第174話 塩分過多のルディアさんを治療して、就職を斡旋してみました♪
ルディアさんの料理が塩辛過ぎる事で、料理教室を開く事は断念した。
が、私はルディアさんに関して気付いた事があった。
名前が似ている…
彼女は名前がルディア、国の名前がムルディア公国…
ムルディア公国の王侯貴族、もしくは国と何か関係があるのだろうか?
気になったので聞いてみると…
「何の関係も無いわよ? 意味があるとしたら、たまたま私の生まれた年がムルディア公国の建国100周年で、両親が記念みたいな意味でルディアって名付けたって事かしらね?」
それだけかい!
いやまぁ、それだけルディアさんの両親は国の事が好きなんだろうけど…
塩以外の物価がイルモア王国の倍近いなんて知ったら、どう思うんだろ…
ルディアさんみたいに、他の国に移住する事も考えるんじゃないだろうか…?
ルディアさん本人は、まだ迷ってる感じだけどな。
「…て事はルディアさん、その内ムルディア公国に帰っちゃうんですか?」
朝食を運びながらアリアさんが聞いてくる。
「そうなると寂しいわねぇ… 出会って数日だけど、なんだかんだで打ち解けちゃったから…」
「だよねぇ… けど、私達が口出しして良い問題でも無いしねぇ…」
ミリアさんとモーリィさんが、ダイニングに入りながら話に参加する。
2人の言う通り、ルディアさんの気持ち次第だからな。
「それに、ルディアさんの家族の事もあるしなぁ… ルディアさんが良くても、家族が反対したら難しいんじゃないか?」
だよなぁ…
ルディアさん1人なら何とかなるかも知れないけど、家族を捨ててまで移住するってのもなぁ…
「私、家族は居ないわよ? 両親は数年前にポックリ逝っちゃったし、兄弟姉妹も親戚も居ないから天涯孤独なのよねぇ♪」
楽しそうに言うなよ…
私も設定上は天涯孤独だけど、少なくとも楽しそうには話してないぞ?
てか、ポックリ逝ったってのが気になるな…
「あの~… ルディアさんのご両親って、何が原因で亡くなったんですか? 何となくですけど、脳卒中とか心筋梗塞だったんじゃないかと…」
私が言うと、ルディアさんは目をパチクリさせ…
「そう… だけど… 何で分かるの?」
やっぱりかい…
「食生活ですよ… ルディアさんの料理で確信しましたけど、塩分を摂り過ぎなんですよ。塩分の過剰摂取が原因で高血圧を引き起こし、脳卒中とか心筋梗塞なんかの心臓疾患で亡くなる事も多いんです」
「じゃあ、もしかしたら私も…?」
私はコクリと頷く。
「間違い無く… とまでは言いませんが、可能性は高いでしょうね。発汗で失われる塩分よりも、食事で摂取する塩分が多過ぎるのは確実だと思います」
ルディアさんが作った料理は明らかに塩分過多。
赤道直下と思われるムルディア公国が酷暑──摂氏40℃以上──の国で、大量の汗を掻くとしても塩分の摂取量が多過ぎる。
前世の日本では年度に依って多少の変化はあるが、1日6g未満を推奨していたんじゃないかな?
勿論、発汗で塩分を失う量は人それぞれだから一概には言えないだろうけど。
一時期は1日の塩分摂取量を成人男性で10g以下、成人女性で8g以下を推奨してたりと、研究に因って推奨摂取量も変化してるしな。
それに、これは飽くまでも前世の日本での話だし…
日本より大量の汗を掻く地域の人なら、塩分摂取量は増えて当然なんだけど…
あんなに塩辛い料理ばかり食べてるんだったら、失われる塩分より多く塩分を摂ってるのは間違いない。
そりゃ高血圧にもなるし、高血圧が原因の病気にもなるだろ…
「ど… どうしよう… 父さんも母さんも、50歳になる前に死んじゃってるのよ…? 私も生まれてから、ず~っと濃い塩味の食事ばかり… 私も早死にするのかしら…」
急に不安になり、冷や汗を流すルディアさん。
まぁ、不安になるのも無理はない。
が、ロザミアには私が居るって事を忘れて貰っちゃ困る!
てなワケで、早速ルディアさんを診察する事にした。
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私は診察室でルディアさんの上腕を両手で握り、血圧を計る。
「う~ん… やっぱりと言うか、年齢のワリに血圧が高いですねぇ…」
「そ… そうなの…? 私、大丈夫かしら…」
不安そうなルディアさん。
まぁ、まだ深刻な状態ではないんだけどな…
「最低血圧が97、最高血圧が142ですから… 高血圧としては、まだ軽症の範囲ですね。24歳って年齢を考えると高い方ですけど、生活習慣を改善すれば治る範囲ですね」
「と言うと…?」
「ルディアさんの場合は、体内の塩分濃度を減らす事ですね。汗を掻いて体内の塩分を減らし、私達と同じ食事を続ければ自然に治りますよ♪」
「エリカちゃん達と同じ食事…? う~ん… 美味しいんだけど、私には味が薄いのよねぇ… 何て言うのかな? もう少しパンチの効いた味の方が…」
私が言ってる意味、理解してんのかコラ…
「…そのパンチの効いたってのが問題なんですけどね… まぁ、身体から余分な塩分が抜ければ、私達が普段食べてる料理でも満足できますよ♪ まだルディアさんの体内は塩分濃度が高い状態ですから、味の濃い料理じゃないと美味しいと感じないだけです♪」
「そ… そうなの…? でも、治療院に来た時に出された寿司って料理は、普通に美味しかったけど…」
あぁ、あれね?
そりゃ当然なんだけどね…
「お寿司はご飯に酢を使ってますからね♪ それに、握り寿司と軍艦巻きは醤油を付けて食べたでしょ? お寿司って、薄味に思えて意外にしっかり味が付いてるんですよ。でも、塩分控え目でヘルシーなのは間違いないんですけどね」
そう、和食はヘルシー!
2017年に来日したFAO事務局長(当時)だったジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバは、『日本は先進国の中でも肥満率は4%と低く、日本の伝統的な食事である和食は健康の改善と長寿に貢献している』とし、『Japan is a global model for healthy diets(日本は健康的な食事と栄養の世界的なモデルである)』と述べているんだよ♪
だから和食中心の食生活を送っていれば、メタボリック・シンドロームや生活習慣病なんて気にする事は無い!
…スイマセン、嘘です…
和食でも食べ過ぎればメタボリック・シンドロームにもなるし、生活習慣病にもなります…
何でも程々が一番です。
とにかくルディアさんの体内塩分濃度が私達と同じ程度になるまでは時間が掛かるし、それまで味の薄さを我慢しなければならないのは気の毒だ。
なので、私の魔法で一気に改善する。
ルディアさんの体内塩分濃度を私と同じ程度に下げ、ついでに舌が感じる味覚を少しばかり敏感にしておいた。
これで私達と同じ料理を食べても満足できるだろう♪
昼食での反応が楽しみだ♪
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朝の部の診療を終えた私とアリアさんは、ルディアさんを連れてギルドで昼食を摂る事にした。
昼食以外にも目的があるんだけどね。
「あ… 美味しい♪ 少し前にギルドで食べた時は、味が薄くて食べた気がしなかったのに…」
私とアリアさんは、テーブルの下でサムズアップしてドヤる。
「エリカさんの考えた通りでしたね♪ やっぱりルディアさんの体内は塩分濃度が高かったから、濃い塩味じゃないと美味しく感じなかったんですね? エリカさん、さすがです♪」
もう慣れたなぁ…
アリアさんが私を褒めて恍惚とするのは…
「後は料理を作る時に、塩を使い過ぎない様に気を付けるだけですね。まぁ、小忠実に味見しながら作れば大丈夫でしょう。それより大切な目的があって、ルディアさんをギルドに連れて来たんです」
「「大切な目的?」」
アリアさんとルディアさんの声がハモる。
「そう、大切な目的です♪ マークさ~ん♪」
「おぅっ、エリカちゃん。何だい?」
私が呼ぶと、マークさんが口髭を弄りながら歩いてくる。
「実はルディアさんをギルドで雇えないかな~って思いまして♪ ハンター登録してミラーナさん達とパーティーを組むのは、ルディアさんの経歴から考えると難しいかも知れないんで…」
「ギルドで? 私が?」
キョトンとするルディアさん。
「フム… 確かルディア・バーロゥだったかな? ムルディア公国のレナルって漁村出身だったと記憶しているが…」
よく覚えてるな…
さすがはギルドマスターってトコか。
「ルディアさん、ロザミアに永住するかは迷ってるみたいなんですけど… 一時的にでも仕事に就いていた方が良いんじゃないかと思いまして… どうですか?」
「俺としては構わないが、どうしてギルドに? 商店街とか食堂街はダメなのかい?」
逆にマークさんが聞いてくる。
まぁ、一応それも考えたんだけど…
「まだロザミアに慣れてないでしょうから、治療院から近い方が良いかな~って思ったんですよね。私が近くに居た方が、ルディアさんも安心でしょうし」
首を縦にブンブン振るルディアさん。
首の筋、痛めるぞ?
それからしばらくマークさんと話をし、ギルドの食堂スタッフとして試用して貰う事になったのだった。
塩を使い過ぎない様に特訓しておくか…