表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/237

第178話 大切(?)な事を忘れていましたが、思い出したら思い出したで悲惨でした

 ライザさんが背負(せお)ったボート型の箱に乗り、私とランジェス大公(たいこう)(いち)()ロザミアを目指して飛んでいく。

 もっとも、1日でロザミアに着くのは不可能なので、途中の街や宿場町で5泊ぐらいする事になるのだが…

 それでもランジェス大公(たいこう)と共にムルディア公国で外交の職務を果たした一行(いっこう)(くら)べれば、(うん)(でい)の差である。

 気の毒だが、彼等は船でイルモア王国のグレイヤールと言う港町まで戻り、そこから陸路でヴィランまで()(かん)する事となる。

 1ヶ月前後もの(あいだ)(ふな)()いに(なや)まされ、陸に()がってから20日(はつか)も掛けてヴィランに戻る事を考えれば、慣れない空の旅もラクなモンだろう。

 事実、最初の宿場町に着いた時のランジェス大公(たいこう)の感想が全てを(もの)(がた)っていた。


「さすがに早いですな。この宿場町とレナルの距離を考えれば、1ヶ月の距離を1日で移動した計算になりますぞ。それに、エリカ殿の掛けた魔法… (ぼう)(かん)魔法と気圧シールドでしたかな? お(かげ)で寒さも息苦しさも感じませんでした」


 ニコニコ笑顔で語るランジェス大公(たいこう)

 勿論ライザさんが飛んでる(さい)(ちゅう)、高さや速度を聞いた時は真っ青になってたんだが…

 無理もないけどな。

 初めて空を飛んで、しかもそれが3000(メートル)上空で時速200㎞オーバーだってんだから仕方無いけど…

 それは良いとして、私はムルディア公国を出発してから、何故かモヤモヤしていた。

 なんだか大切な事を忘れている様な気がするんだよ…

 そんな事を考えてる内に数日が過ぎ、私達は無事にロザミアに戻ったのだった。





 ─────────────────





「サ… サルバドール伯父(おじ)さん!? なんでロザミアに!?」


 予想通りに驚くミラーナさん。

 まぁ、当然と言えば当然か。

 ランジェス大公(たいこう)が私達と一緒にロザミアにって、考えてもいなかっただろうからな。


「なぁに、エリカ殿の握った寿司が食べたかったのだよ♪ ヴィランでも寿司は(しょく)せるが、マリアンヌや(おい)(めい)の話を聞くに、エリカ殿の握った寿司とは(うん)(でい)の差だと聞いたのでな♪」


「アタシ達はエリカちゃんの握った寿司しか食った事がないから何とも言えないな… 母上達が言うなら、そうなんだろうけど…」


 そりゃ当然だよ…

 私だって、()()しい寿司を握れる様になるまで何年も研究したんだからな。

 酢飯(シャリ)を作るのに最適な酢の割合(わりあい)とか、酢飯(シャリ)の量とか握る強さとか…

 更にはネタの(あぶら)の乗りで切る厚みを調整するとか…

 適当に作った酢飯(シャリ)を適当に握ったって、()(ざわ)りや(した)(ざわ)りは良くないだろう。

 (あぶら)の乗りを考えず、適当に切ったネタで握ったって(うま)()(じゅう)(ぶん)()かせない。

 いや、下手(へた)すると味を(こわ)す事になりかねないんだよな。

 それを教えなかったのかって?

 教えたよ。

 だけど、教えたって経験を積まなきゃ理解できない事だってあるだろ。

 って、誰に言ってんだ私は…

 いや、そんな事はどうでも()いんだよ!

 とにかく今は、美味(おい)しい寿司を握る事に集中せねば!


「それじゃ、腕に()りを掛けて握りますか♪ お好きなネタを(おっしゃ)って(くだ)されば、このエリカ・ホプキンスが極上の寿司を提供しますよ♪」


 私が宣言するやいなや、ホプキンス治療院の住人5人──最近住人になったばかりのルディアさんを(のぞ)く──は勿論、ランジェス大公(たいこう)までが次々に注文を始める。


「私、トロサーモン!」


「私は(おお)トロ!」


「アタシはヒラメ!」


 そんな中、ランジェス大公(たいこう)は…


「フム… では私はタマゴから握って貰いましょうかな?」


 …意外に(つう)なのかな?

 諸説あるが、寿司はタマゴに始まりタマゴに終わるとも言われているらしい。

 知らんけど…

 とりあえず注文通りに寿司を握って出すと、ランジェス大公(たいこう)が何やら(いぶか)しげな顔をしている。


「エリカ殿、この細く黒い物は何ですかな? 王都(ヴィラン)(しょく)したタマゴの握りには無かったのですが…」


 ランジェス大公(たいこう)が気にしているのは、タマゴ握りに巻かれている(はば)(センチ)弱の海苔(ノリ)

 完成したのは最近だから、まだヴィランでは知られていない。

 気になるのも当然だろう。


「それは海苔(ノリ)と言う物で、(こう)(そう)(りょく)(そう)・シアノバクテリア((らん)(そう))などを含む、食用とする(そう)(るい)の総称ですね。最近ノルンで作られる様になったんです。海苔(ノリ)はタンパク質、食物繊維、ビタミン、カルシウム、タウリン、ベーターカロテン、アミノ酸などが豊富に含まれてて、栄養に富んでいるんですよ♪ 軍艦巻きや(ふと)巻きって言う、()()()()()()()寿司にも使ってますので食べて下さいね♡ あ、鉄火巻き、キュウリ巻きってのも()()()()()んで、(みな)さんも食べて下さいね♡」


 本当は〝かっぱ巻き〟って言いたいけど、説明が面倒なので〝キュウリ巻き〟と言っておく。


「ほう… 海苔(ノリ)とやらを使った寿司ですか、それも(うま)そうですなぁ♪ これは下手(ヘタ)に注文するより、エリカ殿の()()()(しょく)した方が良さそうですな。お(まか)せしても(よろ)しいですかな?」


 そう言われて期待に(こた)えなければ、エリカ・ホプキンスの名が(すた)る!

 (おお)袈裟(げさ)ですね、そうですね。

 とりあえず私は現在のレパートリー、イクラの軍艦、ウニの軍艦、鉄火巻きにキュウリ巻き、そして(ふと)巻きを作って提供する。

 勿論、普通の握り寿司も。

 他の(みんな)嬉々(きき)として食うわ食うわ…

 ランジェス大公(たいこう)も67歳とは思えない食欲で、次から次へと食べていた。

 ちなみに私はと言うと、7人からの注文に(こた)えて寿司を握るだけで(せい)(いっ)(ぱい)

 (すき)を見てのつまみ食いなんて出来る(はず)もなく、ただひたすら寿司を握っていた。





 ─────────────────





「エリカさん、大変でしたね」


 アリアさんに(なぐさ)め(?)られながら、私は自分で寿司を握って食べている。

 ちなみにランジェス大公(たいこう)(しょく)(やす)みもそこそこに、さっさと風呂に入って寝てしまった。

 他の面々は、現在入浴中である。


「まぁ、なんとなく予想はしてましたけどね… それより、ず~っと気になってる事があるんですよね…」


「気になってる事? 何ですか?」


「それが気になってるんですよ… ムルディア公国で何かを忘れてる気がしてるんですが、それが何だったのか思い出せなくて…」


「は…?」


 アリアさんの頭上で???マークがクルクル回っている様に見えるのは気の()()だろうか?


「まぁ、思い出さないって事は、そんなに大切な事じゃないのかも知れませんけどね。(もぐもぐ…)私にとって大切なのは怪我人や病人を治す事であって(あむあむ…)自分の事は二の次、三の次ですから」


「さすがエリカさんです♡ でも、少しぐらいは自分の事を考えても()いと思いますけど…」


 そうかも知れないけど…

 職業病かなぁ…?

 医者の()(よう)(じょう)って言葉があるけど、意味は違うが似た様な感じなのかも知れないな。

 ちなみに医者の()(よう)(じょう)とは、人に(よう)(じょう)(すす)める医者が、自分は健康に注意しない事を言う。

 正しいと(わか)っていながら自分では実行しないことの(たと)えだ。


「私の場合、自分の事は後回(あとまわ)しにするのが当たり前になってるんですよね… 怪我人や病人… 患者さんを治す事が第一であって、自分の事なんて(あと)(かま)わない。(あと)からでも何とかなるって思ってますからね…」


「その考え… やっぱりエリカさんは凄いですね… 私だったら… いえ、他の誰もエリカさんの(きょう)()には(いた)れないと思いますよ?」


 そ… そうなのか?

 単に私は患者を治す事に生き甲斐(がい)を感じてるだけなんだけど…

 それなのに、そんな事を言われたら逆に恥ずかしいと言うか…

 思わず頭から()(とん)でも(かぶ)りたくなるじゃん…

 …って、()(とん)

 ()(とん)は床…

 いや、(たたみ)()いて使う(しん)()で…

 (たたみ)…?


「思い出したぁああああああっ!!!! (たたみ)っ! (たたみ)ぃいいいいいっ!!!! ()()(とん)んんんんんんっ!!!!」


 私は叫びながら床を悶絶(もんぜつ)しつつ転げ回る。

 ムルディア公国では前世での日本の(たたみ)()()(とん)に似た物が有るってルディアさんから聞いて、(たたみ)に寝転びたい、()()(とん)に座りたいって思ってたんだったぁああああああっ!!!!


「エ… エリカさん!? 大丈夫ですか!? 誰か~っ! エリカさんが大変です! 助けて下さ~い!」


「アリアちゃん、どうした!?」


 アリアさんの声に反応したミラーナさんが──入浴中だった為、全裸で──駆け付ける。


「ミラーナさん! 突然エリカさんが何か叫びながら床を転がり回って!」


「アタシに(まか)せろ!」


 すぱぁああああああああんっ!!!!


 めきぐしゃぁあああああっ!!!!


 ミラーナさんが全力で振り下ろしたハリセンの(いち)(げき)で、私は転がっていた床に身体(からだ)を半分以上めり込ませて失神したのだった。




【追記】


 私を床にめり込ませたミラーナさんは、アリアさんから『やり過ぎです!』の(ひと)(こと)と共に振るったハリセンにブッ飛ばされ…

 全裸のまま、朝まで壁にめり込んでいた。

 いや、私も朝まで床にめり込んでたんですけどね…

 アリアさん、せめて私だけでも床から抜いて下さいよ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ