第170話 新たなる出会いと新たなるハリセン…
「ロザミアって天気の良い日が多いから助かりますねぇ♪」
休日の朝、私は洗濯物を干しながらアリアさんに話し掛ける。
「本当ですね♪ これだけ晴れの日が多いと、洗濯も楽しくなりますね♪」
ニコニコ笑顔で答えるアリアさん。
本当に楽しそうだな…
「アリアさんの住んでた森って、あまり晴れなかったんですか? それとも、森だから木陰が多くて洗濯物を干す場所が限られてたとか?」
「雨が多かったんですよ。私の住んでた森なんて、週に3日か4日は雨でしたから。雨が降らなくても曇ってばかりで… 晴れの日なんて、2~3週間に1日か2日でしたね」
少ないな…
日照時間が短いから、アリアさんは色白なんだろうか?
いや、そもそもエルフは色白なんだと思うけど…
違ったっけ?
「関係ありませんね。同じエルフでも、ダークエルフは生まれつき浅黒い肌をしてますし… 種族的なモノですね」
そんなモンなのか…
まぁ、前世でも白色人種とか黄色人種とか黒色人種に別れてたからな。
大まかにだけど…
混血も居たし、この世界でも似たり寄ったりなのかも知れないな。
「そう言えば… エリカさんって、イルモア王国の人達とは少し違う顔立ちの様に思えますよね? 何処の出身なんですか?」
来ちゃったよ、この質問が…
まぁ、いつかは来ると思ってたんだけどね。
設定は大丈夫だと思うけど…
「私、自分のルーツって知らないんですよね。両親は早くに亡くしてまして、祖父母と一緒に山奥で暮らしてたんですけど… 気にもしなかったんで、聞いた事が無かったんですよ」
「ご自身のルーツを知らないんですか? それは… 何と言って良いか…」
俯くアリアさん。
気にしなくて良いんだけどな…
どうせ作り話なんだから。
言えんけど…
「ルーツなんて気にする事はありませんよ♪ 出自が不明でも、私は私… エリカ・ホプキンスはエリカ・ホプキンスなんですから♪ 大切なのは今、そして未来なんですから♪」
「そ… そうですよね! 大切なのは今、そして未来! やっぱりエリカさんは凄いです!」
何が凄いんだか解らないけど…
納得してくれたんなら良しとしよう。
てか、やっぱり恍惚とするんだな…
「あ、やっぱりここに居たのね? エリカちゃん、マークさんがギルドに来て欲しいって言ってたわよ?」
ミリアさんが屋上に上がってきて伝言を伝える。
マークさんが私を呼ぶなんて珍しいな…
何か困り事でも起きたかな?
─────────────────
ギルドに行くと、大勢の人が集まっていた。
「この人集り… 何かあったんですか?」
「エリカちゃん、来てくれたか。行き倒れを保護したんだよ。ただ、言葉が通じなくてね… とりあえず部屋で休ませてるんだが…」
言葉が通じない?
ロザミアの言語はイルモア王国の公用語で、チュリジナム皇国でも通じるんだけどな…
それがダメなんだとしたら、もっと遠くから来た人って事かな?
この世界に来た時に言葉の問題を解決すべく、この世界のあらゆる言語を使える様に自分に魔法を掛けたけど…
「とりあえず、保護した人に会わせて貰えますか?」
「あぁ、それは大丈夫だ。おい、お前等! エリカちゃんを部屋に入れるから退け!」
マークさんが言うと、ハンターの兄ちゃん達がサーッと左右に別れる。
私はモーセかよ…
それはともかく、マークさんが部屋に入り、私も続いて部屋に入る。
そこにはベッドに腰掛け、ジッと私達を見つめる1人の女性が居た。
アリアさんとの会話でフラグでも立ってたのか、そこに居たのはどう見ても黒人さん。
年齢は、20~25歳って感じかな?
「えぇと… 私の言葉、解りますか?」
私が話し掛けるも、女性は首を傾げ…
「ତୁମେ କିଏ? ତମେ କ 'ଣ କହୁଛ?」
フム…
ならば…
「ମୋର ନାମ ଏରିକା ମୁଁ ଏହି ସହରର ଯାଦୁକର」
女性を意識して話すと、魔法の効果で自然と女性の使う言語が口から出てくる。
「エ… エリカちゃん、この女性の言葉が理解できるのか!?」
驚くマークさん。
逆に、女性は安心した様な表情になる。
「ଏହାଭଲଥିଲା~… କାରଣମୁଁକହିପରୁନାହିଁମୁଁଅସୁବିଧାରେଥିଲି!」
その眼には涙が浮かんでいた。
その気持ち、解る気がする。
私もこの世界に来た時は、言葉が通じなかったらどうしようかと思ったからなぁ…
魔法を使えるようにして貰ってて、本当に良かったよ…
とりあえず私は女性に掌を向け…
「କଣ!? ତମେକଣକରୁଛ!?」
次の瞬間、女性の身体が光に包まれる。
すぐに光は消え、女性には何も変化は見られなかった。
見た目だけはね…
「エリカちゃん… 今の光は何なんだい? 彼女に魔法を掛けたとは思うんだが…」
マークさんが私に質問すると…
「私に魔法を…? …って、あれっ? さっきまで、その人の言葉が解らなかったのに…」
私は軽く肩を竦め…
「そ~ゆ~事です。貴女に私達の言葉を理解し、話せる様に魔法を掛けました。これで自由にコミュニケーションが取れますね♪」
私が言うと、女性は私に向かって両手を組み…
「め… 女神様!」
なんでやねんっ!
「違いますっ! 私は一介の魔法医です! 断じて女神様ではありませんっ!」
「エリカさん、さすがです!」
私の後ろに居たアリアさんも恍惚としている。
おいおい、アンタもかよ…
「エリカ… さん? ちゃん?」
見た目が私より歳上のアリアさんが、私の事を『エリカさん』と呼んでるのに困惑してる様子の女性。
「好きに呼んで貰って良いですよ? 実年齢は28歳ですけど、見た目は10歳程度なんで… ちなみに彼女… アリアさんはエルフで160歳近いんですけど、魔法医として私の弟子なんで『さん』呼びなだけなんです」
女性は少し考え、やがて納得した様に頷く。
「じゃあ、私は『ちゃん』呼びにするわね… 見た感じ的には、その方が自然だと思うし…」
私はコクリと頷く。
「じゃ、軽く自己紹介しますね♪ 私はロザミア… この街の魔法医で、エリカ・ホプキンスと言います。で、こちらはマーク・グランベルさん。このギルドの責任者、ギルドマスターです。こちらのアリアさんは、さっきも言った様に魔法医として私の弟子でエルフです。外に居る皆さんは… 数が多いんで省略します」
「「「「エリカちゃ~ん…(泣)」」」」
文句は聞かんぞ?
この女性がロザミアに滞在するなら、自然と覚えてくれるだろ。
1人1人紹介してるヒマも無いしな。
「私はルディア・バーロゥって言うの。ちなみに24歳。ムルディア公国のレナルって漁村に住んでたんだけど、海で遊んでたら流されちゃって… 気付いたらノルンって漁村に漂着してたのよ… あ、漁村の名前が判ったのは、そこの人達の言葉に『ノルン』って何度も出てきたからなんだけど… 間違ってないかな…?」
「いえ、ノルンで間違いないでしょうね。ロザミアに近い漁村って、ノルンしか無かった筈ですから…」
チラッとマークさんを見ると、マークさんは私を見て頷く。
良かった…
間違ってなかったか。
「それにしても、ムルディア公国か… 結構、離れてるな。よく無事にノルンまで流れ着いたモンだな…」
マークさんの話に由ると、ムルディア公国とはチュリジナム皇国を抜け、更に南へ馬車で3ヶ月の距離だそうだ。
そんな遠くからロザミアまで漂流って…
「上手く海流に乗れれば1ヶ月も掛からないとは思うが、その海流に乗るには最低でも2~3㎞は沖合に出なけりゃダメだと思うんだがな…」
マークさんが考えながら話す。
そんなにかよ…
普通なら海流に乗れずに海で遭難だぞ?
「あぁ、私ってば子供の頃から沖に出て遊ぶのが常だったから… あの日も5㎞は沖合に出てたんじゃないかな?」
出過ぎだろ…
普通はそこまで出ないぞ?
そんな事してたんなら、海流に流されても不思議は無いだろ。
後先考えずに無茶するなんて、まるでミラーナさんだな…
すぱぁあああああああんっ!!!!
がごんっ!
「あ痛っ!」
後頭部を襲う衝撃で、私はテーブルに顔面を打ち付ける。
「あの~… エリカさん…?」
「言わなくて良いです… また口に出てたんでしょ…? で、いつの間にか現れたミラーナさんが、それを聞いてハリセンで殴ったんですよね…?」
私はテーブルに顔面をめり込ませたまま、アリアさんに答える。
アリアさんは、溜め息を吐きながらミラーナさんに尋ねる。
「そのハリセン… 多分ですけど、エリカさんが作ったミラーナさん仕様のハリセンよりパワーアップしてません?」
「良い素材が手に入ったんで組み込んでみたんだよ。ここまで威力が上がるとは思ってなかったんだけどね…」
改良したんかい!
そう思ったのも束の間、私は意識を失ったのだった。




