僕の知らないうちに
僕はカバンを探す。
「あれ?」
「これだろ?」
店長はスカジャンポケットのからボイスレコーダーを取り出す。
「そうだな」
「……」
「これで裁判離縁をやるんだ」
「裁判?」
「この問題も解決しそうだな」
「……」
「まず満月と養親との関係を断ち切らねばならんかった」
「裁判ですか?」
「法律的にいえば縁組を継続し難い重大な事由がある場合により離縁。今回の場合養親である内木喜一は刑事罰に問われることになる、すなわちそれが成立することになる。そして彼らは前科持ち」
「どんな事したんですか」
「薬物絡みだな。簡単に言えばあの二人は薬物漬けにされてたんだよ」
「薬漬け?」
「そう。地獄の泥濘にはまってそこから抜け出せない。部屋の奥に叫んでいた女がいたろ?あれも同類だよ。男は無職で女が売春婦。やばい連中はこの身体が朽ち果てるまでしゃぶりつくすんだろうな。薬欲しさに、金欲しさに綺麗じゃない欲望がすべて悪い方向へと促される。そしてどういう訳か養子縁組に手を出した。全部売人が仕掛けたことだ。どういうことだろうな」
僕の理解は追い付けなくなっていた。
「狂っちまったんだよ、何もかも。人間らしさや理性さえも」
「誰がそんなことを……」
「さあな?もうお前わかってるだろ?」
「え?わかってるって」
「彼の背景にはもっと大きな組織があるとみていい」
「満月でさえどうなるのかもわからないのに」
「養親との関係性に楔を撃ち込んだことよって身の安全はほぼ証明できる。後はわずかな取り巻きくらいだろうな」
「なんで店長はそこまで知っているんですか」
「あー知り合いに人を付け回すのが得意な奴がいるんだよ」
「はぁ」
「彼はは同じクラスだったろ?友達じゃないのか?」
「只の同級生ですよ」
「そうか」
暫く何も無かった間、店長がとっさに話す。
「養子縁組とは二種類。普通養子縁組と特別養子縁組、その解消は市区町村によるが書類だけで出来るんだよ。だけど今すぐ離縁すれば満月は前の孤児院の戸籍を名乗ることになるんど、この際お前が養親やってみるか?」
「ええぇ?僕ですか?無理です無理です!」
「だろうな。なので今は少し時間がいる。とりあえず満月のことを面倒見てくれないか?」
店長は半笑いでいる。
「どういうことですか?またオノヨココさんに頼んだらいいんじゃないんですか?」
「人任せにすんなよ。いや、でもさっき言っていた取り巻きって言うのがの動き出したみたいでな」
「それめっちゃヤバくないですか?満月も僕たちもオノヨココさんたちまでヤバくないですか?殺されて大阪湾に沈められませんか?」
「連中もまずは武力行使してこないはずだけど、念のためな」
「いやいや!本当に怖すぎますよ!なんでそうなってるんですか!」
「まぁまぁ落ち着けよ、一二週間くらい満月の面倒見てくれよ。何とかすっから」
「長っ!」
店長は不気味な笑みを浮かべる。
「まーまーたまにはいいじゃんかよ。お前、卒業旅行って行ったのか?」
「そんな余裕ないですよ」
「おーならお前にそれくらい余裕をやるからよ。たまには満月と一緒に羽伸ばして来いよ」
「マジっすか。怖い人たちに狙われないですか?そもそも友達とかいないし……そんでまた満月と二人なんて僕には無理ですよ」
「大丈夫だって!店も何とかするし、あ、お金なければ貸してやるぞ?」
「急に言われても……お金は大丈夫ですけど」
「また連絡するからその時はちゃんとバイトリーダーとして帰って来いよ」
「え、決まりですか」




