第175話 ルディアさんの無事を、故郷のレナルに知らせましょう♪
ルディアさんに対する料理特訓──単に塩を使い過ぎない様に気を付けるだけ──は、実に順調だった。
料理自体には慣れているからか、味付けにさえ気を付ければ何も問題は無かった。
「うん、美味しく出来てますね♪ これならギルドの新メニューに加えても大丈夫ですよ♪」
「本当に!? 良かった~♪ でも、ちょっと気になる事があるのよねぇ…」
料理の完成度を褒める私に安堵するルディアさんだったが、同時に不安な表情も浮かべている。
「何が気になるんですか? この魚料理、何の問題もありませんよ?」
「魚料理ってのが気になるのよ… ほら、ロザミアってハンターの人が他の街に比べて多いでしょう? 魚より肉の方が好きなんじゃないかと思って…」
なるほど…
ルディアさんの懸念はもっともだな。
だが…
「そんなに心配する事は無いと思いますよ? 確かにハンターの人達は肉が好きですけど、最近は魚を食べる人も増えてるんですよね♪ 食堂街に行くと判りますけど、私がレシピを教えた寿司を提供する食堂が多いんです♪ てか、何処の食堂でも、何らかの寿司を提供してるんじゃないですかねぇ?」
「えっ? そうなの? 私の居た漁村にも何人かハンターが居たけど、誰もが魚料理より肉料理を食べてたわよ?」
それは単純な考えからだろうな。
魚より肉の方がスタミナが付くとか、筋肉が付くとか…
それも大切なんだろうけど、カルシウムの事を考えると魚の方が良いんだよ♪
他にも青魚に多く含まれているドコサヘキサエン酸とかね♪
勿論、魚ばっかり食べてりゃ良いって事でもない。
バランスの良い食事を取る事が大事なんだよ♪
「ロザミアのハンター達は、私が診療しながら色々アドバイスしてますからね♪ だから、自信を持って良いですよ? ただ、これだけでは不安なんで、もう何品か皆の意見も聞いて考えてみましょう♪ でも、ミラーナさんの意見は参考にしないで下さいね? あの人はどのハンターより肉中心に考えてるんで、そもそも参考にすらなりませんけどね♪」
「余計なお世話だっ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
がごんっ!
「あ痛ぁっ!」
後頭部に衝撃が走った瞬間、私はテーブルに顔面を嫌と言う程打ち付けていた。
「ミ… ミラーナさん… いつの間に…?」
「朝メシの時間なんだから当然だろ? それよりルディアさんの新しい魚料理、アタシも食べてみたいな。作ってくれるかい?」
ルディアさんはコクリと頷き…
「勿論♪ 他の皆の感想も聞きたいから、全員の分を作るわね♪」
言って嬉しそうにキッチンへと向かった。
─────────────────
「旨いっ!」
「美味しいっ!」
絶賛するミラーナさん達。
そもそも腕は良いんだよな。
塩加減だけが問題だったワケで。
誰もが夢中で食べる中、アリアさんだけが思案顔なのが気になる…
「アリアさん、どうかしたんですか? もしかして、エルフの口には合わないとか?」
「いえ! 料理は美味しいです! ただ、ちょっと気になる事があって…」
「気になる事?」
「はい… ルディアさんの故郷の事が気になって… ルディアさん、天涯孤独って言ってましたけど… 親類家族は居なくても、仲の良い友達とか漁村の仲間は居た筈ですよね? その人達が心配してるんじゃないかと…」
なるほど…
それを考えると、急に姿を消したルディアさんを心配してる人は多いかも…
「ルディアさん、アリアさんの言う通りですよ。ロザミアで無事に暮らしてるって、漁村に連絡を入れた方が良いんじゃないですか?」
私が言うと、ルディアさんは宙を仰いで考え始める。
「う~ん… でも、遠いからねぇ… 手紙を書いても、届くのは早くても半年は先になるし…」
「なら、ライザちゃんに乗せてって貰うかい? ロザミアに永住する気が無いんなら、そのままレナルに戻っても良いだろうしさ」
ミラーナさんがフォークでライザさんを指し示しながら言う。
失礼なヤツだな…
「ライザちゃんに? ど~ゆ~事?」
あぁ… ルディアさん、ライザさんがドラゴンって知らないんだっけ。
いや、本人がチラッと言ってたみたいだけど、信じてなかったのか聞いてなかったのか…
私が説明すると…
「ドっドっドっドっ、ドラゴンっ!?」
やっぱり、そんな反応か…
まぁ、普通の人は驚くわな…
「ライザちゃん! サインちょうだいっ!」
なんでやねんっ!
「ボクのサインで良ければ喜んで!」
「あんたもノるんじゃないっ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
「あ痛ぁっ!」
折角の料理を台無しにしてはいけないので、後頭部ではなく頭頂部にハリセンを叩き込んだ。
「今のは冗談として、私はレナルに戻る気は無いわよ? 迷ってたけど、なんだかロザミアが気に入っちゃったのよね♪ エリカちゃんのお陰で、皆にも食べて貰える料理が作れる様になったみたいだしね♪」
まぁ、ルディアさん自身がそれで良いなら、私は何も言わないけど…
それはそうと、レナルへの連絡はど~すんだよ?
私は少し考えてルディアさんに聞く。
「ちなみにですけど、ルディアさんは高い所は平気ですか? ライザさんに乗ってレナルまで行くとなると、かなり高い所を飛んで行く事になると思いますけど…?」
「…無理じゃないかなぁ? そもそも空を飛ぶなんて考えた事も無かったし…」
だよなぁ…
でも、前世で飛行機に乗った経験のある私はともかく、他の皆はライザさんの背中に乗ってニースまで飛んで行ったよなぁ…
「私は… 特に気にならなかったわねぇ…」
「私も平気だったなぁ… 逆に楽しかったよ♪」
「アタシも楽しかったな♪ 高いトコって気持ち良いじゃん♪」
「私は… ハッキリ言って怖かったです… けど、エリカさんが居てくれたから我慢出来ました…」
なるほど…
煙と何とかは高い所が好きって言うけど、アリアさん以外は何とかだったって事かな?
すぱぱぱぁああああああんっ!!!!
ずどべちょぉおおおおっ!!!!
ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんから息ピッタリのハリセン・チョップを食らい、私は椅子ごと壁にめり込んだ。
「声… 出てました…?」
苦笑しながら頷くアリアさん。
「それに、『煙とバカ』ってハッキリ言っちゃってましたしね…」
あら?
頭の中では『煙と何とか』って…
思っていたのと口に出てたのでは、違う言葉になってたのか?
「エリカちゃん… 思った事を口に出すクセ、変な方向に進化したんじゃない?」
モーリィさん、それは進化とは言わんと思うぞ…?
「みたいよねぇ… そのクセ、魔法で治した方が良いんじゃないかしら?」
ミリアさんの言う通り、そろそろマジで検討した方が良さそうだな…
「そうした方がエリカちゃん的には良いかも知れないけどさ… そうするとエリカちゃん、アタシ達の事を頭の中で言いたい放題じゃん。口に出してくれた方が、一発食らわせて憂さ晴らしできるんだよ?」
「「なるほど!」」
ミラーナさんの意見に同意するミリアさんとモーリィさん。
ちょっと待て、コラ!
そんな私達のやり取りを眺めながら、ルディアさんが呟く。
「私の故郷へ連絡する話じゃなかったっけ…?」
「「「「あ………」」」」
すっかり忘れてたよ…
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「結局、私とライザさんで行く事になるんですね…?」
「そりゃ~ルディアさんが高い所は苦手って言うなら、エリカちゃんが行くしかないだろ? 何日も治療院を空けるワケにはいかないから、そっちはアリアちゃんに任せるしかないし… 何より、ムルディアの言葉を話せるのはエリカちゃんだけなんだからさ」
そりゃまぁ、そうなんだけどね…
皆で話し合った結果、ルディアさんには無事を知らせる手紙を書いて貰い、それを私とライザさんでレナルまで届ける事になったのだ。
「それにしても、チュリジナム皇国を抜けて南へ馬車で3ヶ月の距離かぁ… チュリジナム皇国を抜けるだけでも馬車で3ヶ月は掛かるから、ボクでも往復するのに10日ぐらいは掛かると思うよ?」
陸路と同じルートならな。
レナルの場所は大体の見当がついてるから、直線的に飛べば日数は短縮できる。
もっとも、その間は海の上を飛ぶ事になるだろうから、ライザさんは飛びっ放しになるんだけど…
「それって休憩できないって事? そりゃ、ボクは寝ながらでも飛べるけど… それ──寝ながら飛ぶ──をやって、何回か墜落してるんだよね、アハハ♪」
笑いながら言うなよ!
ライザさんはともかく、私が無事で済まんわ!
不老不死だから死なんけど、ダメージは負うんだからな!
てなワケで、私達は途中休憩を挟みながら陸路と同じルートを辿り、レナルに向かう事にしたのだった。




