第196話 悪魔も泣いて逃げ出す報復… って、なんでやねん!?
11月5日の休診日。
秋の味覚を求めて再びニースにやって来た私達。
ライザさんが背負うカーゴは王都から帰ってから更に改良。
いきなり全力で飛ぶライザさんに対応し、全席前向きに設置。
バックレストに採用した低反発クッション──魔法で作成──が、急加速しても柔らかく受け止めてくれる。
そして、急減速にはF1でも使われている6点式シートベルトを採用。
更にF1で使われているHANSとショルダーサポートを使う事で、急減速での首へのダメージを抑える事にした。
その為、ヘルメットを被る事になり、髪型が乱れるとか暑苦しいとか不評だったのだが…
「ロープか何かで座席に頭を固定すれば良いんだろ?」
と言って、ミラーナさんは言葉通りにロープで座席に頭を固定。
何も考えていないであろうモーリィさんも、それに倣う。
当然、提案者である話はヘルメットを被ってHANSとショルダーサポートを装着。
私の信望者(?)であるアリアさんも、私に倣う。
他のメンバーはと言うと…
賢明な事に、私に倣ってヘルメットを被ってHANSとショルダーサポートを装着したのだった。
結果はと言うと…
ロープで座席に頭を固定した2人は、頚椎を捻挫。
変に頭が固定された状態での急減速が原因で、車で追突された様な感じになってしまったのだ。
つまりは〝むち打ち症〟だな…
「だからヘルメットを被って、HANSとショルダーサポートを装着して下さいって言ったじゃないですか…」
「いや… まさか首への衝撃が… こんなに強いとは思わなくて…」
私が治療しながら言うと、ミラーナさんは目に涙を浮かべながらも痛みに耐えているが…
「く… 首ぃ~… 痛いよぉ~…」
モーリィさんは、ダバダバ涙を流していた。
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「それじゃ、ライザさんは私と一緒にトリュフ探し。ミリアさんはアリアさんと一緒にキノコ採取。モーリィさんはルディアさんと一緒に山菜採り。ミラーナさんはアサシン・ボアを狩って─」
「ちょっと待てぇえええええっ! なんでアタシだけ危険な役割なんだよ!」
私の当然とも言える提案に、何故か激昂するミラーナさん。
「危険ですか? ミラーナさんぐらいの腕前なら、アサシン・ボアなんて簡単に狩れるでしょ? それに…」
「それに…?」
訝しげに私を見るミラーナさんに、私は宙を仰いで続ける。
「ギルドでマークさんが言ってたでしょ? アサシン・ボアがニース付近で増えて困ってるから、間引いてて欲しいって依頼が来てるって。だから、狩ったら狩っただけ報酬も貰えるし、大好きな肉を食べられる─」
「それを先に言えぇえええええっ!」
ミラーナさんは私が言い終えるより早く、アサシン・ボアの生息地に猛ダッシュで入っていった。
「ミラーナさん、単純ねぇ…」
「だね… エリカちゃんに毎食300gしか肉を食べられない魔法を掛けられたの、忘れてるんだろうねぇ…」
ミリアさんとモーリィさんが言うと、アリアさんも大きく頷く。
「ミラーナさんって、お肉を毎食300gしか食べられないの? それって、どういう事なの?」
あぁ、ルディアさんは知らなかったな…
「ミラーナさん、偏食が過ぎるんですよ。魔法医としては、健康の為に見過ごす事は出来ませんからね。バランスの良い食生活を送って貰う為に、肉の摂取量を魔法で制限したんですよ」
私が説明すると、ルディアさんはしみじみと言う。
「エリカちゃん、大変ねぇ… 魔法を使ってまでミラーナさんの偏食を治そうと努力してたのね…」
ん?
努力してた?
何故に過去形?
私の疑問に気付いたのか、ルディアさんは遠くを見る様な目になり…
「ミラーナさん、お昼を毎日ギルドで食べてるんだけど… 鬼の形相って言うの? 鬼気迫る表情で肉のフルコースを食べてるのよ… 牛肉、豚肉、羊肉、ボア肉… ありとあらゆる肉を全力で食べてるわ…」
マジかい…
てか、私が掛けた魔法で肉の摂取量が300gを超えたら、肉を食べようとしても腕が野菜類しか取れない様にした筈なんだけど…
「不思議だったのよ。お肉を食べようとしてるミラーナさんの腕がブルブル震えてるのが… あれって、エリカちゃんの掛けた魔法に抵抗してたのね? それにしても、エリカちゃんの魔法に全力で抵抗してまでお肉を食べるなんて、凄い執念よね…?」
確かに凄い執念だけど…
ミラーナさんの健康を考えて掛けた魔法なのに、全力で抵抗してまで肉を食ってたとはな…
最近、肉の摂取量に関して何も文句を言わないから、なんか変だと思ってたんだよ。
力ずくで食ってたんだな?
私の事、ナメてんのか?
ナメてんだな?
殺すぞ、この野郎!
いや、冗談です…
魔法医──医者が殺すぞなんて言っちゃいけませんね。
言っちゃいましたけどね。
あ、モノローグだから大丈夫ですか?
そ~ゆ~問題じゃないですね、ごめんなさい。
それはともかく、私はミラーナさんに掛けた肉の摂取量を毎食300gにする魔法を更に強化する事を決意。
300gを超えて肉を摂取した瞬間、腕の骨が折れる様にしたのだった。
その所為かどうかは知らないが、しばらくしてロザミアではある噂が流れる様になった。
曰く、エリカが魔法医として禁止した事を守らなかったら…
悪魔も泣いて逃げ出す報復を受ける事になると…
なんぢゃ、そりゃぁあああああっ!