1.異世界に転生した俺、混乱に至る
前作は少し終わらせるのに手間取っているので、ある程度の手直しと、最終話が書け次第投稿したいと思います。
勝手ではありますが手直しをする間、休憩中に作った話でも読んでいただけると幸いです。
「きゃああああっ!!!」
「血を!血を見せろおおおおおっ!!!」
包丁を振り回してる危ないおっさんと、そんなおっさんから逃げ回る女子高生。
どうやら俺は相当危ない現場に立ち会ってしまっているようだ。
女子高生は恐怖のあまりか、腰に力が入っておらずまともに走ることができていない。
それに対しておっさんの方は包丁振り回しているだけとはいえ、中々に様になっているように見える。
え?何の様かって?
そりゃあれだよ……犯罪者とか?
そんな犯罪者然としているおっさんを目の前に俺は何をしているのかと言うと、ただ単純に突っ立っているだけであった。
いや〜、世の中は不思議なものだ。
俺と彼らの距離は十メートルほどの差もないというのに、あの二人は全く俺の存在に気づく様子がない。
「いや!嫌だぁああああっ!!」
「ぐへへへっ」
そうこうする間に、どうやら事は違う方向に進んだようだ。
女子高生を捕まえ、押し倒すことに成功したおっさんは、その女子高生の体に馬乗りになってはたと気付いてしまった。
ーーーええ、体しとるやないの。
、と。
今時の女子高生らしい短めなスカートから覗く白くほっそりとした太もも、夏という時期もあり暑かったのか、少し緩めにボタンを止めているシャツから出る発育中の胸。
包丁を持ったおっさんに追いかけ回された恐怖により、額から胸元に流れる汗がその女子高生の艶めかしさに一役買って出ている。
そんな女子高生を前に、おっさんの性欲は爆発寸前。
先ほどまで包丁を振り回していたが、こんなものはいらんとばかりに投げ捨てると、女子高生の体を弄り始めた。
おお!これが殺人犯から変態へと変貌する瞬間ということか。
確かに男は皆、心の中に狼を飼っているものだが……それにしても先ほどまで血が見たいとか騒いでいた奴が、変態になるとは……。
変に興奮していた分、その興奮が性欲へと置きかわるのも早かった、ということだろうか?
理由はさておき、丁度いい感じのところに包丁が転がってきたので、これを拝借して、と。
「ぐへへへっ、お嬢ちゃん。一緒に天国へイこうや?」
「嫌ぁっ!離して!離してぇえええっ!!!」
そろそろ本当に女子高生が強姦されそうになったところでーーー
ーーゴンッ、ゴト……。
俺はおっさんを後ろから拳で殴って気絶させた。
いやね、最初は俺も包丁でぐさっと行こうかな?とも思ったんだけど……女子高生さんは多分そういう流血沙汰に馴れていないだろう、と判断して、後頭部を打っての気絶という手段に出た。
おっさんはそのまま地面に崩れ落ち、女子高生の方は呆然とした表情で俺を見つめる。
「おい、大丈夫か?」
「え……う、うん」
「そうか、じゃあ腰抜けてるとこ悪いけどさ。交番までこいつ運ぶの手伝ってくんない?」
「わ、わかりました……」
女子高生は最初、何が起きたか理解できていない感じだったが、段々と自分が助かったということが理解できると、安堵の表情を浮かべた。
「あ、あの……私、小日向杏って言います……。よかったら貴方のお名前をーーー」
ーーー聞かせてくれませんか?
きっと彼女はこう言いたかったのだろう。
しかし、彼女がその言葉を発するよりも早く、俺の体に異変が起こる。
「ごふっ……」
「えっ……!?」
胃が焼かれたかのような感触を味わいながら、俺は血を吐き出す。
女子高生……いや、小日向は俺の驚いた様子で俺を見つめた後、俺の後ろを見て恐怖に顔を歪める。
後ろ……?
ああ、なるほどね。
「おいおい、そこらの行き当たりバッタリな犯罪にしちゃ随分と準備がいいなぁ、おっさん?」
俺の背後にはサイレンサー付きの拳銃を構えたおっさんがいた。
「ヘヘっ、もともとわいは銃で人を殺す予定やったんや……。途中で人を追っかけて殺した方が楽しいことに気付いて、包丁に変えたん」
「なるほどねー」
関西弁の訛りを微かに感じさせる話し方で、おっさんは説明してくれる。
どうやらもう俺は死んだものとして扱われているようで、口の滑りが妙に良い。
死人に口なし……ってか?
じゃあ、死んだ人間なら殺人も犯罪にはならんかもな。
「へへっ、我も今から病院行けば、まだ間に合うかもしれへんぜ?まぁ!もちろんわいのことを秘密にしてもらうことは約束させやすが……」
「そうか……太っ腹だなー」
青白い顔で小日向は俺を見つめる。
大丈夫、大丈夫。
そんな顔しなくても助けてやるって……。
「ほぉ……じゃあ交渉成立、ってことかい?」
「ああーーー」
ーーー交渉は決裂だ。
そう言うと同時に、俺は小日向の背中を押して近くの交番の方へ走らせる。
おっさんは俺に向けて二度目の銃弾を放った。
「ぐっ……」
幸いなことに、二回目の銃弾も即死になるような場所に当たらなかったため、立っていることが可能だった。
「我もバカやなー。わいは見逃しちゃるいうとんのに……。わざわざ死にに来るとはなぁー」
オートマチック独特の薬莢が落ちる音が、辺りに響きわたる。
俺はおっさんを挑発するかのように、唾を吐きかけて言う。
「ぺっ!おっさんが銃を扱うのが下手くそなせいで、俺は二度も天国にイキ損ねたじゃねぇかよ」
「い、意気がるのも大概にせぇや!クソガキがっ!」
リロードし、三度目の銃弾を俺に放とうとする。
しかし、俺は三度目を見逃すほどアホじゃない。
先ほどおっさんが捨てた包丁を、ナイフ投げのような容量で額に的中させる。
まさか反撃してくるとは思わなかったのか、おっさんは驚愕したような、それでいて間抜けな表情を浮かべたまま死んでいった。
当然、引き金は引かれていない。
ーーピーポーパーポー
遠くでパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえた。
どうやらお人好しな女子高生が救急車も手配したようだ。
「悪いな……。それ、無駄になっちまったわ……」
俺はそのまま眠るようにして意識を失った。
◆
ま、眩しい……?
もしかして、朝か……?
翌日、かどうかはわからないが、白い部屋の一室で、窓から漏れ出る朝日で俺は目が覚めた。
「ーーーくんが目を覚ましました!」
「な、何!?それは早く親御さんにお伝えしなければ!!」
俺が目をさますと同時に、近くにいた医師や看護師っぽい人が慌てて室内を出て行く。
この光景を見て、初めて俺はあれから助かったのだと自覚する。
「あの状態からよく生きてたな……」
正直言って、あれじゃあ何しても無理だと思ったんだがな……。
どうやら日本のお医者さんは優秀なようだ。
しかし、それにしてもそこはかとなく違和感が……?
俺がその違和感の正体について考え込んでいると、病室のドアが勢いよく開かれ、外から四人の男女が入ってくる。
「ああ、ああっ!よく目を覚ましたわね、フィル!」
「ふぃ、フィル!?」
「ふっふっふ……だから言ったではないか。わしの息子なのだから何の問題もない、と……」
「そう言いながらも、なんだかんだで一番心配していたのはご主人ですよね?」
「フォッフォッフォッ、私の記憶でもそのようになってございますな」
「ちょっ、そ、それは恥ずかしいから、内緒っていう話だっただろう!?」
「フォッフォッフォッ、そんなこと言っておりましたかな?」「さあ、どうでしょうか?私、頭が弱いものですから……」と、家政婦っぽい人たちが中心となって騒いでいる中、自分がフィルと呼ばれていることに混乱する俺。
「だ、大丈夫……フィル?何だかボケーッとした顔してるけど……。頭でも痛いの?」
執事服とメイド服をきた男女が、貴族っぽい服装をしている男性と歓談している中、唯一騒いでいなかった二十代に見える女性が、俺の様子がおかしいと尋ねてくる。
何だか喜び合っているところ水を差すようで申し訳ないんだが……。
こればっかりはしょうがないと、俺はかぶりを振って尋ねる。
「あの……つかぬ事をお聞きしますが……。貴方達は誰なんですか?」
「「「「え!?」」」」
瞬間、その場が確かに凍りついた。
主人公の名前を間違えてました。
すいません、修正しておきました。