Avsnitt 2 金髪は少々シャイらしい
学校の雰囲気に慣れない。俺じゃない。エメリだ。
クラスメイトに溶け込むのが難しいらしい。そもそも人種からして違うし。ど派手な金髪と地味な黒髪集団。浮いてるよなあ。
クラスメイトも、どの程度距離を詰めればいいのか、悩んでいそうな。
外国人ってのは映画で見るような、ずけずけと他人の家に土足で上がり込む。そんなイメージだったんだが。
「なんか違う」
「Detta är vanligt」
「あのさ、せめて英語で」
「あ、ごめん。これが普通って」
日本語喋れる癖にスウェーデン語が度々漏れ出てる。感情次第ってことか。
下校時に一緒になると多少の会話もする。
「日本人に似てるな」
「Är det så? あ、そうですか? って」
「ああ、まあいいや。人見知りな感じとか、馴染み難かったり」
当事者は意識してないようだけど、シャイ、って言葉がぴったり。日本人が外国人に思われてるのと同じ。スウェーデンの国民性もそうなのか。
それと、身長、今さらだけど隣に並ぶとさあ、俺より少し高い感じなんだよ。
「身長いくつ?」
「百六十九だったと思う」
「でかっ」
「そんなこと無いと思う」
俺、身長、これからも伸びるかなあ。やだなあ、彼女が自分よりでかいと。まあ、エメリと付き合うことは無いんだろうけど。日本人なんて相手しないだろうし。
外国人は外国人と。日本人の男って、世界で一番モテないとか。ましてや背が低いし。魅力に乏しいのか、レディファースト根付いてないし、男女同権意識も低いし。
エメリはまだ身長伸びるんだろうか。スラッとした体型で、見た目は美人だよな。金髪碧眼とかよく言ったもんだ。見事なブルーアイ。
「どうしたの?」
「あ、いや」
視線に気付かれた。あんまりじろじろ見ると失礼だな。
自宅最寄り駅に着き下車して家に向かう。同じ方向、お隣さん。
家の前まで来ると各々の家に。
「またね」
「なんだっけ? ヴィセース?」
「発音悪いけど、そう」
笑ってるし。仕方ないだろ。やっといくつか覚えただけだし。発音まで気が回らないっての。
で、こっちに向かって。
「正確には、Vi ses、だからね」
「あ、ああ。分かった。かも」
こんな感じでひと月経過した。
クラスにはかなり馴染めてきたようだ。俺を出しにして馴染むようにしたからだな。ふたりで会話してると興味を持った女子が集まる。俺にじゃない。エメリにだ。
結果、女子の友だちらしき存在が増えてる。スウェーデン語の講座までやってるし。まあ人気者になるのに時間は掛るまい。
男子の注目度も高まってる。ただ、やっぱり金髪碧眼はハードル高そうだな。
ついでに学校では部活も同じになってる。
「なんで?」
「絵が好きだから」
美術部。風景画を描くのが趣味だそうだ。それと自然に触れるのが大好きとか。そう言えば、エメリの家の庭。狭いのに花で満たされてるんだよな。窓にもプランター下げてるし。
あちこち飾ってるから、通りがかりの人が良く見てる。
うちは、まあ母さん、ほとんど飾らないし殺風景。
「こっちに越してきたのも、都内より自然に溢れるから」
「そうなんだ」
まあ都会じゃないし、かと言って田舎って程でもない。適度に自然があって川もあって。田園風景も少し歩けば目にできる。
部室で静物のスケッチ。
好きと言うだけあって上手いな。俺はと言えば無理やり連れ込まれた。知ってる人と一緒じゃ無いと、馴染むまで辛いからとか。どんだけ人見知りなんだよ。
やりたいことも無かったし、これはこれでいいんだけど。絵は下手なんだよな。
そんなある日の帰宅時。
「日本の家。壁薄くて窓枠が金属なんだね」
「えっと、それ普通だと思う」
「あのね、スウェーデンだと壁が厚くて、高気密断熱住宅が一般的」
「日本と気温が違うだろ」
いくら俺でもスウェーデンが、クソ寒い国だってことは知ってる。
「でも日本は世界有数の経済大国。なのに家が貧弱」
「まあ、外国から散々ウサギ小屋って言われてたし」
土地が無いから、じゃないのか? 狭いのは。安普請なのは誰でも買える設定とか。物価も違うだろうし。材料のほとんどは輸入に頼ってるし。
「窓はね、木製で三重になってるの」
「へえ。木枠なんだ。日本も昔はそうだったけど」
「違うの。造りが」
何気にディスって無いか?
「冬は暖かくて夏は涼しいから」
「気候が違うからなあ」
「省エネだよ。SDGs先進国」
森林資源が豊富で世界第三位の経済大国なのに、なんでいろんなところが手抜きなのか、と見えるらしい。
しっかりした住宅環境にすれば、結果的に冷暖房効率も良くなる。エネルギーを輸入に頼る国だから、それこそ住宅の質を上げれば、二酸化炭素の排出量も抑えられる、そう言ってる。
「環境が後回しになったんじゃないの?」
「変わってるって感じる」
「大人の考えることは分からん」
思わぬところで社会の授業。
環境先進国の人ってのは、日本人よりよく考えてるのかねえ。
「あ、あのね」
「なに?」
「lektion……curriculumで難しい漢字が出てくるでしょ」
「まあ、高校くらいになると」
度々スウェーデン語だし。まあすぐ訂正入るけど。
漢字が読めない、意味が分からない、ってのが増えてるそうだ。
「でね、教えて欲しいなあって」
「俺が?」
「他に誰が居るの?」
つまり、どっちかの家に行って漢字の授業を、ってことか。
そんなに得意じゃ無いんだけどな。それでもエメリよりはマシか。純粋な日本人だし、漢字を普通に使ってきてるし。
「いいけど、エメリが俺の家に?」
「うちに来てくれると」
お呼ばれって奴か。なんか女子の部屋に行けるって、ちょっと嬉しかったり。
「いつから?」
「明日からでも」
「まあいいけど」
と言うことでエメリの部屋にお邪魔することに。
少しだけ心躍る自分が居たり。
翌日放課後、一緒に帰宅。すっかりお馴染みの光景。
「じゃあ、入って」
「お邪魔しまーす」
ここでひとつ。
「スウェーデンはね、日本と同じで靴を脱ぐ習慣があるの」
「マジ?」
「理由はいろいろあるけど、雪が多くて濡れた靴で入ると、ラグが濡れるからとか」
あとはリラックスできるとか、清潔なんてのも最近はあるとか無いとか。靴下やスリッパで家の中をうろうろするそうだ。
「だからね、そこは馴染みやすいなって」
「まあ習慣がそうなら」
家に上がると「二階だから」と、階段を上がるエメリが居るんだけど、あのさあ。
案内してくれてるんだろうけど、先に上がられると、そのね、見えそうなんだよね。スカート丈短いから。
つい覗き込みたくなる衝動が。
「見たいの?」
バレてる。
「あ、いや」
「そのうちね」
えっと、そのうちって、いずれ見せてくれるのかよ。
階段を上がり部屋に案内されると、俺の部屋とは大違いだ。シンプルイズベスト。まさにIKEAのショールーム。
「やっぱIKEA」
「あ、そうだね。でもIKEAはちょっと違うかな」
低価格商品もあるけど、しっかりしたデザインと品質のものを、好んで長く使うんだとか。おばあちゃんの代から引き継いで使うものもあるらしい。
北欧デザインは長く使って、飽きの来ないものだそうだ。
「Sätt dig ner där」
「え?」
「あ、ごめん。そこに座って」
「そこって、ベッド?」
床にはラグが敷いてあるけど、薄い生地だから長時間だと、尻が痛くなるとか。
「座布団無いから」
「床に座る文化じゃ無いんだな」
「座るよ」
冬は分厚い毛足の長いラグを使うらしい。
床でゴロゴロも普通だそうだ。それができるのも靴を脱ぐ文化だからか。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
俺を残して部屋を出てった。
室内を見ると壁のフォトフレーム。家族の写真に故郷の写真か。




