マシンガンお母さん
「はーい」
想像以上に早かった。ツーコールくらいで出た。
「あ、もしもし」
「もしもしー?えーたろーなん?元気してるのー?」
想像以上にテンションも高い。ツートーンくらい声も高い、気がする。
「あ、そうだけど」
「さしぶりやね~!元気してたー?お母さんは元気してるで。えーたろーから電話かけてくるとか奇跡やんね?奇跡でも起きたん?あ、そうや、死んでるんかなって思ってたけど元気?もう三年くらいちゃう?アンタの声聞くのも三年ぶりやわ~。あ、お母さんな今北海道おるねん。知ってたっけ?前に言ったよね?え?言ってない?まあいいや、お母さんは元気してるで。アンタから電話くれるなんて嬉しいわ~。いやな、アンタに迷惑かけてばっかやし迷惑かけたあかんなー思ったからお母さんから電話せんとこって思ってたけど大丈夫やった?ていうか元気してる?」
ちょくちょく相槌は入れているけど、母さんのおしゃべりが止まらない。
「あ、うん。元気してる」
「ほんま~?よかったぁ。アンタそういや高校卒業したんちゃうん?ちゃんと卒業できたん?子どもの頃は成績よかったけど今はどうなん?ていうかアンタを一人にしててごめんなぁ。お母さんも悪いと思ってるんよ。お父さんにも悪いって思ってるし。お姉ちゃんにも反対されてんけどアンタが一人がいいって言ったからな~。そうや。お姉ちゃん結婚したんやで~。お姉ちゃんも北海道に住んでるよ。子どもも居ててな。んもーめっちゃ可愛いねん!でもな今旦那さんとケンカしてるみたいでな仲悪いみたいねん。どうしよ~?」
「あ、そうなんだ」
「そうやで!めっちゃ可愛いねん。あとで写真送るわ!みてな!」
「あ、うん」
「そうや。えーたろーは元気?あ、ごめんやで。お母さんうれしくていっぱい喋ってるけど」
「あ、うん。げんきだよ」
「そう?よかったー。それでどうしたん急に電話してきて。高校卒業出来たよって報告?大学にいくの?それとも就職すんの?それともなんか用事あるの?」
「あー。高校は卒業できたよ。でも大学は行かない。働くことにしたわ。後さ、バイト先に言って休みを貰ったから丁度今北海道に来てるんだよ。だから……」
「えー!うっそー!今来てんの!?アンタ今どこいるの?」
「新千歳空港」
「今空港か。じゃあ着いたばっかり?」
「そんな感じ」
「誰と来てるの?まさか彼女との旅行?だからお母さんのところに挨拶でもしに来たん?」
「いや、そうじゃなくて……」
「なんだー。残念。じゃあお友達とみんなで卒業旅行?あ、それだったら長電話してたら悪いかな~?」
「いや、そうでもなくて」
「じゃあなに?一人?三年ぶりにお母さんに会いに来てくれたん?」
「まーそんな感じなんだけど……」
「え?本当になに?何か言いにくい事でもあるの?」
「えーとですね、まあ、久しぶりにご挨拶でもと思っているんですけれども」
「うーん?」
何故敬語になるのだ。
「その訳あって今小学生くらいの女の子と一緒に来てるんだけどさ」
「はぁ?何それ?どういう事?アンタのコじゃないでしょ?」
「そうだよ。ほんと話すと長くなるんだけど、とりあえず大阪は良くないみたいで」
「良くないってどういう事よ?アンタ変なことしてないでしょうね?」
「してないしてない!今は分け合って卒業旅行中なんだけど……」
「ますます意味わかんない。本当に悪い事してないんだね?」
「ホントだってば!とりあえずアレさ。三年ぶりだし、母さんなら何とかしてくれるだろうなと思ってだから卒業旅行ついでに北海道に来たわけですよ」
子ども頃に怒られた記憶が蘇って。
「あーそう。まあいいや。変なことしてたらシバくで?じゃ一旦ウチくるの?」
「うんそのつもりやけど観光もしようかなって」
「観光する余裕もあんの?ほんまに高校卒業したの?ちゃんと年取ったの?」
「卒業したよ」
「じゃあさ、先観光しといでよ。今お店の準備で忙しくて、なんやかんやしたらウチのお店においで」
「母さんお店なんてやってたっけ?」
「アンタんちでカレー作った日に言ってなかったっけ?もう三年目になるですよ。ちっちゃいスナックやけどね」
「そうなんだ」
「アンタのラインにお店の住所送っておくからね。オープンは18時からだけど1時間くらい前だったら来ても大丈夫だよ」
「わかった」
「それじゃ折角の北海道楽しんどいで。んで本当に悪い事してない?大丈夫なの?」
「してないってば!」
「ふーん。お店で待ってるからおいでね」
「はいー」
「じゃあねー」
ふう。疲れた。
ふと満月を見ると夢の世界へダイブしている。さぞお疲れなのだろう。
時間はまだ2,3時間くらい余裕がある。
今は起こさないでおこう。満月が元気が出るようなところはないだろうか。
旅行とか最近したことないしどこにいけばいいかわからない。
母さんに観光名所とか色々聞いとけばよかった。




