第187話 プリシラがロザミアに移住? またエリカの周りは騒がしくなるのか?
「アリアちゃんじゃったか? 2つ目が出来たけぇ、使ってみてくれんね? 性能が違うとったら調整するけぇ、遠慮のぅ言うてつかぁさいや♪」
プリシラが聴診器を渡しながら言う。
アリアはミラーナとライザの心音と呼吸音を聞き、納得した様に頷く。
「こちらも問題ありませんね♪ 心音、呼吸音がハッキリ聞こえ、余計な雑音は問題ないレベルです♪」
アリアの感想を聞き、プリシラは満足そうな笑顔を浮かべる。
「いやぁ~、初めてこさえたにしちゃ~上出来じゃったみたいじゃねぇ♪ それんしても、エリカちゃんじゃったか? よぉ、こがいに細かぁ描きよったのぅ。この図面っちゅ~か設計図が無かったら、もっとあずったじゃろうねぇ♪」
「えぇ、まぁ… エリカさんの医学知識は、私なんかより遥かに先を行ってますから…」
いまいちプリシラの方言が解らず、何となく意味を察しながら答えるアリア。
「ほぅか♪ ウチは仕事しとったけぇ、話を聞いただけじゃったが… エリカちゃんが初めてヴィランに来た時ゃ~、毎日もんの凄い数の怪我人や病人を治したらしいのぅ♪ それを聞きよっただけでも、ぶち腕のええ魔法医じゃっちゅ~のは分かるわのぅ♪ ほいで、この聴診器の図面っちゅ~か設計図じゃろ? ほんま、えずいのぅ♪」
「えぇと… はい… そうですね…」
プリシラの方言はアリアに解る部分もあったが解らない部分の方が多く、何となくで返事をしていた。
「まぁ、エリカちゃんの知識にはアタシも驚く事が多いんだよ。なんなら、会ってみたらどうだい? 会って、そのままロザミアに住むのも良いんじゃないかな? ロザミアはハンターが多いから、武器や防具を作ったりメンテナンスしたりで収入には事欠かないと思うんだけど…」
ミラーナに言われて考えるプリシラ。
「そりゃ~、収入がええんは魅力的じゃけど、ロザミアは遠いけぇねぇ… 引っ越すんはせんないのぅ…」
「プリシラはロザミアがアタシの治める領地だってのは知ってるだろ? ちなみにだけど、アタシの一存でロザミアの税率は0.5割なんだ♪ それに、ギルドに登録してるハンターなんかは非課税なんだよね♪ まぁ、誰も彼もがギルドに登録したら都市の税収が無くなるから、飲食業や販売業なんかはギルド登録不可にしてるんだけどさ。…って言うか、ロザミアにはギルドが一つしか無くて、飲食業界や販売業界まで面倒を見れないってのが本音なんだけどな。それは別として、特殊な技能や能力が必要な職種… 例えばエリカちゃんみたいな魔法医はギルドに登録可能なんだよ。だから…」
「ウチみたいな鍛冶職人は、ギルドに登録したら税を払わんでええっちゅ~こっちゃな!? ほな行くわ! すぐ荷造り始めるけぇ、待っとってつかぁさいや♪」
言うが早いか、自室へ向かおうとするプリシラ。
「待て待て待てっ!」
そんなプリシラをミラーナが慌てて引き止める。
「アタシがロザミアに帰る時、一緒に行けば良いんだよ! 今月いっぱいヴィランに滞在する予定だから、ゆっくり荷造りしててくれ!」
「ほぅか♪ ほしたら荷物を纏めとくけぇ、そん時に声掛けてくれんね? げに、ウチの荷物は多いけど、難しくないかのぅ?」
「それなら大丈夫だよ。実は、ライザちゃんはドラゴンでね、背中に10人ぐらいが入れる小さい家みたいな箱を背負って飛ぶんだ。少々荷物が多くたって、問題無いよ♪」
言われてミラーナはライザの肩をポンと叩き、何故かドヤ顔で話す。
「なんでミラーナさんがドヤってるんですか…?」
「皆を乗せて運ぶのはボクなんだ… け… ど…」
突っ込みを入れるアリアの横をすり抜け、ライザの両肩をガシッと掴むプリシラ。
そんな予期せぬプリシラの行動に、ライザは困惑する。
「ななななな、何ですか!?」
「ライザちゃん、ドラゴンってほんまなん? ウチ、ドラゴンって見た事ないんじゃけど、ぶち大けーんじゃろ?」
「え… えぇと… 立ち上がったら、だいたい5mちょっとぐらいかな…? だから、この工房の中じゃドラゴンには戻れないよ? 以前、エリカちゃんに頼まれて王宮に手紙を届けた事があったんだけど… 王様達にドラゴンの姿が見たいって言われて、元の姿に戻ったら食堂の天井を突き破って破壊しちゃったから…」
何となくプリシラの言葉を理解したライザは、ドラゴンの姿を見たいと言われるのを懸念し、遠回しに断った。
「ほぅか、それは残念じゃのぅ。まぁ、ロザミアに行く日に見れるけぇええか♪」
胸を撫で下ろし、ホッとするライザ。
その横からアリアがプリシラに話し掛ける。
「あの~… ところで、お支払いの方なんですけど…?」
プリシラは『あぁ~』と言った表情になり、すぐに思案し始める。
「初めてこさえたモンじゃからねぇ… 材料費と技術料、作成費… 図面っちゅ~か設計図を貰うたけぇ、その分ちぃたぁ安うせにゃ~イケンじゃろうねぇ…」
プリシラの言葉を理解したアリアは、首をブンブン振る。
「それはダメです。エリカさんが言ってました。職人が精魂を込めて作った物には、それに見合った対価を支払うのが当然だと。その図面は飽くまでも参考にして頂く為に描いたそうですから、それを以て値引きして貰うワケにはいきません」
それを聞いたプリシラは、少し驚いた表情になる。
「そがいな事、エリカちゃんが言うとったんかね。そりゃ~たいがたぁねぇ♪ ほな、遠慮のぅ2つで金貨2枚貰おうかね」
聴診器の値段はピンキリだが、医師が診察の際に用いるドクター・スコープは3万円から15万円程するので、2つで金貨2枚(約20万円)は妥当と言える。
アリアは懐から皮袋を取り出し、金貨2枚をプリシラに渡す。
「それじゃ、ミラーナさん。王宮に戻りましょうか? 少しでも早く、このちょーしんきをエリカさんに届けたいですから♪ それに、プリシラさんの事も知らせないといけませんからね」
言われてミラーナはコクリと頷く。
「そうだな… プリシラの工房を建てる場所も探して貰わないとだし、王宮に戻るか」
「なんねぇ、お嬢。もういぬんけ?」
残念そうなプリシラ。
だが、第1王女であるミラーナの立場を理解しているプリシラは、無理に引き止めようとはしなかった。
もっとも、ミラーナが自由奔放で傍若無人な王女である事までは知らなかったのだった。
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王宮に戻ったミラーナとアリアは昼食の後、それぞれエリカに手紙を書く。
ミラーナはプリシラの事と、鍛冶工房を建設可能な土地探しを。
アリアは同じくプリシラの事を書き、更にプリシラが作った聴診器を送るべく梱包する。
「エリカさん、喜んでくれると嬉しいですねぇ♪ ちょーしんきを受け取った時のエリカさんを見られないのは、少し残念な気もしますが…」
手紙を書きながら独り言を呟くアリアを見てライザは思う。
(アリアちゃんって、ホントにエリカちゃんが好きなんだなぁ… まぁ、気持ちは解るかな? ボクもエリカちゃんは好きだし… これもエリカちゃんから溢れてる魔力に含まれる魅力の影響なのかな? アリアちゃんの魔力も大きいけど、エリカちゃんみたいに溢れてないし、魅力の効果も無いからなぁ… ホント、エリカちゃんって何者なんだろ…?)
しかし、そもそも考える事の苦手なライザ。
考えてる内に、満腹も相俟って眠くなり、そのまま眠ってしまう。
手紙を書き終えたミラーナとアリアは、王宮の使用人に手紙と荷物をエリカに送る様に頼み、それぞれの自室でノンビリと過ごしたのだった。
もっとも、自室のベッドをライザに占拠されているアリアは…
「寝るなら自分の部屋で寝て下さい!」
と、ハリセンでライザを文字通り叩き起こしたのだった。