第176話 灼熱の国、ムルディア公国。そこには意外な人物が… ~前編~
「う~ん♪ 順調、順調♪ この分だと、明日にはチュリジナム皇国を抜けると思うよ♪」
ご機嫌で飛行するライザさんだが…
「どこが順調なんですか… 本当なら、昨日の内にチュリジナム皇国を抜けてる筈なんですよ? 予定より2日も遅れて、順調なワケないでしょう?」
私はライザさんの背中に背負わせたボート型の箱の中から言う。
「いや… そりゃ~ボクも方向を間違ったけど、それをハリセンで叩き落としたエリカちゃんにも責任があるんじゃないかなぁ~?」
うっ…
それを言われると…
確かに100m上空──多分──でハリセンを使ったのは私のミスだけど…
ハリセンを食らったライザさんはバランスを崩して墜落。
その衝撃でライザさんは失神。
失神だけで済むってのも、ある意味凄いけど…
私は全身骨折の上、数ヶ所の内臓破裂だったのに…
「とにかく! ライザさんが何度も方向を間違わなければ、私だってハリセンなんか使わなかったんですから!」
「それって責任転嫁…」
「やかましいわ!」
などとやってる内に元ハングリル王国の上空を通過し、小さな宿場町に到着した。
適当な宿に入り、チェックインしてから夕食を摂る。
「お腹ペコペコだよぉ~… 今朝から何も食べてないからさぁ~…」
「それは私もですよ… 少しでも遅れを取り戻して早く帰らないと… アリアさん1人でミラーナさん達の面倒を見るのは大変ですからね…」
「あはは♪ ミラーナさん達ってハンターとしては優秀だけど、治療院では子供みたいだもんねぇ♪」
当事者としては、笑い事じゃないんだけどね…
「ところでさ、皆とはどうやって知り合ったの? 聞いた事なかったし、皆が居ると話し難い事もあるだろうけど、今なら大丈夫じゃない?」
興味津々のライザさんに、私がロザミアに来た頃からの事を話して聞かせたのだった。
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「「「「はくしょっ!」」」」
「皆、風邪でも引いたの?」
4人同時のクシャミにルディアが目を丸くする。
「いや、これは… 誰かが噂してんじゃないか?」
「だよねぇ~… エリカちゃんとライザちゃんかもね」
「まぁ、あの2人しか私達の噂する人なんて居ないでしょ」
「そうでなければ、4人同時のクシャミなんて不自然ですよねぇ…」
口々に言う4人に、ルディアは首を傾げる。
「噂されるとクシャミが出るの? そっちの方が不自然と言うか、不思議なんだけど…?」
「いや、それは… 噂されたらクシャミが出るって諺… いや、諺じゃないよね…」
「俗説ですね。風邪でもないのにクシャミが出るのは、誰かが噂してるからって。で、私達の話をするのはエリカさんやライザさんじゃないかって事ですよ♪」
説明に窮するモーリィをアリアがフォローする。
「そんな俗説があるのね… ムルディアではクシャミ=風邪だからねぇ…」
((((平均気温が40℃もある灼熱の国だからかな…?))))
4人は妙に納得したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロザミアを出発して10日、ようやくムルディア公国に入った。
当初の予定なら、往復で10日ぐらいの筈だったんだけど…
ライザさん、何回も方向を間違えたからなぁ…
私達はルディアさんの故郷レナルの少し手前で降り、徒歩で漁村を目指す。
ライザさんがヴィランに行った時と同様、ドラゴン姿で直接行くと騒ぎになると思ったからだ。
それにしても暑いっ!
上空に居ると感じないが、地上に降りるとムルディアの暑さを実感できる。
もう夕方なのにこれじゃ、昼はどれだけ暑いんだか…
「ルディアさんから聞いてたけど、本当に凄く暑い国なんだね… ボク、さっきから汗が止まんないよ…」
「私もですよ… これだけ汗が出るから、ルディアさんの料理は塩分が多かったんですね…」
歩き始めて数分だが、既に私もライザさんも汗びっしょりである。
レナルの少し北で降りたのは間違いだったか…
ここまで暑いんだったら、海沿いで降りれば良かったよ…
そうすれば少しはマシだったかも知れないし、いざとなれば海に入って身体を冷やせたんだけどな…
私達は1時間程歩き、汗だくになってレナルに到着した。
ルディアさんの知り合いを探し、手紙を渡してサッと帰るつもりだったのだが…
お腹も空いてたし、なによりシャワーを浴びたかった。
私達は雑貨店で着替えを買ってから宿屋へ行き、シャワーを浴びてから夕食を摂った。
「はぁ~… やっと落ち着きましたね…」
「ホントだよぉ… でも、ここの食事はルディアさんが作ったのと同じで塩分が多いよね。それが美味しく感じるんだから、不思議だよねぇ…?」
「それだけ汗で塩分が出たって事なんでしょうね… 水分も出てるし、もう少し離れた場所に降りてたら熱中症になってたかも…」
実際、ヤバい状態だったからな…
私もライザさんも、ギリギリで助かったって感じだからな…
「ねっちゅうしょう? そうなると、どうなるの?」
「最悪の場合は死にますね。まぁ、私達は不老不死なんで死にませんけど… 表面的な症状としては、眩暈、失神、頭痛、吐き気、強い眠気、気分が悪くなる、体温の異常な上昇、異常な発汗、または汗が出なくなる等があります。特に重症例では、脳機能障害や腎臓障害の後遺症を残す場合がありますね」
「ね… ねっちゅうしょうって恐いんだね… 水分、ちゃんと摂らなきゃ…」
「水分だけじゃダメですよ? 汗で水分が失われるのと同時に、塩分も失ってますから。水分だけを摂取すると身体の塩分濃度が低くなり、それを元に戻そうとして身体が更に汗を出します。そうなると汗と共に塩分も一緒に出るので、更に塩分が不足します。だから水分を摂取するのと同時に塩分も摂取しないと、結局は熱中症になっちゃいます」
私の説明に、ライザさんは納得した様に何度も頷く。
が、その表情は惚けており、とても理解してるとは思えなかった。
「ライザさん… 理解してますか…?」
一応、聞いてみる。
「あ~… なんとなく理解した様な気がしないでもないかな~…?」
その程度かい!
まぁ良いか…
全く理解してないよりマシだと思っておこう。
「さて、そろそろ寝ましょうか? 明日はルディアさんの知り合いを探さなきゃいけないし… まぁ、小さな漁村だから、誰でも知ってると思いますけどね」
「そうだね… 飛ぶより暑さで疲れちゃったよ…」
そうして私達は部屋に戻ってベッドに潜り込むと、すぐに眠ったのだった。
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翌朝、朝食を取った私達はチェックアウトの時に、ダメ元でフロントの人に聞いてみる。
「ମୁଁ ଶ୍ରୀ ରୁଦିଆଙ୍କ ପରିଚୟ ଖୋଜୁଛି, ଆପଣ ତାଙ୍କୁ ଜାଣନ୍ତି କି?」
「ଲୁଡିଆ? ଆପଣ ଲିଡିଆ ବାର୍ଲୋ କି?」
ビンゴ♪
「ତାହା ଠିକ୍! ବାସ୍ତବରେ, ସେ ଇଲମୋର ରାଜ୍ୟର ଏକ ମତ୍ସ୍ୟଜୀବୀ ଗ୍ରାମ ନର୍ନରେ କୂଳକୁ ଯାଇଥିଲେ…」
「ସେ କଣ,କରୁଛି…」
呆れるフロントの人。
私はルディアさんがロザミアで元気にしてる事を伝え、彼女からの手紙を渡す。
「ଏହା ଲିଡିଆର ଏକ ଚିଠି。ବୋଧହୁଏ, କିନ୍ତୁ… ମୁଁ ଭାବୁଛି ସେ ରୋଜାମିଆରେ ସ୍ଥାୟୀ ଭାବରେ ରହିବେ, ତେଣୁ ଦୟାକରି ସମସ୍ତଙ୍କୁ ମୋର ଶୁଭେଚ୍ଛା」
フロントの人はコクリと頷き、溜め息を吐いた。
「ଠିକ ଅଛି… ମୁଁ ଆପଣଙ୍କୁ ଜଣାଇବି…」
「ଆପଣଙ୍କୁ ବହୁତ ଧନ୍ୟବାଦ♪」
私はニッコリと微笑む。
当然だが、言葉の解らないライザさんは一言も発せずである。
私がフロントの人に一礼すると、ライザさんも慌ててそれに倣う。
そして外に出ようとした時…
「おや? もしやエリカ殿にライザ殿ではありませんかな?」
何処かで聞いた覚えのある声に振り向くと、そこには意外な人物が大勢の人と立っていた。