第65話 ローンの終了とミラーナさんへの説教
「皆さん、おはようございます♪ 9時になりましたので、朝の部の診療を始めます♪」
さぁ、今日も1日頑張りますか!
「じゃあ、まずは…」
「エリカちゃん、アリアちゃんは休みかい?」
そう。
最近はアリアさんが患者を呼んで、私は治療室で待っている。
私が患者さんを呼ぶのは久し振りだ。
「今日、アリアさんは図書館で勉強なんです。たまには環境を変えた方が、勉強が捗りますからね♪」
「なるほどねぇ。アリアちゃんも頑張ってんだな」
そう、アリアさんは頑張ってる。
その頑張りに私も応えて、アリアさんを一人前の魔法医に育てなきゃな。
彼女は私と一緒に魔法医として働く事を夢見てんだから♪
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「タンマ、タンマァ~っ! 何なのよ、この数はぁ~っ!」
「ミラーナさん! どうなってるんですか!? ゴブリンとコボルトだけの集団って話だったのに、ホブゴブリンが3体も居ますよ!?」
ズバァアアアアンッ!!!!
リーダーと思しきホブゴブリン一匹の首を切り飛ばすミラーナ。
続いて2人に指示を出す。
「情報が間違ってたって事だね! 珍しい事じゃ無いよ! こうなったら仕方無い! ホブゴブリンとゴブリンはアタシが引き受けた! ミリアさんとモーリィさんは、互いに距離を取ってコボルトを片付けてくれ!」
「「了解!!」」
リーダーを失ったゴブリンとコボルトの統率が乱れる。
ミラーナは動きを止めず、残り2体のホブゴブリンの首を飛ばす。
これでホブゴブリンは全て倒した。
ゴブリンの残りは7体。
それもミラーナは簡単に斬り倒して行った。
残るはコボルトのみ。
コボルトは20体近く居るが、ミリアとモーリィがミラーナを含めて均等の距離を取る状態になった事で、3人がコボルトの集団を囲む形になった。
「さぁ~て… ここからは2人の出番だね?」
「ですね♪ さすがはミラーナさんです♪ でも、ゴブリンも少しは残しておいて欲しかったですね♪」
「そうそう♪ 今の私とミリアじゃ、コボルトだけってのはすぐに終わっちゃいそうで楽しめそうにないかも~♪」
そして2人はコボルトの集団に突っ込んで行く。
ミラーナには手を出すつもりは無かったが、コボルト達はミラーナを警戒している。
その所為もあってか、ミリアとモーリィは苦戦する事も無くコボルトを全滅させた。
「さすがに今回は『不測の事態』ってヤツだから、晩メシ抜きにはならないだろうと思うけどなぁ…」
ミラーナは2人に無茶をさせた場合、夕食抜きになる事を気にしていた。
「それは安心して下さい。エリカちゃんには私から説明しますから」
「私も証言するから、大丈夫だと思いますよ~。悪い様にはしませんって♪」
2人の言葉に、ミラーナは心底安心したのだった。
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「ただいま戻りました~♪」
夜の部の診療が終わり、後片付けをしている処にアリアさんが帰って来た。
「お帰りなさい♪ 勉強は順調ですか?」
「ハイ♪ たまには図書館での勉強も良いですね♪ 絵で見るのと透視で見るのとの違いも面白いです♪」
楽しんで勉強。
これが一番なんだよなぁ。
無理強いされての勉強だと、反って身に付かないからな。
むしろ、何気無く覚えた事の方が記憶に残ってたりする。
例えばマンガなんかのセリフで書かれていた英会話なんかがそうだ。
軽く読み流している様で、意外に記憶に刻まれていたりする。
私自身、これに何度助けられた事か…
そんな事を考えていると、ゴブリンとコボルトの討伐依頼を受けたミラーナさんパーティーが戻って来た。
「…てなワケで~、大変だったんだよぉ~…」
「なるほどねぇ… それは確かに大変でしたね…」
モーリィさんから今回の討伐依頼の詳細を聞き、私は納得する。
これでミラーナさんを夕食抜きにするのは理不尽だろう。
「それは仕方無いですねぇ… 情報が間違ってたんなら、不可抗力ですし…」
「だよね? だよね!? 依頼内容はコボルトとゴブリンの集団の討伐だったんだからさ! ホブゴブリンまで居るなんて情報、無かったんだからさ!」
そんなに力説するなよ…
夕食抜き、そんなに嫌なのか?
まぁ、嫌だろうけど…
「落ち着いて下さい。状況が状況なんですから、ミラーナさんに責任はありませんよ。夕食抜きになんてしませんから、安心して下さい」
「よ… 良かったぁ~…」
力無くソファーに座り込むミラーナさん。
ソロだったら好き放題暴れられたのにねぇ。
まぁ、パーティーを組んでた方が何かあった場合に安心だからな。
不老不死だけど…
「ミラーナさん、エリカちゃんには弱いんですね♪」
「まぁ、やっぱり家主だし、なんだかんだ世話になってるからなぁ。家賃と食事代は入れてるけど…」
「あ、それだったら要らなくなりましたよ? 最近、治療院のローンが終わりましたんで♪」
実際は半年先なのだが、今まで貯めた分から残りの半年分を全て支払ったので、ようやく完済したのだ♪
「不動産の税だけは払う必要がありますが、それも治療院の稼ぎだけで充分ですからね。年間で小金貨5枚ですから、安いモンです♪ ですので、食事代も入れる必要は無くなりました♪ 皆さんの稼ぎは、全て皆さんの物ですよ♪」
「もう払い終わったの?」
「土地代と建設費で、金貨何枚だっけ?」
「どちらも金貨300枚ずつの、合計600枚ですね♪ 毎月金貨20枚ずつのローンでした」
普通じゃ考えられない返済ペースだなぁ…
毎月合計金貨20枚の支払い…
日本円にして、毎月200万円の返済だからなぁ…
あ、3人共目が丸くなってる…
「アタシの何倍稼いでんだよ…」
「毎月金貨20枚払っても大丈夫なんて…」
ガックリするミラーナさんとミリアさん。
「でもさぁ… 毎日100人前後治療して1人銀貨1枚なら、毎日金貨1枚ペースで稼いでんだよね? なら、月に金貨30枚って感じ? 20枚払っても、10枚は残るじゃん!」
意外に冷静なモーリィさん。
「はぁ~… やっぱりエリカさんは凄いです…」
うっとりした眼で私を見るアリアさん。
だから恍惚とするな。
「手を抜かずに治療してるから、皆さん信頼して来てくれるんです。適当にやってたら、誰も治療に来ませんよ」
真面目にコツコツ。
これが一番だね♪
「よし、決めた!」
唐突に立ち上がるミラーナさん。
嫌な予感しかしないんだけど…
(何を決めたのかな?)
(ミラーナさんだからねぇ… またエリカちゃんのハリセン、食らうかもよ?)
(懲りない人ですからねぇ…)
3人の予想、当たるかもよ?
「エリカちゃん! 小遣いくれ! 例えば1人につき金貨5枚とか!」
やっぱりかいっ!
すぱぁああああああああんっ!!!!
「自分のお小遣いぐらい、自分で稼いで下さい! いい歳して何を考えてんですか!」
「…良いじゃんかよぉ~… それだけ稼いでんだから…」
いざと言う時の蓄えは必要だろ。
何かあって路頭に迷う様な事があったらどうすんだ。
私はミラーナさんを正座させ、ミリアさんとモーリィさんが夕食の準備を調えるまで2時間程説教したのだった。




