2.自身の脆弱さを知った俺、筋トレを決意する
できるだけ定期的に投稿したいので、あまり無理がない三日に一回の投稿ペースにしたいと思います。
ノロノロしててすいません。
「記憶喪失……ですか?」
「ええ、今のところ息子さんの様子を鑑みると、症状的にはそのように判断できるでしょう……」
俺の「貴方達誰ですか?」という質問に病室が騒然となった時から、ようやく落ち着くことができたのか、フィルと呼ばれていた少年の母親らしい美女が医師の診断の結果を聞いていた。
「「「「記憶喪失……」」」」
実際には俺がこの少年に乗り移った形となるため、記憶喪失というよりもフィルという少年の人格の消失と言った方が正確なのだが……。
しかし、その消失という現象を話すには転生輪廻についてある程度の理解がいる。
この世界にそんなら概念があるかは知らないし、あったとしてもさらに言うと俺は異世界人だ。
どう考えてもうまく説明できる気がしない。
ここは大人しく記憶喪失した人の真似事でも演じておくのが吉だろう。
「それで……記憶は戻るのでしょうか?」
「……正直のところ、わかりません。私たちはこの国の最先端の医療を獲得していると言っても過言ではないと思いますが……。それでも人の脳というものは、私たちには及びつかない生命の神秘が詰まっているところです。他にも似たような記憶喪失になってしまった患者はいらっしゃいますが……。彼らは記憶が戻った者も、また戻っていない者も存在しています。できることなら、息子さんの記憶が戻るように私たちとしても全力を尽くしたいところですが……。私たちにできることと言えば、何がきっかけでこんなことになったのか、その原因の追求しかないでしょう」
「そうですか……」
暗い雰囲気を醸し出す四人に、医師は「力になれず、申し訳ありません」と頭を下げている。
……なんか、罪悪感に苛まれるな。
「……わかりました。では、フィルはもう家に連れて帰っても構わない、ということで宜しいでしょうか?」
「ええ、もしかしたら家に帰ることで何か自分のことを思い出すことが出来るかもしれません。どうぞ息子さんを家に帰してあげてください」
こうして俺は家に帰ることが決定した。
◆
馬車に揺られること一時間とちょっと。
俺はフィル少年の家と思しきに屋敷に到着していた。
「ふむ、フィルよ。ここが記憶を失う前に住んでいたお主の家だ。……どうだ?何か思い出すことは、ないか?」
「す、すいません。特には……」
フィル少年の親父さんである初老のおっさんことベルウェイト・S・アークウォルト(57)が俺に話しかけてくる。
記憶を思い出すも何も、その少年の人格を消失させてしまっているのだ。
何も思い出すことはできない。
嘘をついてしまっている現状に、良心が痛みつい表情を曇らせてしまう。
「あなた!まだ、病み上がりのフィルにそんな無茶言わないの!」
「す、すまん……」
俺の……いや、正確には息子であるフィル少年の消沈した顔を見て、母、ミルリラウス・S・アークウォイト(32)がベルウェイトを叱り付ける。
怒ったミルリラウスにすくみあがるベルウェイト。
……何だか早くもここの夫婦のパワーバランスを知ってしまった気がするな。
少し苦笑しながらも、執事、ロスカーにお姫様抱っこされて俺は屋敷の中に入る。
俺としては自分で歩きたかったのだが、ミルリラウスが「そんなことして、また転んで怪我でもしたらどうするの!?」とヒステリックに叫ぶので、俺の専属執事であるロスカーさんにお姫様抱っこで連れて行ってもらうことになった。
……どうせなら俺のメイドであるファーンにお姫様抱っこして欲しかった。
「どうかしましたか?坊ちゃん。もしかして具合でも悪いのですかな?」
俺の一瞬の表情の陰りに気付いて様子を伺うロスカー。
さすがにメイドさんに抱っこしてほしい、とも言えずに俺は誤魔化すような笑みを浮かべて、「何でもない」と言っておいた。
フィル少年の家、というか屋敷は相当広いようで、見た感じ学校の体育館ぐらいの広さを誇っている。
「ああ、そういえばフィルは自分の家のことも忘れてしまったのだったな……。わしらは二十五家しかいない貴族なのだ。家もそれ相応の大きさとなる」
何でもこの国の貴族であるフィル少年の一族、アークウォイト家は、階級で言うところの子爵に当たるらしく、家も結構大きいらしい。
そして、この国の貴族は必ずミドルネームとなっており、名前の真ん中にアルファベットの文字がつけられる。
一つ一つのアルファベットに意味があるらしいが、ベルウェイトはそこまでは把握していないらしい。
「ここがフィル様の自室でございます」
ファーンが部屋のドアを開けて、中に入れる。
部屋の中は綺麗に整頓されており、心地よい空間になっている。
それにしても……。
「どうやら僕はあまり趣味を持っていなかったのですか?」
部屋の中は綺麗に整頓されている、と言ってもほとんど服しかない。
それもすべて棚に入れられていて、部屋の中にあるものと言ったら机と椅子、棚にあとはベッドと、暮らす上での必要最低限のものしかない。
「坊ちゃんは物静かな少年でしたからな……。あまり多くの物を欲しがっているようには見えませんでしたな」
「そうですね。ほとんどご飯を食べてテラスで日向ぼっこして寝る、の生活サイクルだったと思います」
「そうですか……」
日向ぼっこして寝る……か。
基本的に日本では怠惰な生活を甘受していた俺ではあるが、そんな俺でもそんなにのほほんとした生活したことがないぞ……。
フィル少年はよっぽど呑気な性格だったようだ。
「さて、あらかたの部屋を見せたところで、フィルよ。お主は祝福の儀目前にして一週間も寝込んでしまった。なので今からその祝福の儀をしようかと思うが……問題ないか?」
自室やトイレ、ダイニングルームなど、屋敷の部屋を大体紹介してもらったところで、ベルウェイトがそう尋ねてくる。
フィル少年の体の調子を慮って、控えめに尋ねているようだが、祝福の儀というものが人生でも重要なものであるためか、拒否権はあまりなさそうな感じだ。
この体に憑依してからというもの、何故かは知らないが俺は異世界の言語や、専門用語が頭の中ですらすらと解説されて出てくるようになった。
そのため祝福の儀というものがどういうものかも理解している。
祝福の儀とは、この世界の人間が神から加護をいただき自身の性能を把握する儀式である。
神の加護を受けることができるのは一般的に五歳からということなので、(フィル少年が)五歳となった今日のうちにできるだけステータスを確認しておきたいのだろう。
まぁ、その人のステータスの結果でこれからの人生が決まると言っても過言ではないのだ。
それなりに重要であるのは確かだ。
「わかりました。お願いします」
俺はベルウェイトに言う通りに今日中にステータスの確認をすることにした。
◆
「それでは目を閉じてゆっくりと呼吸をしてください」
一番最初のステータスオープンは、どうも一人では難しいらしく、神官さんに手伝ってもらってさせてもらうのが筋らしい。
「私の魔力と波長を合わせるように、落ち着いて……」
神官の言う通り、できるだけ落ち着いて深呼吸をする。
「よろしい。では、私と一緒に『ステータスオープン』と言ってください。良いですね?せ〜の!」
「「ステータスオープン」」
ーーーーーー
【名前】フィルウェルト・S・アークウォイト
【性別】男【年齢】5歳【種族】人間
【称号】子爵家次男 転生者
【生命力】30/30
【魔力】150/150
【性能】D−
【魔法】無属性魔法(貸借)
【スキル】叡智の書
真眼
【加護】愚者神の加護Lv.1
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転生ものの主人公は基本的にチート持ちが多い。
魔力が無限に近いぐらい多いとか、何か特殊なスキルがあるとか……。
確かに俺も特殊なスキルは持っているようだ。
スキルには基本的にレベルが存在する。
そして、そのレベルに応じてそのスキルの力を発揮する。
だが、ごく稀にレベルが存在しないスキルがある。
そういうスキルは十中八九ユニークスキルであるため、俺のこの『叡智の書』とか『真眼』などはユニークスキルなのだろう。
しかし、どうにもどちらとも戦闘に役立つとは思えない。
しかも俺の身体能力の総合評価である性能がD−。
これは一般的な少年よりも劣っているということだ。
つまり、俺はーーー
「どうだった、フィルよ?きっとフィルのことだからステータスは特殊なものが付いているに違いない!」
「あ〜もう!あなた、ったら!フィルに余計なプレッシャーをかけないの!」
「す、すまん……」
落ち込んでいる俺の耳に、ベルウェイトとミルリラウスの一方的な痴話喧嘩の声が入り込む。
「しかし、ベルウェイト様とミルリラウス様のご子息なのですから……。そこらの凡夫な者とは比べものにならない力が眠っているに違いないでしょう」
「私もそう思います!」
さらにベルウェイトとミルリラウスの横では、俺の専属執事&メイドのロスカーとファーンが期待に目を輝かせている。
やめて!そんな目で私を見ないでっ(パニック)
何度かステータスを確認するが、何度見ても【性能】D−から変化しない。
「ふむ。そろそろ一通りのステータスの確認は終えた頃だろう。フィルよ、わしらにもお主のステータスを見せてくれ」
「……はい」
ステータスは見せないといけない。
しかし、性能はクズ。
……筋トレでも始めるか。
修正しました




