第182話 意趣返しは当然の事ですね♪
「…で、そのナッシュってヤツがエリカちゃんの歳を知った時に言った一言に、エリカちゃん凄く怒ったんだよねぇ♪ で、その言葉が今じゃロザミア中で禁句として認知されてんだよねぇ♪」
モーリィさんが嬉々として私が怒った時の事を話す。
「禁句ですか…? それはどんな…? それと、その言葉を言ったナッシュって人、どうなったんでしょうか?」
少々引き攣った表情になりながらも興味を抑えられないルディアさん。
「禁句はクイズにしようかな? ルディアさん、考えてみて下さいよ♪ で、ナッシュがどうなったかだけど… エリカちゃん、近くのテーブルを思いっ切りナッシュの脳天に叩き付けたのよ… なんと、テーブルは粉々… ナッシュもダメージが大きかったのか、3日は仕事を休んでたわねぇ…」
頬に手を当て目を閉じ、困った様な顔で回想するミリアさん。
てか、禁句をクイズにするなよ…
「その辺りの話は初耳だな… いや、エリカちゃんから聞いてはいたけどさ、テーブルで殴ったとは言ってなかったから…」
言いつつ私に変な物体でも見るかの様な視線を向けるミラーナさん。
「それより、そろそろエリカさんを解放した方が良いと思いますけど… さっきからエリカさんの目付きが変わってきた様な…」
真っ青になり、冷や汗を流しながらアリアさんが言う。
ちなみに現在の私はと言うと、ロープでグルグル巻きになり、猿轡を咬まされて床に転がっている。
「そうねぇ… なんだか目が据わってないかしら…?」
「あの目付き、見覚えがあるんだけど… 確か、チュリジナム皇国との戦争が終わって、ミラーナさんがエリカちゃんを王都に連れて行こうと…」
ミリアさんとモーリィさんの言葉に、ミラーナさんは少し考え…
「あぁ、確かアタシがロープでグルグル巻きにして猿轡を咬ませたんだっけ。で、幌馬車の骨組みからブラ下げて…」
そこまで言って、固まるミラーナさん。
「ボ… ボク、エリカちゃんのロープ解くね!」
何かを感じたのか、慌てて私のロープを解くライザさん。
ミラーナさんは私ではなくルディアさんの方を向き…
「さて、ここでクイズです。今の話の続きで、アタシ、ミリアさん、モーリィさんは、どうなったでしょう?」
「こうなったんでしょうがぁあああああああっ!!!!」
すぱかぁあああああんっ!!!!
ライザさんにロープを解いて貰った私は、ミラーナ仕様ハリセンのフルスイングでミラーナさんを──絶妙のタイミングでアリアさんが開けた──窓の外へ吹っ飛ばす。
そして…
「あの~… 私達まで叩き飛ばすって事はないわよねぇ…?」
「そうそう! 私もミリアも、ミラーナさんみたいに頑丈じゃないし!」
青褪めるミリアさんと、慌てるモーリィさん。
私は2人にニッコリと微笑み…
「しませんよ? あの時も吹っ飛ばしたりしてないでしょ?」
私の言葉に2人はホッと胸を撫で下ろしたが…
次の瞬間、2人は床に顔面をめり込ませて失神したのだった。
「聞こえてないでしょうけど、とりあえず言っときます。あの時、お2人は馬車の荷台の床に顔面をめり込ませてましたからね。これで3人共、あの時と同じですね♪」
私は手にしたハリセンで自分の肩をポンポンと叩きながら、ニッコリとルディアさん、ライザさん、アリアさん、ランジェス大公に微笑みかける。
「マリアンヌや甥姪から聞いてはおったが、エリカ殿は容赦せんのぅ…」
ランジェス大公は引き攣った笑顔を私に向ける。
初めてハリセンで人が吹っ飛んだり、顔面を床にめり込ませたのを見たんだろうから無理もないけど…
「ところで、そのハリセン… 刑罰にも使えそうですなぁ… 何種類か威力の違う物を作っては頂けませんかな?」
「へっ…?」
思いも寄らない提案に、私は間の抜けた返事をしていた。
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「サルバドール伯父さん、本気で言ってんのかい?」
「うむ、今の刑罰の〝棒叩き〟の代わりにしようと思ってな。あれはあれで刑罰としての効果は大きいが、下手な者が刑を行うと身体に障害が残る事が多いんじゃよ…」
あぁ… 〝棒叩き〟って、意外にダメージが大きいって何かの本で読んだ事があるな。
肉が裂けたり骨が折れたり…
よく〝百叩き〟なんて言葉を聞くが、実際には百回も叩かない内に死んでしまう事も多いらしい。
それに比べたらハリセンの方が…
って、普通の人に〝ミラーナ仕様ハリセン〟とか〝ライザ仕様ハリセン〟なんか使ったら、それこそシャレにならんやないかいっ!!
「…なのでエリカ殿、丁度良い威力のハリセンを作っては貰えないだろうか?」
「ほぇっ?」
不意に声を掛けられ、アホみたいな声を出す私。
「エリカさん… 聞いてなかったんですか…?」
「えぇ~っとぉ… ちょっと考え事をしていて… すいません、聞いてませんでした…」
アリアさんに呆れられ、私はランジェス大公に頭を下げる。
そして、改めてランジェス大公から説明を受けた。
なんでも王都では犯罪の軽重で棒叩きの回数を変えて、犯罪者への罰としているとの事。
勿論、全ての犯罪に対して行っているのではなく、傷害以上の犯罪を犯した者に対してのみ行っているらしい。
ただ、それなりに重い罪に対する刑罰なだけに、必然的に棒で叩く回数も多くなる。
となると、当然の様に身体へのダメージも大きくなる。
確かに犯罪者への罰は必要だが、その罰で身体に障害が残ってしまっては、更正してからの生活に支障が出てしまう。
住む街を変えてやり直そうと思っても、身体に残る障害から犯罪を犯した者だとバレてしまうかも知れない。
そうなると、やり直したくてもやり直せなくなる可能性が高いので、身体にダメージの残らない威力のハリセンを作って欲しいって事らしい。
ただし…
「…罰としての威力や痛みは十二分にあり、かつ身体にはダメージが残らない。そんなハリセンが必要なんですね?」
「うむ、かなり難しい注文だとは思うが、エリカ殿ならば作れるのではないかな? なにしろミラーナをギルド──距離およそ50m──の手前まで飛ばしておきながら、当の本人はピンピンしておるからのぅ♪ それに…」
言ってランジェス大公は壁を指差し…
「何度も壁にめり込まされておるんでしょうな。魔法で修繕した痕跡が認められますからな♪」
やっぱ分かるか…
さすがに専門じゃないから適当に直しただけだもんなぁ。
「アタシ、何回も壁にめり込んでる記憶があるけど何のダメージも残ってないよ♪ 自慢じゃないけど頑丈だからね♪」
鼻息荒く、フンスッとドヤるミラーナさん。
いや、何回も壁にめり込まされてるって、何の自慢ですか?
それだけアホな事をしてるって自白してるだけなんですけどね…
「ミラーナ… お主、何度もエリカ殿を怒らせてるのか…?」
呆れた様に言うランジェス大公。
言われたミラーナさんは…
「えぇっとぉ… そんな記憶は…」
目が泳いでるよ…
「ミラーナさん、しょっちゅうエリカさんに吹っ飛ばされてますからねぇ♪」
そんなミラーナさんに気付いてるのか気付いてないのか、アリアさんが楽し気に話し始める。
「そうそう♪ エリカちゃんからハリセンを食らわされてるのって、圧倒的にミラーナさんが多いもんねぇ♪」
「私が1ならモーリィは4か5かしら? ライザちゃんも似た感じだけど、ミラーナさんに至っては10って感じかしらねぇ?」
モーリィさんとミリアさんも追い討ちを掛ける。
って、言ってる本人達にその気は無いみたいだけど…
「ほぅ? それは是非、聞きたいですなぁ♪ アリア殿、ミリア殿、モーリィ殿、詳しく聞かせて頂けますかな?」
興味津々で、3人に話の続きを促すランジェス大公。
「ちょっ… サルバドール伯父さん!? その話は聞かなくて良いから! ミリアさん達もムグッ」
私はミラーナさんが話の邪魔にならない様に、魔法で猿轡を咬ませて口封じをする。
更に両手足をロープで縛り、動けなくする。
「むぐっ! むぐぐぅ~っ!」
イモムシみたいに身体を捩りつつ、抗議の眼を向けるミラーナさん。
そんな彼女を私は冷たい眼で眺めつつ…
「散々、私の事をランジェス大公様に面白可笑しく話してくれましたからねぇ♪ ミラーナさん自身の事も、面白可笑しく話されたって文句は言えませんよね♪」
怒りを込めた笑顔で言う私にミラーナさんは観念したのか、まるで魂が抜けたかの様になっていた。
「まぁ、仕方無いわよねぇ…?」
「そうそう、あれだけエリカちゃんの事を言いたい放題言ってたらねぇ♪」
と、まるで他人事の様に言ってるミリアさんとモーリィさんも、私は魔法で両手足をロープでグルグル巻きにして猿轡を咬ませる。
「「むぐぐぅ~っ!」」
2人は『何故!?』と言う眼で私を見るが…
「お2人も私の事を言いたい放題言ってくれてましたからねぇ♪ なので、お2人の事もランジェス大公様に面白可笑しく話させて頂きますね♪ 勿論、文句は言わせませんから♪」
殺気を込めた笑顔で言う私に、3人は沈黙したのだった。
そして、私とアリアさん、ライザさんが語る3人の失敗談に、ランジェス大公とルディアさんは笑い転げていたのだった。