第181話 ルディアさんに明かされる私の本性… って、おいっ!!!!
イルモア王国の食事マナーは、基本的には地球の西洋と同じ。
他の国の事は知らん。
とりあえず、そのマナーで言えば、食材の乗った器を持ち上げる事は無い。
持ち上げるのは飲み物の入ったカップだけだ。
だから茶碗を持ち上げ口元に持っていき、七草粥──モドキ──を掻き込むのをランジェス大公が疑問に思ったりするのも当然だろう。
だが、それが何故かと問われたら…
どう答えりゃ良いってんだよっ!
つか、知らんわいっ!
こちとら生まれた時から和食文化に慣れ親しんできたんだ!
それこそ何も考えずにな!
だから、あれこれ聞かれたって答えられないんだよ!
と、思ってたら…
「お皿の上に乗った食材を食べる時に器を持ち上げないのは、多分ですが何処の国も同じでしょう。ですが、茶碗の様なカップ型の器の場合、テーブルに置いたままで入っている食材… この場合はライスやみそしるみたいなスープ類ですね。想像でしかありませんが、それらを食するには器を持ち上げて口元に持っていかないと食べ辛い… むしろ、ムルディア王国の様に器を持ち上げて食すのがマナーな国も在るでしょう。エリカちゃんの言うわしょくと、ムルディア王国の食事マナーには共通点が多いんですが、それだけの事ではないでしょうか?」
私が窮するランジェス大公の質問責めに、スラスラ答えるルディアさん。
実年齢は私より4つ下なのに、食事マナーは私より詳しいのか…
まぁ、私の食事マナーなんて基本の基本を知ってる程度だし、深く考えた事も無いからなぁ…
ともかく私はルディアさんのお陰でランジェス大公の質問責めから解放され、彼女に心底感謝したのだった。
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「ところでミラーナ、社交シーズンに向けて帰郷の準備は出来ておるのか?」
「へっ? 社交シーズン? 帰郷?」
昼食を食べながらランジェス大公が聞くと、目を丸くするミラーナさん。
その様子を見て、ランジェス大公は溜め息を吐く。
「やはり忘れておったか… 以前、海水浴とやらで7月の社交パーティーを欠席したであろう? それが原因で社交シーズンが2ヶ月ズレたのは記憶に新しいと思ったのじゃがな…」
「あっ…」
ミラーナさんも思い出した様だが、私の願望で海水浴をする為にミラーナさんは7月の社交パーティーを欠席。
理由を伝えたのだが、その理由に多くの貴族は勿論、王族のキャサリン様やロザンヌ様までが共感。
結果的に社交シーズンが2ヶ月ずつズレる事になったのだ。
「今回のムルディア公国への外交日程も、9月の社交シーズンに間に合う様に組んであったしな。3月の社交シーズンは、ワイルド・ウルフの魔獣暴走の問題で中止じゃったが… 何をしておるのだ、ミラーナは…?」
見ると、頭を抱えるミラーナさんの姿。
なんか悩んでるみたいだけど…
王都に帰りたくないとか思ってんのかな?
「忘れてた…」
ん?
何をだ?
「海水浴に行くのを忘れてた…」
「「「「あっ…」」」」
ミラーナさんの一言に、ミリアさん、モーリィさん、アリアさん、ライザさんの声がハモる。
対照的なのがルディアさん。
ポカンとして何がなんだか理解していない様子。
ちなみに私はランジェス大公と昼食を食べながら、社交シーズンについて話し合っていた。
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「えっ!? 私が王都に行くんですか!?」
驚きの声を上げるアリアさん。
「だってアリアさん、王都に行った事がありませんよね? いつも私ばかり出掛けてアリアさんは留守番じゃないですか。たまにはアリアさんも楽しんで下さいよ♪」
「いえ、ロザミアに来る前に寄った事はありますけど… でも、呼ばれてもいないのに…」
まぁ、確かに…
単に社交シーズンってだけだし、本来なら治療院から王都へ行くのはミラーナさんだけで良い。
しかし…
「国王陛下はともかく、王妃様や子女の皆さんが騒ぎそうなんですよねぇ…」
「ど~ゆ~事ですか?」
首を傾げるアリアさん。
それとは対照的に、納得顔のミラーナさん。
「エリカちゃんの言う通りなんだよ。あいつ等、アタシが1人で帰るとブツブツ言いやがるんだよなぁ… 『どうしてエリカちゃんを連れて来なかったんだ!?』ってさ…」
頭をガリガリ掻きながら、苦虫を噛み潰した様な顔をするミラーナさん。
アリアさんは少し考え、ジト目で私を見ながら…
「それって、私がエリカさんの代わりに人身御供になるって事なんじゃ…?」
思わず私は目を逸らす。
ちっ、気付いたか…
悪いかよ!
王妃様や王女様達からのお風呂攻撃を躱すには、誰かが犠牲にならなきゃならないんだよ!
以前、治療院の家主って立場を利用して、ミラーナさん達を脅す形でキャサリン様やロザンヌ様を説得して貰ったのだが…
何の効果も無かった…
何が楽しいのか全く理解できないんだが、王妃様や王女様達は何故か私をお風呂で洗いたがるんだ。
まぁ、その事を知ってるからこそ、アリアさんは気付いたんだろうけど…
「で… でもまぁ、王妃様達が治療院に来られた時、アリアさんはお風呂攻撃の標的になりませんでしたし… 大丈夫なんじゃないかな~なんて思ってるんですけど…」
私が言うと、アリアさんは宙を仰いで思い出してる様だった。
「う~ん… 確かにキャサリン様やロザンヌ様はエリカさんを洗いまくってましたけど、私には見向きもしませんでしたね… 助かりましたけど…」
…………………………
「助かりました…?」
今度は逆に私がアリアさんをジト目で見る。
私の視線に気付き、気まずそうに後退るアリアさん。
逃がすかいっ!
私は一気に間を詰め、アリアさんの両肩をガシッと掴んで微笑む。
「そ~ゆ~ワケなんで、アリアさんには何がなんでも王都を訪問して貰いたいんですけど… 宜しいですね…?」
「ななななな… 何がなんだか解りませんけど、解りましたから! その殺気を込めた笑顔は止めて下さ~い!」
青褪めて涙をボロボロ流しながら、アリアさんは了承してくれた。
ランジェス大公は、その様子を呆然と眺めていたのだった。
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「こ… 殺されるかと思いました…」
「エリカちゃんの笑顔、時々恐いからなぁ…」
アリアさんの意見にミラーナさんが同意する。
「そうなのよねぇ… 眉間に皺が寄ってるから、怒ってるかどうかが判り易いのは良いんだけど…」
「そうそう。目は笑ってるんだけどねぇ。だから余計に恐いんだけど…」
「ボク、エリカちゃんが笑顔になるだけで反射的に身構えるクセが付いちゃったよ…」
ミリアさん、モーリィさん、ライザさんも口々に意見を言い合う。
お前ら…
すぐ側に私が居るってのに、よくそんな会話ができるな。
「エリカちゃんの笑顔って、そんなに恐いの? 普通に可愛いと思うんだけど…?」
ルディアさん…
聞いてる私の方が恥ずかしくなる様な事をサラッと言うなよ…
「そりゃ~恐いよ。以前、ブルトニア王国がハングリル王国に戦争を仕掛けられた事は知ってるかい?」
ミラーナさんに言われ、ルディアさんは少し考え…
「確か… 2~3年前だったかしら? 最初はハングリル王国が優勢だったけど、イルモア王国が加勢してから逆転勝利したのよね? 新聞で読んだ記憶があるわね」
ルディアさんが言うと、ミラーナさんは大きく頷く。
そして…
「その時、最初に捕えたハングリルの将校をアタシが尋問したんだよ」
尋問?
拷問だったろ…
ハングリル王国の将校… ルーデンス伯爵だったか、殆ど死にかけてたじゃんか…
「その後の治療をエリカちゃんに頼んだんだけどさ…」
「治療を頼んだって… 尋問に治療は必要ないんじゃ…? 拷問したとしか思えないんだけど…」
ミラーナさんの言葉を遮って突っ込むルディアさん。
うん、拷問で間違いないよ?
殴られて蹴られて、切り刻まれてたんだから…
「尋問だよ… 治療の後、エリカちゃんが何をしたかに比べりゃね… その将校、エリカちゃんに笑顔で5回殺されたって言ってたんだよ… いや、死ぬ寸前で回復させられてるから、正確には殺されてないんだけどさ…」
話を聞き、青褪めるルディアさん。
私はミラーナさんに抗議しようとするが、何故かミリアさんが私を羽交い締めにした上、モーリィさんが口を塞いでやがる。
しかもニヤニヤ笑いながら。
テメー等ぁ!
後で覚えてろよぉおおおっ!!!!