第191話 年齢の事は聞かないで下さいっ!
「はぁ~~~… 王宮の風呂も広くて良いけど、治療院の風呂の方が落ち着くよなぁ…♪」
浴槽に肩まで浸かり、リラックスするミラーナさん。
アンドレ様は初めての空の旅で疲れたのか、先に風呂に入って寝てしまった。
「ところでさ… 以前モーリィさんの誕生日が6月18日で、ミリアさんの誕生日が10月9日ってのは聞いたけど、他の皆の誕生日って聞いた事がないよな?」
ミラーナさんが言うと、全員が一斉にコクコクと頷く。
「ですよねぇ…? エリカちゃん、ミラーナさんと同じ秋だって言ってたけど、いつなの?」
ミリアさんが髪を洗いながら、隣で身体を洗う私に聞いてくる。
「私ですか? 私は10月23日ですね」
「10月生まれが3人も居るって、凄いかどうかは別として偶然だよねぇ♪」
何故か楽し気なモーリィさん。
「私は7月7日ですね。なので、少し前に159歳になりました♪」
アリアさん、七夕の生まれなのか…
この世界に七夕は無いけど…
「ボクは2月25日だね♪ だから347歳になっちゃった♪」
歳の差が凄いな…
ライザさんとアリアさんだけなんだけど…
「私は8月23日ね。25歳になっちゃったわ…」
ルディアさん… この世界の常識と言って良いのか分からないけど、一般的には17~25歳で結婚するらしいからな。
結婚する気があるなら婚活しろよ?
「ウチは9月6日じゃねぇ♪ 来年、丁度400歳じゃわ♡」
プリシラさん、最年長かい!
てか、見た目は10代後半か20代前半なのに、来年で400歳だと!?
いやまぁ、ドワーフもドラゴンやエルフ同様、長寿の種族だけど…
「モーリィは少し前に27歳になっちゃったのよね。私もすぐに27歳だけど…」
「…で、アタシが21歳になったんだよな。エリカちゃんは何歳になるんだ?」
ミラーナさんに話を振られ、私はピキッと固まる。
「エリカちゃん、どうしたの?」
ミリアさんが私の顔を覗き込んで聞いてくる。
が、私はスッと顔を背ける。
「エリカちゃん?」
きっと今の私は、笑いたくても笑えない…
違うな、苦虫を噛み潰したような表情…
でもない…
とにかく今の私は…
「エリカちゃん、なんでビミョーな表情してんの?」
「んにょわぁああああっ!!!!」
ズルッ ぼてっ ゴチンッ!
「あ痛ぁっ!」
顔を背けたトコをモーリィさんに話し掛けられた私は椅子からずり落ち、床に倒れて頭を打ち付ける。
「エ… エリカちゃん! 大丈夫!?」
ミリアさんが慌てて私を抱き起こす。
「ちょっとモーリィ! 驚かしちゃダメじゃない!」
「え…? いや… 私、最初からここに居たけど…?」
ミリアさんに言われ、キョトンとした表情で答えるモーリィさん。
「あれっ? そうだっけ…?」
「そうだよ? 最初からエリカちゃんを挟んでたじゃん?」
そうだった、すっかり忘れてたよ…
「ごめんねぇ、エリカちゃんと2人だけだと思ってたわ…」
「何を言ってんのよ。さっきからミラーナさん以外、並んで髪とか身体を洗いながら話してたじゃん」
ミリアさんに抱き起こされながら見ると、確かにミラーナさん以外の全員が並んでいる。
ミラーナさんだけ髪が短いから、洗うのが早いんだよなぁ…
短いと言っても、肩に掛かるぐらいの長さだけど…
他の皆(私も含む)は背中から腰までと、そこそこ長いから洗うのに時間が掛かるんだよなぁ…
ミラーナさん曰く、髪が長いと戦う時に邪魔だし纏めるのも面倒だから短くしてるんだそうだ。
どこまでもハンターとしての考えに添ってるんだな…
「あはは… 私、一番端っこだったから分からなかったわ…」
それでも小さい私の頭越しに、モーリィさんは見えるだろ…?
まぁ、そんな事はどうでも良いんだけど…
「で、エリカちゃん今月の23日で何歳になるんだっけ? 治療院の住人… 人間に限って言えば、最年長だったと思うんだけど…?」
ミラーナさんが浴槽でリラックスしながら話し掛ける。
今の騒ぎで有耶無耶にしようと思ってたのに、余計な事を!
「確か… ルグドワルド侯爵様の邸に泊まった時、息子様のグランツ様がエリカちゃんの歳を聞いてたわよね…?」
「あ~、思い出した! 確かグランツ様が自分は12歳だって言って、エリカちゃんが答えたんだっけ」
ミラーナさんの質問に、ミリアさんとモーリィさんが記憶を呼び覚ます。
思い出すなっ!
頼むから忘れててくれっ!
「その時『前年の秋で27歳』って言ってたわよね?」
「そうそう! それって去年だよね? って~事は、23日で29歳なんだ! 20代最後の誕生日だね♪ エリカちゃん、来年で30歳なんだ!」
私の胸に何かがグサッと突き刺さる。
「エリカちゃん、来年で30歳なのね? 30代って、女盛りって言うわよ? 益々活躍しそうね♪」
ルディアさん…
嬉しい事を言ってくれるなぁ…
ただ、中身と言うか精神は男なんだけどね…
言えんけど…
「ウチ等も似た様な事を言うのぅ♪ 一桁多いんじゃがね。ドワーフでは、300歳から500歳になるまでが女盛り言われるのぅ♪」
「エルフも似た様なモンですね。ライザさん、ドラゴンもですか?」
「うん、そんな話は聞いた事はあるよ。だけどドラゴンは2000歳ぐらいまで生きるから、600歳から900歳が女盛りって言われてたかな? だからボクには250年ぐらい先の話だね♪」
そんな話、どうでも良いわいっ!
不老不死だから年齢は関係無いとは言え、アラサーともなればミラーナさんからまた〝オバン〟って言われるやないかいっ!
言いやがったら殴ろう…
「そうか… エリカちゃん、来年で30歳か…」
私はいつでも動ける様にスタンバる。
「エリ… んグ…」
私に声を掛けようとしたミリアさんの口を押さえる。
更に自分の口に人差し指を当て、他の皆にも黙っているよう指示する。
私の意図を理解したのか、全員がコクリと頷く。
いや、さすがにプリシラさんは解っていない様で、首を傾げている。
が、なんとなく察したらしく、黙ってくれている。
「確かエリカちゃんが26歳って言った時、オバンって言ってハリセンで殴られたっけな」
覚えてんだな…
「テーマパークが完成した時だったかな? でも、30歳になったなら言っても良いよな?」
私は異空間収納を開け…
「エリカちゃん、来年の10月23日でオバン…」
「オバンぢゃないわあぁああああっ!!!!」
ずどぱぁあああああんっ!!!!
「ぎょわぁああああっ!!!!」
私は魔法で瞬間移動し、ゴルフスイングの要領でミラーナさんの頭をブッ叩く。
ミラーナさんは浴槽から飛び出し、素っ裸のまま浴室の壁にめり込む。
「エリカちゃん… それ、何ねぇ? いびしい威力じゃねぇ?」
プリシラさんが感心した様に聞いてくる。
壁にめり込んでるミラーナさんは無視ですか…?
「あぁ、嬢ちゃん頑丈じゃけぇねぇ♪ じゃけどそれ、ウチもこさえてみたいモンじゃねぇ♪ 職人の腕が鳴るのぅ♪」
あら?
職人魂に火が付きましたかね?
その後、風呂から出た私はプリシラさんからハリセンの作り方を根掘り葉掘り聞かれ、朝まで眠らせて貰えなかったのだった。
ビートルズに詳しい人なら分かりますね?
一部のキャラクターは、ビートルズのメンバーと同じ誕生日を設定しています。
ライザの誕生日、2月25日はジョージ・ハリスン。
モーリィの誕生日、6月18日はポール・マッカートニー。
アリアの誕生日、7月7日はリンゴ・スター。
ミリアの誕生日、10月9日はジョン・レノン。
(※日付順)
ちなみにエリカの誕生日は筆者(12月23日)と筆者の妻(8月23日)の中間(秋生まれの設定なので…)、ルディアは筆者の妻(8月23日)、プリシラは筆者の娘(9月6日)に設定しています。
ミラーナは…
話に合わせた思い付きです。
ミラーナ・ファン(?)の皆さん、適当でスイマセン(苦笑)