第195話 エリカの誕生日パーティー
ミラーナさんの力任せの治療(?)から少し経った頃。
1日の診療を終えてリビングに上がろうとすると、アリアさんが待ったを掛ける。
「エリカさん、今から一緒にギルドに行って貰えますか?」
「ギルドですか? まぁ、構いませんけど…」
ワケが分からないまま、アリアさんに付いてギルドに向かう。
ドアを開けると…
パパパパ━━━━━━ン
「「「「「エリカちゃん、誕生日おめでと~♡」」」」」
いきなり大量のクラッカーが鳴り響き、大勢から祝いの言葉が述べられる。
「エリカちゃん、水臭いじゃないか♪ 誕生日ぐらい、俺達にも教えてくれよ♪」
マークさんが言うと、ギルド職員達が一斉に頷く。
「そうそう、今まで誰も知らなかったのが不思議だけどよ♪ 日頃の礼と言っちゃ~何だけど、俺達にも祝わせてくれよ♪」
と、治療院の面々やギルド職員だけでなく、普段は患者として接しているハンターの兄ちゃん達まで祝ってくれた。
そんな中、ミラーナさんがグラス片手に話し始める。
「今日はエリカちゃんの誕生日パーティーだ! 料理はエリカちゃんに鍛えられたミリアさんと、アリアちゃんが頑張ってくれたぜ♪ 勿論、モーリィさんとルディアさんもな! エリカちゃんの寿司が食べられないのは残念だけど、主賓に作らせるのは違うと思うから我慢してくれ! それはともかく、今夜は盛り上がろうぜ!」
そしてミラーナさんは酒の入ったグラスを高々と掲げ…
「それじゃ、エリカちゃんの二十代最後の誕生日に─」
「余計な事は言うなっ!」
すぱぁあああああんっ!!!!
「あ痛ぁっ!」
本当は顔面を叩きたかったが、誕生日を祝ってくれてるのに悪いと思い、ダメージの少ない尻にしておいた。
「し… 尻をひっ叩くとは… こんなの、3つか4つの頃に寝酒してるのが母上にバレて以来だな…」
良い子はマネしない様にしましょう。
てか、そんな幼少期から飲酒してたんか、このアマ…
その所為で記憶力に障害が出てんじゃないだろうな?
21歳って若さのワリに物忘れが酷いからな、こいつ。
時々だけど…
「ミラーナさん… 15歳未満の飲酒はイルモア王国では禁止されてますよ? イルモア王国だけじゃないですけど…」
今更だけどな…
「もう時効だよ、15年以上前の話じゃんか」
マークさんの苦言にミラーナさんが反論する。
反論ってモンでもないけど…
「ちなみにですけど、15歳未満の飲酒に関して罰則とかあります? 本人が飲むのは勿論ですけど、年齢を知ってて飲ませた場合とかも含めて…?」
私の質問にマークさんは首を振る。
「特にこれと言った罰則は無いけどね。バレたら叱られるって程度だな。もっとも、無理に飲ませた事が原因で急性アルコール中毒… 最悪、死に至らせた場合や、それに近い状態に陥らせた者には罰則が課せられるよ」
なるほど…
まぁ、当然の事だろうな。
「エリカちゃん、危なかったね~♪ 以前、ルグドワルド侯爵様の息子さん… グランツ様だっけ? 強引に飲ませてブッ倒れさせたモンね~♪」
「そんな事もあったわね… エリカちゃん、グランツ様が急性アルコール中毒で死ななくて良かったわね? なってたらエリカちゃん、今頃牢屋の中よ?」
モーリィさんがからかう様に言い、ミリアさんが心配そうに言う。
いゃ、侯爵家の跡取りを死なせたら牢屋どころか死刑だろ。
不老不死だから死なないけど…
「エリカちゃん… そんな事したのか…?」
ジト目で私を見るマークさん。
「過ぎた事ですよ。そんな事よりパーティーの続き…」
言いかけた時、ギルドのドアが勢いよく開き…
「毎度~♪ ご注文の出刃包丁3丁、お届けに参りました~♪」
プリシラさんが元気に入ってきた。
片手に抜き身の出刃包丁3丁を握り締め(おいおい…)、もう片方の手で失神したサミュエルさんを引き摺って(おいっ)…
「プリシラさん… サミュエルさんが何かしたんですか…?」
私が聞くと、何故かプリシラさんは目を逸らす。
「プリシラさん…?」
「えぇっとぉ~… こんなが出刃包丁こさえる時、また手抜きしよったけぇ… エリカちゃんに貰うたハリセンでシゴウしゃげただけなんじゃけど…」
なんだ…
そんな程度なら、目を逸らさなくても良いと思うけどな。
「勢いが良過ぎたんか、ハリセンの威力が思ったより強かったんかは知らんのんじゃが… サミュエルが白眼剥いて動かん様なったけぇ、出刃包丁届けるついでにエリカちゃんに診て貰おう思うて引き摺って来たんじゃわ」
どんな手抜きしたのか知らんけど、ちょっとは手加減しろよ…
パッと見ただけでも首の骨が折れてるのが判るぞ?
首が変な方向に曲がってるしな…
とりあえず私はサミュエルさんを治療し、しっかりプリシラさんから治療費を徴収したのだった。
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「それじゃ、ごちゃごちゃして中断していたが… 改めてエリカちゃんの誕生日パーティー開催だ! 皆、グラスは持ったか?」
ミラーナさんがグラスを掲げると、ギルドに集まった面々もグラスを掲げる。
勿論、急遽参加する事になったプリシラさんとサミュエルさんも。
「エリカちゃん、29歳の誕生日おめでとう~♡」
「「「「「おめでとう~♡」」」」」
それからは全員がまぁ、飲むわ食うわ…
私の誕生日ってだけなのに、こいつら他に楽しみが無いのかってぐらいに騒いでいた。
「それだけ皆、エリカちゃんに感謝してるって事なんだろうな。エリカちゃんがロザミアに来てから数年、ハンター連中の誰も死んでないんだ。毎年何人か… 多い年は十何人も魔獣や魔物の犠牲になってたからな」
しみじみと言うマークさん。
そうなのか…?
私としては、医者──魔法医として当然の事をしてるだけなんだけどな…
「それ以前の問題だと思うわよ?」
「そうそう。エリカちゃんがロザミアに来るまで、魔法医自体が居なかったんだもんね~」
そりゃ確かに問題だったろうな…
てか、なんで居なかったんだろ…?
「いや… 居た事は居たんだよ… まだミリアやモーリィが小さい時だから、知らないのも無理はないがな」
居たのか…
じゃあ、居なくなった理由って…?
「エリカちゃんなら解るんじゃないか? 毎日、何人の怪我人や病人を治してる? 普通の魔法医が2人や3人… いや、5人や10人居たとして、毎日の治療を熟せると思うかい?」
無理だな…
ハンター連中には怪我が付き物だし、数日に一度は治療に訪れている。
仕事の内容次第では毎日だ。
それも、ちょっとした切り傷や擦り傷じゃなく、裂傷や骨折が日常茶飯事。
そんなのを毎日100人以上も治すなんて、普通の魔法医には無理ってモンだからな…
5人や10人じゃ、とても手が足りないだろ…
「だからこそ、皆エリカちゃんに感謝してるんだ。勿論、アリアちゃんにもな」
「そんな… 私なんてエリカさんに比べたら…」
「謙遜しなくて良いですよ♪ アリアさんは充分にやってくれてますから♪」
私が言うと、アリアさんは真っ赤になって俯く。
「そんな… 私なんて、まだまだですよぉ… 私が一ならエリカさんは十… 百… 千…」
アリアさん、ここまで卑屈だったっけか?
不思議に思っていると、ミリアさんとモーリィさんが横からアリアさんのグラスにコッソリ酒を継ぎ足している。
酔わされてんのか…
周りを見ると、既に半数以上のハンター達が酔い潰れている。
お前ら… 私の誕生日パーティーで主役を無視して潰れてんじゃねぇよ…
こりゃ、明日の朝の部の診療…
また二日酔いのハンター連中と治療に忙殺されそうだな…
そう確信した私は、翌日(24日)の治療院を臨時休業とし、翌々日の定休日(5の付く日:25日)と合わせて連休にしたのだった。
【追記】
ハンター連中は勿論、治療院の面子も私の治療をアテにして暴飲したらしく、酷い二日酔いに苦しんでいた。
ちなみに、知らず知らずの内に飲まされていたアリアさんだけは、内緒で治療しておきました。