〇月1日1
…チュン…チュン……
(……朝か)
そう思いながら、一人の青年はベッドから身を起こした。
そして立ち上がった瞬間、自分が今いる場所に関する記憶が一切ないことに気づく。
「……ここは……どこだ?」
思わず漏れた言葉。
青年は必死に昨日のことを思い出そうとしたが、この場所だけでなく、自分自身に関する記憶すら失っていることを悟り、強い恐怖に襲われた。思わず周囲を見回す。
「何か……何か自分に関する物はないか……?」
無意識につぶやきながら部屋を探していると、ベッドのすぐそばに、破れた日記帳が落ちているのを見つけた。
拾い上げて中を確認すると、かなり破損していたが、かろうじて読める部分が残っていた。
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### 【日記の内容】
**2000年3月30日**
今日から日記を始めることにした。
理由は、朝起きたらなぜか記憶を失っていたからだ。
少しでも今の状況や気持ちを整理するため、こうして書くことにする。
詳しいことは明日書こう。今はまだ家を出るのが怖い。
**2000年3月31日**
今日は朝起きても記憶を失っていなかった。
何か意味があるのかとも思ったが、そもそも記憶を何度も失うはずがないと自分に言い聞かせる。
昨日、この家で調べて分かった自分の情報を書く。
・名前は戸西朝広
・年齢は18歳
・高卒
・現在無職
・生活費やこの家は、両親が残したお金でまかなっている
・両親は幼い頃に他界している
記憶を失った原因は分からないが、自分自身については少し知ることができた。
他にも情報はあったが、記憶は何度も失うものではないはずなので、今日はここまでにしておく。
原因を探るため、病院へ行こうと思う。
自分の思い出は思い出せないのに、病院などの一般的な知識は残っているのが少し不思議で、少し恥ずかしい。
――ページ破損――
**2000年8月14日**
なぜ、こうなった……。
とにかく逃げて帰ってきた。混乱しているが、今のうちに書く。
事件は昼に起きた。
病院が、何者かによって放火された。
人々はパニックになり、一斉に逃げ出した。
自分も避難したが、正規の経路ではなかった気がする。
逃げる途中、誰とも会わなかった。
詳しくは明日考える。
逃げる際に日記をかなり破いてしまったようだ。
新しい日記帳を用意し、この日記はどこかにしまっておこう。
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日記を読み終え、青年は内容を整理した。
――過去に一度、記憶を失っていること。
――そして最近、再びすべての記憶を失ったこと。
――原因は不明であること。
病院や警察についても一瞬考えたが、すでに事件として扱われているだろうと判断し、別の手段を選ぶことにした。
(……自分の過去を、誰かに調べてもらおう)
そう考え、スマホで近くの探偵事務所を検索する。
見つけたのは「鬼霧探偵事務所」という名前だった。
「もしもし、そちら鬼霧探偵事務所でしょうか?」
『はい、こちら鬼霧探偵事務所です。ご依頼でしょうか?』
「はい。明日、そちらへ伺いたいのですが」
『分かりました。では明日の昼〇時〇分にお越しください』
通話を終え、空腹を覚えた青年は冷蔵庫を開ける。
中には、おそらく昨日買ったであろうカップラーメンが入っていた。
食事を終えると、今日の出来事を破れた日記に書き足し、雑用を済ませて眠りについた。
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そして翌朝。
「あー……おはよう」
誰もいない部屋で一人挨拶をし、記憶が残っていることに小さく安堵する。
探偵事務所へ行く準備を整え、バッグに必要な物を詰めた。
「今日は探偵事務所か……徒歩だな」
「いってきます」
そう言い残し、家を出た。
昼頃、地図を確認しながら歩き、約束の時間ぎりぎりで目的地に到着する。
「ここが……鬼霧探偵事務所か」
そこにあったのは、少し古びた寂れたビルだった。
二階にある事務所の扉の前に立ち、チャイムを鳴らす。
――ピンポーン
「すいませーん」
現れたのは、高校生くらいに見える少女だった。
「こちらへどうぞ」
案内された部屋は、生活感のある空間だった。
さらに奥の一室に入ると、コーヒーを飲んでいる若い男が声をかけてくる。
「どうも、こちら鬼霧探偵事務所だ。どんな依頼かな?」
机の上には資料の山、壁には本がぎっしりと並び、中にはオカルト関連のものも見える。
「私は記憶喪失です。
失った記憶と、その原因を調べてほしい。これが依頼料です」
探偵は一瞬、怪しむような視線を向けた。
「記憶喪失なら病院、事件なら警察の方がいいと思うが?」
青年は、病院では治らなかったこと、警察沙汰にしたくないこと、日記からも原因が分からないことを丁寧に説明した。
すると探偵は、少し表情を和らげて言った。
「……なるほど。分かった。依頼を引き受けよう」
「日記帳をコピーさせてほしい。調査に役立つ」
日記帳を渡し、名前を尋ねる。
「私が鬼霧朝日。
助手をしているのが妹の鬼霧世良だ」
コピーが終わり、結果は電話で連絡してもらうことになった。
「それでは、ありがとうございました」
青年はそう言い、来たときと同じ道を通って家へ帰る。
「ただいま」
誰もいない家にそう告げ、今日の出来事を日記に書き、机に置くと、そのまま眠りについた。




