第197話 なんでやねぇええええええんっ!?
ぼきっ!
「ンぎゃぁああああっ!!!!」
ギルドの食堂に鈍い音と絶叫が響き渡る。
「うっ、腕っ! 折れたっ! 折れたぁああああっ!」
床を転げ回りながら痛がるミラーナさんを、呆然と見つめるハンターの兄ちゃん達やおじさん達。
その様子を窓から眺めてニンマリする私を、アリアさん、ミリアさん、モーリィさんがドン引きしながら見つめる。
そして…
「エリカちゃん、いびしい魔法を掛けたんじゃねぇ♪ まぁ、ミラーナ嬢ちゃんの健康の為っちゅ~のは解るんじゃが、ちぃと厳し過ぎるんじゃないかのぅ?」
朝食兼昼食を食べに来たプリシラさんも、苦笑しながら言う。
その傍らには、プリシラさんにハリセンでシバき倒されたらしいサミュエルさんが転がっている。
おいおい…
「私の言い付けを守らないからですよ。こう言っちゃ何ですが、ミラーナさんには言葉より身を以て理解させる方が良いんですよ」
私が言うと、プリシラさんは納得したのか大きく頷く。
「ほぅじゃねぇ… 確かに嬢ちゃんには、身体で解らせるんが一番かも知れんねぇ… ほいで、この後はどうするんね? 治療院で治すんけ? 放っとくんけ?」
プリシラさんの質問に、私は呆れて答える。
「さすがに治療しないワケにはいかないでしょう? ミラーナさん自身は、肉を過剰に摂取した事を誤魔化す為に我慢するでしょうけどね…」
「あ~… 嬢ちゃんなら誤魔化すじゃろうねぇ… じゃけど、事の顛末をエリカちゃんに見られとったけぇ、言い訳は出来んじゃろうけどねぇ…」
「いや… 義姉上の性格なら、バレるまでは誤魔化すと思いますよ…」
アンドレ様、居たんかい…
存在感の薄い人だなぁ…
────────────────
その日の夕食時…
私に見られていたとは思ってもいないミラーナさんは、アンドレ様が予想した通りだった。
額に脂汗を滲ませながら誤魔化したのである。
「今日は少し苦労したよ… 調子が悪いのかなぁ? 腕が思う様に動かなくてね…」
「300gを超えた量の肉を無理矢理食べようとして腕が折れたんじゃ、仕方無いですけどねぇ…」
ぶふぉっ!
飲もうとしたスープを吹き出すミラーナさん。
汚ねぇな、おい…
「な… なんで…?」
「皆、見てたんですよねぇ… 私、ミリアさん、モーリィさん、アリアさん… ついでにアンドレ様と、ギルドに朝食兼昼食を食べに来てたプリシラさんも見てましたよ?」
「ついでって…」
苦笑するアンドレ様。
仕方無いじゃん、喋るまで居る事に気付かなかったんだから…
ミラーナさんは、目を泳がせながら私に聞く。
「最初から分かってた…? 肉を必死に食ってた事、内緒にしてたのに…?」
無駄だよ…
ロザミアの街中、私の信望者(?)だらけなんだ。
私がちょっと声を掛けりゃ、ミラーナさんの動向を監視する隠密として動いてくれるハンターの兄ちゃんなんて、いくらでも居るんだからな。
まぁ、この件に関しては、ルディアさんから聞いたんだけど…
「だったら最初から言ってくれよぉ~… これからは無理して食わないから、早く治してくれよぉ~… 痛くて痛くて泣きそうなんだよぉ~…」
いや、泣いてるだろ…
「自業自得ですけどねぇ… そもそも私、ミラーナさんの健康を考えて肉の摂取量を制限したんですよ? それを無視して肉を食べるから、こんな事になるんです。これに懲りたら、肉の摂取量を守って下さい」
「解ったよぉ~… アンドレ… この事、キャサリンには…」
「言いませんよ、僕はね…」
気になる言い方をするアンドレ様。
ミラーナさんも気付いたのか、アンドレ様に詰め寄る。
「僕は…? それって、ど~ゆ~意味だ? まさか、誰かがキャサリンに…?」
「ライザちゃんでしたっけ? さっきヴィランに行くって飛んで行きましたよ。なんでもキャサリンから『ミラーナ姉様の面白い話があったら、どんな事でも良いので知らせて下さい』って言われてたみたいで…」
キャサリン様…
あんた、どんどん性格が王妃様に似てきたんでないかい?
マリアンヌ様、ミラーナさんでも太刀打ち出来ないぐらいにはっちゃけてるからなぁ…
それはともかく、ライザさんがヴィランに向かったって事は…
…うん、方向さえ間違ってなければ、夕方にはキャサリン様にミラーナさんの醜態が知らされてるって事だな♪
「ライザちゃん… 頼むから飛ぶ方向を間違っててくれ…!」
ミラーナさんの願いも空しく、翌日の昼にライザさんはロザミアに帰ってきた。
何回も往復してるから、方角だけは覚えたかな?
なんでもヴィランではキャサリン様に歓待され、豪勢な食事まで振る舞われたらしい。
ミラーナさんの話が、よほど面白かったそうで…
報告を聞いたミラーナさんは落ち込み、国に帰るアンドレ様の見送りにも出て来れなかった。
「…ミラーナ義姉上には宜しくお伝え下さい。婚礼の義、日程が決まり次第お伝えしますので。出来れば皆さんにも出席して頂ければと思うのですが…」
婚礼の義… 出席かぁ…
私かアリアさん、どっちかはロザミアに残らなきゃいけないだろうなぁ…
私の思案顔に気付いたのか、アンドレ様は苦笑する。
「エリカちゃんは、ロザミアが心配なんだね? 全員が出席したら魔法医が居なくなって、緊急事態に対応出来なくなるって…」
アンドレ様、理解してくれてるんだな…
「だから、僕の国から魔法医を派遣するよ。エリカちゃんには及ばないけど、僕の国に優秀な魔法医が20名ぐらい居るんだ。骨折ぐらいなら、1人が1日で20人は治せるのかな? だから10人の交代制にすれば、婚礼の義の間ぐらいはエリカちゃんの代わりを務められるんじゃないかな?」
マジかい…
ヴィランからも魔法医を派遣して貰った事があるけど、最終的には40人全員がヘロヘロになってたぞ?
イルモア王国の魔法医は、アンドレ様の国の魔法医よりレベルが低いんかいっ!
「エリカちゃん、それは仕方無いよ。僕の国の魔法医達は、エリカちゃんの考えに近いんだ。ロザミアの魔法医達は、言っちゃ悪いけど名誉を重んじるみたいで、患者を治すのは次点に置いてる感じがするんだよねぇ…」
「そうですね… 言っちゃ悪いとは思いませんけど、ヴィランの魔法医は患者を治す事より金儲けに重きを置いてる感じがしますね…」
私達の会話にアリアさんは大きな溜め息を吐く。
「ヴィランの魔法医達って、そんな風に思われてたんですね… だとしたら、少しミラーナさんに活を入れて貰わなきゃいけないかも知れませんね…」
その後しばらくして、ヴィランの魔法医達が実力向上の為にシゴかれる事になるのだが…
何故か私が講師としてヴィランに招かれる事になるとは、全く予想していなかった。
なんでやねぇええええええんっ!?