第171話 ルディアさんの故郷に懐かしい日本の風景?
とりあえず私はマークさんに許可を貰い、ルディアさんを治療院へと連れて戻った。
ギルドに宿泊して貰っても良かったのだが、彼女が流されてロザミアに辿り着いた事を考えると、持ち合わせは少ないと思ったからだ。
案の定、ルディアさんの所持金は少なく、銀貨を十数枚持っているだけだった。
「これだけしか持ってないんですね…? 道中の飲食は大丈夫でしょうけど、海を漂流してた時はどうしてたんですか?」
「海では何が起こるか分からないから、いつも携帯食料は持って出るのよ… まぁ、数日分しか持ってなかったけど… それを、できるだけ節約しながら… それでもノルンに着く3日ぐらい前には無くなったけどね」
だろうな…
「では、ノルンからロザミアまでは…?」
「文字は読めないし、言葉は解らないしで苦労したけど、他の人が食べてる物を指差したりして何とかね…」
それしか方法は無いか…
「でもまぁ、無事にロザミアに着けて良かったですね。落ち着くまで治療院に滞在すると良いですよ?」
「迷惑… じゃない…?」
「そんなワケありませんよ♪ アリアさんもですし、さっき会ったミラーナさんも同居してるんですよ♪ 他にも3人同居人が居ますんで、遠慮する事はありませんよ♪」
私を含めて合計6人が住んでいる事に驚くルディアさん。
更に家賃は不要で食費も全て治療院の収入で賄っている事に驚愕していた。
「それ… 大丈夫なの…? 王宮や貴族の御抱え魔法医ならともかく、街の魔法医の稼ぎって、そんなに無いんじゃ…?」
「エリカさんなら大丈夫です!」
心配するルディアさんに、何故かアリアさんがドヤ顔で説明を始める。
「エリカさんの最大魔力容量は底抜け… と言うか、天井知らずなんです! エリカさんが王都のヴィランに行った際、現地で連日700人を超える傷病人を治療した記録も残ってるんですよ!」
「そ… それじゃあ…」
「今は私と一緒に治療してますが、私が魔法医として働ける様になるまでは、エリカさん1人で毎日100~200人を治療して平気だったんです。1日の食費なんて、せいぜい小金貨1枚程度ですから… ルディアさん1人が増えたところで何の問題もありませんよ♪」
「まぁ、そう言う事だね。住んでた漁村に戻るも良し、ロザミアを新天地として永住するも良しだ。住む所が無いなら、治療院に住んでも良いんじゃないか? エリカちゃんなら、許可してくれそうだしな♪」
なんか勝手に話が進んでるけど…
まぁ、ロザミアに住むってんなら、治療院に住むのが手っ取り早い。
部屋も余ってるしな…
9部屋中7部屋が埋まる事になるから、お客さんは2~4人しか泊まれない事になるけど…
逆に、また王妃様達がロザミアを訪れても、それを理由に治療院への宿泊を断れるメリットもある。
いや、王妃様達を泊めるのが嫌ってワケじゃないんだけどね?
ミラーナさん以外、気を遣うじゃん。
せっかく観光ホテルを建設したんだし、そっちを使って欲しいってのもある。
治療院に泊まると、宿泊費や食費は私持ちになるからなぁ…
嫌らしい考えかも知れないけど、ロザミアにお金を落として欲しいんだよね。
その為に観光ホテルとテーマパークを建設したんだから。
…なんて事を考えてると、残りの3人が帰宅した。
「ただいま~♪ 今日の夕飯、何かな~♪」
「も~… ライザちゃんったら、帰ってくるなりそれ~?」
「別に良いじゃん。ミリアだってお腹空いてるでしょ?」
相変わらず騒がしく帰ってくるな…
「「「…って、誰!?」」」
まぁ、予想通りの反応だな…
「まずは簡単に紹介しますね。彼女はルディア・バーロゥさん、24歳でムルディア公国のレナルって漁村から来られました。ワケあって治療院に滞在しますので、仲良くして下さいね♡」
「「「了解!」」」
私がニッコリ笑って言うと、3人は何故か緊張した面持ちで敬礼したのだった。
ど~ゆ~意味だ、テメー等…
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「てなワケで、今日の夕食はルディアさん歓迎の意味を込めてお寿司&刺身です♪」
「「「「いぇ~い♫」」」」
寿司&刺身と聞いて、テンションMAXのミラーナさん、モーリィさん、ライザさん、アリアさんの4人。
ミリアさんは食べ慣れてる──同居する前から何度も食べている──からなのか、喜んでいるけど普通に微笑んでいるだけ。
まぁ、その薄い反応も今だけだろう。
今回はミリアさんが食べた事の無い寿司も作るので、ミリアさんのテンションも上がるだろう。
逆に不安な表情を見せているのがルディアさん。
寿司も刺身も初めて聞く単語だろう。
未知の料理に不安になるのは理解できる。
そんな反応、何人も見てきたからな。
「じゃ、腕に縒りを掛けて作りますか♪ ミリアさんは刺身の用意を、アリアさんはスープの用意をお願いしますね♪」
「「は~い♪」」
嬉々としてキッチンに入る2人。
対照的に、ミラーナさんとモーリィさんは不貞腐れている。
「なんでアタシには頼まないんだよ…」
「私だって料理は得意… とまでは言わないけど… エリカちゃんが魔法でミリアの料理下手を治すまでは、私の方が上手だったのに…」
いや、さすがにミラーナさんの幻覚が見える何かをルディアさんに提供するのは時期尚早だろ。
モーリィさんの料理に問題は無いが、刺身を切り慣れてるのはミリアさんなんだから仕方無いし…
2人に説明すると、モーリィさんは納得してくれたが、ミラーナさんからはハリセン──通常バージョン──を食らわされた。
いや、自分の作った料理を食べた人が幻覚を見るって、自覚してたんじゃねぇのかよ…
そんなこんなで刺身と握り寿司を完成させ、私は新たな寿司を作り始める。
別に特別な寿司じゃない。
単なる巻き寿司と軍艦巻きだ。
最近になってノルンが海苔を作る事に成功したので、巻き寿司と軍艦巻きを作りたかったんだよね♪
勿論、海苔の作り方を教えたのは私だけど…
ここでも前世の知識が活かせるとは思わなかったので、ハッキリ言って私もテンションMAXなんだよ♪
とりあえず軍艦巻きには、定番とも言えるイクラとウニの2種類を用意。
巻き寿司は鉄火巻きやかっぱ巻きみたいな細巻きではなく、所謂『太巻き』を作る。
具材はウナギ、玉子焼き、キュウリ、紫蘇を使う。
欲を言えばかんぴょうも入れたかったけど、無い物は仕方無い。
「お待たせしました~♪ 新しく考案した太巻きと軍艦巻きも堪能して下さいね♡」
テーブルに所狭しと置かれた様々な寿司に、垂涎の面々。
ルディアさんだけは初めて見る寿司に困惑していたが、一口食べると夢中になっていた。
うんうん♪
寿司は万国に愛される日本の伝統料理だよねぇ♡
異世界でも愛されるとは思ってなかったけど。
それとは別に、驚かされたのはルディアさんが箸の使い方に長けていた事。
聞けば、祖国のムルディア公国では普通に箸を使っているんだとか。
他にも日本と似た文化が多く、握手より御辞儀するとか、椅子を使わず床に座布団を敷いて座るとか…
中でも驚かされたのが、床はフローリングではなく畳が使われている事!
これは行ってみたい!
日本の畳と同じかどうかは判らないが、井草らしい物を使って作られているとの事!
行ってみたい!
畳に寝転んでみたい!
日本人なら畳に布団だろう!
しかし、遠いからなぁ…
マークさんの話だと、チュリジナム皇国を抜けて、更に南へ馬車で3ヶ月の距離って事だから…
なんだかんだで往復に1年は掛かるじゃん!
行きたいけど、そんなに長く治療院を空けられないし…
無理して行けば、それだけアリアさんに負担を掛けるし…
「エリカちゃん… 何を悶えてんだ…?」
「エリカさん、考え過ぎるクセがありますからねぇ…」
「見てて面白いけどね♪」
「白衣よりドレスで悶えたら可愛いかも…」
「ボク、初めて見たけど… モーリィさんの言う通り、面白いかも…♪」
「私… 治療院に住まわせて貰って大丈夫なのかしら…?」
聞き捨てならない言葉を聞いた気もするが、畳や座布団の在るムルディア公国に思いを馳せていた私に、それに突っ込む余裕はなかった。
悶々としながら食事と風呂を済ませ、ルディアさんを部屋に案内した私は、やはり悶々としながら眠りに着いたのだった。