第177話 灼熱の国、ムルディア公国。そこには意外な人物が… ~後編~
PVアクセスが300,000人、ユニークが45,000人を超えました♪
読んで下さってる皆さんには感謝しかありません♪
「ラ… ランジェス大公様!? ど… どうしてムルディア公国に!?」
そこに居たのはサルバドール・フォン・ランジェス大公爵。
一度だけヴィランで会ったミラーナさんの伯父で、イルモア王国国王の腹違いの兄で宰相──総理大臣・首相──を務めている。
本名はサルバドール・フェルゼンだが、便宜的に妻の姓であるランジェスを名乗っている。
「私は外交の為に来ておるのですよ。普通は外交官を送るのですが、ムルディアの言葉を話せるのが私しか居ないものでして… まぁ、通訳みたいな感じですかな? ところでエリカ殿達は何故ムルディア公国に?」
「は… はい、実は…」
私が話そうとすると、ランジェス大公は手を出して待ったを掛ける。
「立ち話も何ですから、そこに座って話しましょう。宜しいですかな?」
大公爵に誘われて断れるワケがない。
私はライザさんと共にランジェス大公とロビーのソファーに座り、ルディアさんの事を話した。
「なるほど、その様な事があったのですか… しかし驚きましたな。エリカ殿はムルディアの言葉を話せるのですか」
「あはは… まぁ、一応は…」
「一応? 凄く流暢に話してたけど?」
「ライザさん、少し黙っててくれますか?」
私は横から茶々を入れるライザさんに笑顔で注意を促す。
すると…
「ハイッ!」
何故か緊張して全身を強張らせるライザさん。
ど~ゆ~意味だ…?
問い質してやろうと思ったが、運の悪い(?)事に私の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。
「ところでランジェス大公様、どうやってムルディア公国まで? チュリジナム皇国… 元ですけど、あちこちで内乱が起きてましたよ? 陸路で来るのは難しいと思いますけど?」
私が聞くと、大公は笑顔で答えてくれた。
「それは簡単ですな。海路を使ったんです」
「「海路!?」」
私とライザさんの声がハモる。
ランジェス大公の話では、漁村から馬車で東へ3日の距離にグレイヤールと言う港町が在り、そこから船でムルディア公国まで来たんだとか。
上手く風に乗れば、1ヶ月前後でレナルの港に着くらしい。
帰りは海流に乗れば、やはり1ヶ月前後でグレイヤールに着けるそうだ。
それにしても船旅かぁ…
大公爵の旅なら、さぞかし優雅なんだろうなぁ…
「まぁ、船旅は大変ですがね。1ヶ月前後とは言え、船独特の揺れは辛いですからなぁ… 慣れていない者にとっては、陸に揚がるまで地獄の苦しみが続きますからな」
あぁ、船酔いか…
聞いた話だと、船酔いは船から降りて陸に揚がらない限り治まらないそうだ。
解る気がする。
常にユラユラ揺れてるし、波の具合で一定しないんだから当然かも知れない。
前世での大型客船ならともかく、異世界の文明で造る船だとキツいだろうな…
「大変ですねぇ… ところで大公様は着いたばかりなんですか? それとも、これから帰られるんですか?」
「帰るところですな。これからまた、あの揺れが1ヶ月も続くのかと思うと… 仕事なので仕方無いですが、さすがに老骨の身には堪えますな…」
老骨って…
国王陛下は40歳前後──多分──なんだから、兄とは言え60歳は超えてないだろ…
いや、フサフサとは言え見事な白髪なのを考えると、案外70歳近いのかも…
「なにしろ我が父は、正妻を迎えるまでに2人も側室を娶っておりましてな。正妻を迎えてからも、側室を1人娶っておりますが… それはそれとして、第一子である私は67歳になります。アインベルグとは、30歳離れている事になりますな」
「ろ… 67歳…? 30歳差…? そんなに離れてるんですか…?」
「30歳差って、そんなに驚く事? ボクの兄ちゃんなんて、100歳ぐらい離れてるよ?」
「ドラゴンじゃないんですから… 人間なら、どれだけ離れても20歳前後ってトコだと思いますよ? まぁ、側室を持ってる場合は例外だと思いますけど…」
私の言葉にランジェス大公はコクリと頷く。
「エリカ殿の仰る通りですな。アインベルグもミラーナを始めとして、3人も連続で女児が生まれた時は側室を娶るか悩んでおりました… こう言っては女性蔑視と言われそうですが、側室を持つ事は跡継ぎたる男児を得る為に必要な事なのです。幸い、フェルナンド、ローランドと言う男児が生まれたので、アインベルグは側室を必要としなかったのですがな」
昔の日本みたいだな…
いや、中世ヨーロッパ程度の文明なら当然なのかも…
それにしてはシャワーが在ったりトイレが水洗だったりするし…
かと思えば、外交に使う船で船酔いするとか…
文明が進んでるんだか停滞してるんだか、よく解らん世界だな。
「ところでエリカ殿とライザ殿は、どうやってレナルまで? …いや、愚問でしたかな?」
言ってランジェス大公は上を指差す。
「…2階がどうかしたのかな?」
「2階じゃなくて空ですよ。私達、空を飛んで来たでしょ?」
「あ…」
ライザさんは目を点にして固まる。
おいおい…
「そこで相談なんですが、私も同乗させて頂く事は可能ですかな?」
なるほど…
ランジェス大公も空を飛んでみたいって事か。
「ボクは構わないよ? なんならサービスでアクロバット飛行なんかも…」
すぱぁああああああんっ!!!!
ぐしゃっ!
「普通にヴィランまでお送り致しますので、ご安心下さい♪」
私はハリセンで叩きのめしたライザさんの頭を踏み付けながら、ニコニコ笑顔をランジェス大公に向ける。
…ランジェス大公様、なんで青褪めてるんですかね?
まぁ、良いか。
私は気を取り直し、ライザさんに真っ直ぐヴィランまで飛ぶ魔法を掛ける。
「ランジェス大公様はご存じないでしょうが、ライザさんはとんでもない方向音痴なんです。なので、ヴィランまで真っ直ぐ飛ぶ魔法を掛けました。これで安心して…」
「いや、それには及びません」
ランジェス大公が両手を出して私の言葉を遮る。
「それには及ばないって… ど~ゆ~事ですか?」
思わず聞き返す私に、ランジェス大公は少し照れた様子で私を手招きする。
大公は近付く私の耳元で…
「恥ずかしながら、エリカ殿の握った寿司を食してみたくてですな。ロザミアに一泊させて頂きたいのですが…」
食いたいんかい。
てか、定期的に魔法で冷凍した魚をヴィランに送ってるんだから、いつでも好きな時に食べられるんじゃ…?
「そうなんですが… マリアンヌや甥姪の話を聞くに、エリカ殿の握る寿司とは雲泥の差なのだとか… ヴィランで食す寿司も確かに旨いのですが、寿司ネタの切り方や寿司飯の握り方… エリカ殿の握る寿司と比べると、まるで違うのだと聞かされましてな」
あぁ… だろうなぁ…
握り寿司って、ただ単に寿司飯を握って切ったネタを乗せれば良いってモンじゃないしな。
ネタは脂のノリで切る厚みを変えた方が良いし、寿司飯は握れば良いってモンじゃない。
脂のノリが良いネタは薄く、悪いネタは厚く切った方が間違いなく旨い。
寿司飯は硬過ぎず柔らか過ぎず、食べた時にホロリと崩れるのが良いとされる。
また、寿司職人でも達人クラスになると、寿司飯の米粒が平均400粒で、誤差は±数粒なんだとか。
私も医学生──前世──だった頃は、食費を浮かす為に寿司も自分で握ってたっけ…
その時、その事を何かで知って、再現するのに半年ぐらい練習したっけなぁ…
いや、勉強もしてましたよ?
勉強してたから医科大学を卒業できたんだからね?
…誰に言ってんだ、私は…
ともかくランジェス大公をロザミアで歓待する事に決定し、ライザさんに掛けた魔法をロザミアまで真っ直ぐ飛ぶ魔法に変更。
ライザさんが背負ったボート型の箱に乗って、ロザミアに帰る事になったのだった。
ミラーナさん、驚くだろうなぁ…