第192話 プリシラさん、実は怖い人なのかも…?
「ふわぁあああ~…」
エリカは朝食を食べながら大欠伸する。
「おいおい、エリカちゃん… そんな状態で診療して大丈夫なのか? ちょっとは寝た方が良くないか?」
「そうですよ。朝までプリシラさんにハリセンの説明してたんでしょ? 朝の部の診療は私に任せて、少しでも寝て下さい」
ミラーナとアリアに促され、エリカは寝室に向かおうと立ち上がり…
ずるっ ぼてっ ゴンッ!
足を滑らせ倒れ、床に頭を打ち付ける。
「あ痛ぁっ!」
頭を抱えて悶絶するエリカ。
「ちょっとエリカちゃん、大丈夫!?」
「見せて下さい! …って、コブになってますよ!」
駆け寄るルディアとアリア。
「言わん事ちゃない… アリアちゃん、コブを治して部屋に連れてってくれないか? 1人で無理なら、ルディアさんも一緒に頼むよ」
「「分かりました」」
言ってアリアはエリカのコブを治し、ルディアと共に部屋へと運ぶ。
運ばれるエリカは目を回していた。
「何やってんだかねぇ… 徹夜したんなら、寝てりゃ良いじゃん」
「アリアちゃんも居るんだから、無理しなくても良いのにねぇ…」
朝食を食べながら、淡々と語るミリアとモーリィ。
「ボクだったら遠慮しないで寝てるけどねぇ♪」
ライザが言うと、ミリアとモーリィは…
「「それって、いつもよねぇ…」じゃん…」
ジト目で呟いた。
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昼が過ぎ、アリアが朝の部の診療を終えて昼食を食べに出掛けると、ようやくプリシラが起きてくる。
「あ~~~、よぉ寝たのぅ… って、誰もおらんのかいな… ウチの工房、どないなったんか聞きたかったんじゃがのぅ…」
「工房ですか? それなんですけど、良い場所が無いんですよねぇ」
「のわぁあああああっ!!!!」
プリシラの後ろからエリカが言うと、プリシラは驚いて前方へ吹っ飛ぶ。
「エ… エリカちゃん、おったんない!?」
「居たと言うか、朝までプリシラさんにハリセンの説明してたでしょ? 朝の部の診療が出来る状態じゃなかったんで、今まで寝てたんですよ」
プリシラは苦笑しながら頬を掻き、申し訳なさそうに言う。
「そりゃ~申し訳なぁ事をしたのぅ… ほなウチが昼メシご馳走するけぇ、何処かで食わんね?」
エリカはコクリと頷き…
「じゃあ、ギルドの食堂で食べましょう。ギルドマスターのマークさんって人にも工房に適した場所を探して貰ってますから、何か情報が入ってるかも知れませんしね」
と、プリシラの手を取って引いていく。
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「なんねぇ。ギルドって、こがいにねきに在ったんじゃねぇ…?」
「ここはロザミアの中心部ですからね。この中央広場の近くには商店街や食堂街が在って、その外側が住宅街って感じの街なんですよ」
言いつつ私はギルドのドアを開ける。
「こんにちは~♪ マークさん、居ますか?」
「おうっ、エリカちゃん。今日はギルドで昼メシかい?」
マークさんが食堂のテーブルで食事しながら返事する。
プリシラさんに気付くと…
「…で、その女の子は誰だい? 初めて見る顔だけど…?」
と、首を傾げる。
プリシラさんは私を見て…
「エリカちゃ~ん、女の子じゃて♪ あんにはええ人じゃねぇ♡」
と、相好を崩しまくっていた。
女の子っていう言われたのが、そんなに嬉しいんかい…
「えっと… 前に話したドワーフで鍛冶師のプリシラさんですよ。探して欲しいって言ってた鍛冶工房に丁度良い場所ですけど、見付かりましたか?」
「あぁ、それなら少し待ってくれるかい? 歳だから引退するって鍛冶師が居てね。サミュエル・クーパーってんだけど、腕が良いだけに─」
「サミュエル!? なぁ、おっさん! 今、サミュエルっていよったか!? サミュエルがロザミアにおるんない!?」
マークさんの出した名前に激しく反応するプリシラさん。
…って言うか、おっさんって…
いや、確かに広島では〝おじさん〟の事を〝おっさん〟って言うけど…
マークさん、気を悪くしてないだろうな…?
一応、フォローしとくか…
「え~と、マークさん… プリシラさん、ちょっと方言がキツくてですね…」
「エリカちゃん、気にしてないよ。サミュエルってのも、たまにだけど似た様な話し方をするんだ。Bランクより上の連中からしか依頼を受け付けない偏屈な爺さんなんだけどね」
そうなのか…
てか、プリシラさんに似た様な話し方って…
「マークさんじゃったか? サミュエルの工房に案内してくれんね? 多分じゃけど、ウチの知っとるヤツじゃと思うけぇ」
「分かった… って言うか、2人共昼メシを食いに来たんだろ? 先に食ったらどうだい?」
「「あ…」」
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私とプリシラさんは急いで昼食を済ませ、マークさんの案内でサミュエル・クーパーさんの工房へとやって来た。
「お~い! サミュエル爺さん、居るか~? あんたに客が来てるぞ~!」
しばらく待つとドアが開き、頑固そうな老人が現れる。
「ワシに客じゃと? 中途半端なヤツの依頼なんぞ、いくら金を積まれてもお断りじゃぞ!」
「おどりゃ、ウチの顔を見ても同じ事をいやぁがるつもりか、こんバカタレがっ!」
すぱぁあああああんっ!!!!
「痛ぇっ! いきなり何をしやが… って、師匠!?」
プリシラさんは、背中に背負ったリュックから取り出したハリセンでサミュエルさんの頭を叩く。
作ってたんかい… って言うか…
「「師匠!?」」
私とマークさんの声がハモる。
「ほぅよ。こんなはウチんトコに、鍛冶職人になりたいっちゅ~て弟子入りしよったんじゃわ。60年ぐらい前じゃったかのぅ?」
ろ… 60年前…?
「あん時ゃあ、こんなもかばちたれるだけのくそったれガキでのぅ。いつぃきウチにシゴウされとったんよ」
殴って教えるなよ…
いや… 60年も前なら、それが普通だったのかも知れないけどさ…
「10年程度の修行でケツまくったクソったれが、『中途半端なヤツの依頼なんぞお断り』じゃと? おおもんいやぁがって、おどりゃ~何様んつもりじゃ!」
プリシラさんに詰め寄られ、青褪めるサミュエルさん。
「いや、その、師匠… ワシはこれでもロザミアでは腕利きの鍛冶職人として知られていて… ですから、そのぉ…」
何とか言い繕おうとするサミュエルさんの胸ぐらをプリシラさんはガシッと掴み、更に詰め寄る。
「じゃかあしぃわっ! 何が腕利きの鍛冶職人じゃっ、こんおおもんたれが! ウチゃ、いっちょまえの鍛冶職人になるんは最低でも20年は修行せえっちゅ~たじゃろうがっ! 半分の10年でトンズラこいた半端モンが偉そうに腕利きの鍛冶職人なんぞといやぁがるなんざ、こらえんど!」
プリシラさんの迫力に、私とマークさんは何も言えずに成り行きを見守るしか出来ない。
「おどりゃ~最初から鍛え直さんといけん様じゃのぅ…」
プリシラさんは私の方を向き…
「エリカちゃん… こんなを若返らせられるかのぅ? ミラーナ嬢ちゃんから聞いたんじゃが、どんな魔法でも無制限で使えるんじゃろ?」
「は… はい、まぁ…」
私はプリシラさんの迫力ある質問に対し、素直に答えるしかなかった。
「ほなら、この工房はウチが貰う。このクソは、もっぺんウチの弟子として一から鍛え直しちゃるわ♪ 二度と中途半端な実力で〝腕利きの鍛冶職人〟なんぞと名乗れん様にのぅ♪」
そして私はプリシラさんの言われるままに、魔法でサミュエルさんを若返らせた。
サミュエルさんはプリシラさんに工房を乗っ取られ、毎日の様にドツき倒されながら再度の修行に励んでいるそうな。