第46話 ミラーナさん、やっちゃいましたね?
ロザミアに戻ってから、以前とは少し変わった事がある。
それは、ロザミア以外の街から治療を受けに来る人が現れた事。
私が王都へ行く前には無かった事だ。
聞けば王都での出来事が口コミで広まったらしい。
まぁ、ロザミアまで来る日数や旅費を考えると、ちょっとした風邪や怪我で来る人は居ないけど。
それなりの病気や怪我で来るから、付き添いや介助の人も一緒に来る。
2人分の旅費を支払ってでも治したい人しか来ないから、忙しさが王都へ行く前と殆ど変わらないのは助かる。
ロザミアはハンターの街で、観光施設なんかは土産物屋くらいしか無い。
だから治療を終えた人は、大抵がその日の内に帰って行く。
滞在しても1日か2日。
本当に治ったのか確認してるって感じだろう。
休診日、久し振りにミリアさんやモーリィさんと昼食を食べに行く事にした。
その道中。
「最近、多くなったよねぇ…」
モーリィさんが溜め息混じりに言う。
街の外から来た人の事だろうな。
「そうねぇ… ちょっと困るわね…」
???
何かトラブルか?
「何か問題でも?」
分からない事は聞いてみる。
「エリカちゃんが原因じゃないから気にしないでね? 最近、街の外から来た人とハンターとの間で揉め事が多いのよ…」
「ハンターって、荒っぽいのが多いでしょ? 外から来た人の中にも、似た様なのは居るからね」
あぁ…
ちょっと肩がぶつかったとかでも騒ぐ連中は居るからな…
ロザミアのハンター同士なら気心が知れてるから問題にならない様な事でも、外から来た人とならトラブルに発展する事もあるか…
「はぁ… 何やってんですかねぇ… そんな事で怪我とかしないで欲しいですけど…」
私も思わず溜め息が漏れる。
「まぁ、今のところは大きなトラブルにはなってないけど、ちょっとしたケンカは時々ね…」
「その仲裁なんかにギルド職員が向かわされるワケ」
あ~…
そりゃ、面倒だなぁ…
「それで2人共疲れた顔なんですね?」
2人は頷く。
「そんな事は、美味しい物でも食べて忘れるのが一番です♪ 仕事では否応なしに巻き込まれるんですから、休みの日ぐらい楽しみましょ♡」
言って私は2人の背を押し、食堂街へと向かった。
適当な店を選び、中へ入る。
それぞれ料理を注文し、しばし会話する。
「エリカちゃん、トラブルでの怪我とかも治療してあげるの?」
モーリィさんが聞いてくる。
どうしようかなぁ…
「悩みますよねぇ… 普通なら治したいんですけど、下らない揉め事で怪我しても自業自得ですし…」
そんなヤツは、痛い思いでもして反省しろって言いたいけど…
怪我人を見ると、放っておけない性分だからなぁ…
「エリカちゃん、優しいから治しちゃいそうだけどね♪」
ミリアさん…
優しいかどうかは別として、その通りかもだよ…
「まぁ、その可能性も無いとは言えませんね。魔法医としても、怪我人を放っておくなんてのは怠慢だと思いますし」
身体が勝手に動きそうなんだよなぁ。
その時、店のドアが開いて誰かが入って…
…って、ミラーナさんか。
「エリカちゃん! ここに居たか! すぐに来てくれ!」
やけに慌ててるな。
「どうしたんですか!?」
もしや、誰かが怪我でもしたか?
「いや、その… とにかく来てくれ!」
なんか様子が変だな。
とにかく行くか。
「何があったか知りませんが、案内して下さい!」
「頼む! こっちだ!」
ミラーナさんが走り、その後ろを私も走る。
しばらく走ると人だかりが見えてきた。
「エリカちゃんを連れて来た! どいてくれ!」
そこには見知らぬ男性が倒れていた。
男性は鼻血を流し、白眼を剥いている。
私は駆け寄り、男性の状態を診る。
どうやら脳震盪で意識を失ってる様だ。
命に別状は無い。
「鼻血と脳震盪と… 倒れた時に肘を少し擦り剥いてるだけですね。他に怪我も無いし、特に問題はありませんね」
周りの人達から安堵の溜め息が漏れる。
「ミラーナさん、いったい何があったんですか?」
私は男性を治療し、回復させながら質問する。
「いや… その… なんと言うか…」
歯切れが悪いな…
「その男がさ、この娘とぶつかったとかで揉めてたんだよ。そこにアタシが通り掛かって…」
そこには申し訳無さそうな顔をした14~15歳くらいの少女が居た。
よくあるパターンってヤツか?
男性と少女がぶつかって揉め、通り掛かったミラーナさんが何かやらかしたとか…
「普通に止めようとしたんだよ!? そしたらコイツが!」
慌て出すミラーナさん。
やっぱり何かやらかしたな?
「その… 『関係無えヤツは引っ込んでろ!』なんて言いやがるから、ついカッとなって…」
やっぱりか…
「引っ込むフリして後ろを向いて… そのまま回転して顔面に裏拳ブチ込んじまった…」
油断させて殴ったんかいっ!!!!
この鼻血はそれでか…
脳震盪は、殴られた衝撃か倒れた時に頭を打ったかのどちらかだな…
なんか、前者の様な気がする…
両方かも知れんけど…
「何をやってんですか、もう…」
その後、意識を取り戻した男性は、私に礼を言いつつミラーナさんに怯えながら去って行った。
食堂に戻ると、2人は料理に手を付けずに待ってくれていた。
幸い、私達が頼んだ料理はサンドイッチだったので問題は無かった。
ミラーナさんも一緒に来て、事のあらましを説明する。
さすがに2人共苦笑いしてたが…
ついでにミラーナさんもサンドイッチを注文し、一緒に食べる事になった。
待ってる間、私はミラーナさんに説教する。
「とにかく! すぐに手を出すクセは治して下さい! 魔法医の家に居候してる人が怪我人を作ってちゃ、本末転倒です!」
ミラーナさんは少し考え…
「じゃ、居候してなきゃ怪我人を作っても…」
「そ~ゆ~意味ぢゃ無いっ!!!!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
ハリセン・チョップがミラーナさんの後頭部に炸裂し、ミリアさんとモーリィさんが目を丸くする。
「じょ、冗談だって! 気を付けるってば! 約束するのは無理かもだけど!」
アンタの冗談は冗談に聞こえんわ!
「形だけでも約束して下さい! ミラーナさんに約束が守れるとは私も思ってません!」
「そこは思ってくれよ! アタシが信用無いみたいじゃんか!」
「信用される様に行動して下さい! 何かあったら、またミラーナさんかって思っちゃいます!」
「あぁ、酷え~! ちょっと! ミリアさんとモーリィさんも、笑ってないで何か言ってくれよ!」
2人は肩を震わせて笑っている。
「だって… ねぇ?」
「そうそう♪ ミラーナさん、口より先に手が出るタイプだから♪」
「2人もそんな事言うのかよぉおおおっ!」
身から出た錆ってヤツかな?
日頃の行いが悪いと言うか、ミラーナさんって後先考えずに行動するからなぁ…
今度は私が観客になり、3人の漫才(?)を楽しんだのだった♪




