第28話 お互い犠牲者だったんですね?
ミラーナさんが王都に向かって10日が過ぎ、私はそれなりに平穏な日々を過ごしていた。
いや、毎日忙しいよ?
年末だろうと怪我や病気が減るなんて事は無いから!
むしろ新年を迎えるこの時期、忙しさのあまり不注意から怪我する人は多い。
平穏なのは、ミラーナさんに振り回されないから。
本人には言えんけど!
ミラーナさんが戻って来たら、またバタバタするんだろうなぁ…
まぁ、本人も王都に着いてバタバタしてる頃なんだろうけど。
そんな事を考えつつ、私は年内最後の休日を満喫している。
ちなみに私のホプキンス治療院は、年末年始も開けている。
この世界にも正月休みは在るのだが、怪我や病気に正月休みは無いからね。
でもまぁ、さすがにこの時期は来院する患者も減ってきた。
実家が他の街に在る人は帰省するし、休みを利用して旅行する人も多い。
異世界でも同じなんだなぁ。
私も前世と言うか、元の世界で医大生の頃は独り暮らしだったから、よく連休を利用して旅行や帰省してたモンな。
ギルドの人達はどうなんだろ?
他の街からロザミアのギルドに就職する人なんて居るのかな…?
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「あら、意外と多いわよ?」
疑問に思っていた事をミリアさんに聞くと、他の街からロザミアに来てギルドに就職する人は多いらしい。
と言うのも、全ての街にギルドが在るワケではないんだって。
だから、ギルドに就職したければギルドの在る街へ引っ越しする必要がある。
ただ、この国のシステムでは他の街への引っ越し自体は難しいとの事だ。
街の人口が減れば、当然ながら税収も減る。
領主である貴族達は、それを嫌がる。
自分の領地の税収が減っても、王宮に納める税は変わらない。
街の税から王宮に納める分を引く。
そして自身の領主邸の維持管理費、使用人達への給金、更には領地の公共事業費に社交費等の必要経費を使った残りが自身の生活費になる。
税収が減る=自身の生活費が減る
生活費が減れば、いざという時に備える事が難しい。
そりゃ確かに領民の引っ越しは嫌がるな…
だが、引っ越しの目的が就職ならば話は別だとか。
就職先が他の街にしか無いとなれば、さすがに認めざるを得ない。
さすがの貴族様も、平民の仕事を選ぶ自由までは奪えないよね。
「それで、どの位の人が他の街から?」
「そうねぇ… ギルド以外では聞かないけど、確か12~13人の職員が他の街から来たって聞いたかしらね」
多いのか少ないのか分からないけど、それなりに居るんだな。
「確か、王都から来た人も居たわね。もう歳だからって最近退職して王都に帰っちゃったけど」
へぇ~、王都からわざわざロザミアのギルドにねぇ。
…って、王都から?
「王都からロザミアのギルドに就職って… それって変じゃないですか? 王都にもギルドは在りますよね?」
「職員の数が多過ぎる場合、他の街のギルドを紹介されるのよ… その人も、それでロザミアのギルドに来たって言ってたわね」
なるほど、そんなパターンもあるのか…
って…
…なんか… 嫌な予感がするけど…
疑念を抱きつつ、私はミリアさんと一緒に夕食を食べてから治療院に戻った。
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明けて翌日。
やはり患者はまばらになってきた。
朝の部も普段の半数以下に減っている。
のんびりムードで治療を終え、のんびりと昼食を食べ、のんびりと夜の部の準備をする。
街の様子は普段とあまり変わらない。
他の街から帰省してきた人なのか、普段見掛けない人が街中を歩いているのが目立つ程度。
昨日感じた疑念は杞憂だったかな?
そう思いつつ夜の部の治療をのんびりと行った。
全ての治療を終えて後片付けをしていると、貴族風のガッシリした体格の男性がやって来た。
「ちょっと失礼。こちらがホプキンス治療院であるかな?」
この街の人ではないな。
ロザミアの住人なら、私の治療院を知らない人は居ない。
「そうですけど… 今日の診療は終わってますが、急を要するのなら…」
「いや、そうでは無いのだ」
私の言葉を遮って男性は続ける。
「実は最近、ある噂が王都に広まっていてな、その真偽を確かめに来たのだ」
ある噂?
真偽?
…なんか、昨日感じた疑念が…
「ここで立ち話もなんだし、何処かで食事でもしながら話せないだろうか? 場所は貴殿に任せる」
「は… はぁ、構いませんけど…」
そう返事する私の顔は、ひきつっていたに違いない。
私と男性は連れ立って食堂街へ行き、私の行き着けの店に入る。
「いらっしゃ~い! あら、エリカちゃん。その男性は? ロザミアじゃ見掛けないけど…」
私も知らないんだよなぁ…
どう返事するか迷っていると、男性が代わりに答える。
「あぁ、私の事は気にしないでくれたまえ。そうか、やはり貴殿がエリカ殿か。とりあえず座ろう」
…やはり?
やっぱり嫌な予感は当たってるのか…?
私は適当な席を選んで座り、男性も向かい側に座る。
それぞれ食事を注文すると、男性は…
「では…」
と、話し始める。
「まず最近、ロザミアのギルドから王都に帰って来た者が居てな」
あぁ、ミリアさんが言ってた人か…
「その者の話が噂となって王都中に広まっているのだ」
…嫌な予感が当たってる気が…
「エリカ・ホプキンスという名の子供が、毎日大勢の怪我人や病人をたった1人で治している… と言う噂だ」
…やっぱり…
前世でも『人の口に戸は立てられぬ』って諺は聞いた事があるしなぁ…
ミラーナさんも『人の噂は万㎞駆ける』って言ってたし…
前世では『人の噂は千里を走る』だったけど…
「私の事… 噂になってるんですね…」
私はガックリと肩を落とした。
「真実であったか。これで真偽を確かめるという私の使命は果たした。いや、安心して欲しい。貴殿を王都に招聘したいのは山々だが、ロザミアに魔法医が貴殿しか居ないのは重々承知している」
良かった♪
こちらの事情は理解してくれてるんだ♪
「ミラーナ王女からの手紙にも、ロザミアに迷惑を掛けずに貴殿を招聘するには、10数人~20数人もの魔法医を派遣しなければ貴殿の代わりは務まらないとの旨、書かれていたのでな」
知らせてたんかぁあああああいっ!!!!
知らせるなっつったやないかぁああああっ!!!!
私は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「まあまあ、そう気を落とさないで欲しい。王女は貴殿の事を慮って手紙を寄越したのだ」
へ?
ど~ゆ~事?
「王女の手紙には、王宮が噂だけを信じてロザミアの事情も考えずに貴殿を招聘する事を危惧している旨も書かれていた。途中の街で、王都に広まる貴殿の噂を知ったらしい」
…あぁ…
ミラーナさん、私やロザミアの事を心配してくれてたんだ…
なんか嬉しいな…
そんな話をしている内に注文していた食事が運ばれて来る。
私と男性は食事をしながら話を続ける。
「貴殿は王女と同居しているそうだな? 手紙には同居生活の楽しそうな様子も書かれていたぞ。だが、あの王女を相手にしていては苦労が絶えないであろう?」
「まぁ、ハッキリとは言い難いですけど…」
あぁ、この人もミラーナさんに振り回されてたんだろうなぁ…
同情するよ…
「なにしろ体術には絶対の自信を持っていた私を一瞬で倒す様な、とんでもない王女様であるからな! ハッハッハッ!」
アンタの事だったんかい!
ミラーナさんの帰郷準備してた時にミリアさんから聞いたわ!
「そう言えば名乗るのを忘れていたな。私の名はルドルフ・フォン・マインバーグ。爵位は伯爵だ。以後、宜しく頼む」
「は… はい、こちらこそ宜しくお願いします…」
お互いミラーナさんに振り回されてる同士、なんだか気が合いそうだと思った私だった。




