実力を疑ってはいなかった。
「今の、ギターでやりたい」
「いつ暇? なる早で」
「水曜日」
即答だった。
「水曜日の放課後、駅な。それから家来い」
颯太は笑う。
「ギターやろうぜ」




