第167話 余計な一言は言わないのがベストなんでしょうか?
ワイルド・ウルフの魔獣暴走の可能性が低くなってきたと思われたが…
どうしても気になった私は、ライザさんに頼んでニュールンブリンクの大森林全体が見渡せる高度まで連れて行って貰う事にした。
「うひゃぁ~っ! 思ってた以上に寒いですねぇ~!」
「そうなんだよねぇ~… 高くなるほど寒くなるし、息苦しくなるんだよねぇ…」
高度が上がると気圧と外気温が低下するからな。
地球上での具体例としては、305m毎に気温は平均2℃、1000m毎に気圧は約100hpa変化する。
ここは異世界で地球とは違うけど、だいたい似た様なモンだろ。
気圧が下がれば空気が薄くなって酸素含有量も低下するから、息苦しく感じるのも当然だな。
「だいたい今、どの位の高さなんですか?」
「そうだなぁ… 5000mってトコかな? この高さはボクも滅多に飛ばないけどね」
そりゃ寒いワケだよ…
単純に計算して、地上より気温が30℃以上低いんだからな…
って、地上が20℃ぐらいだったから、マイナス10℃以下やんけ!
気圧だって、半分程度だぞ!
「ライザさんは平気なんですか? 私、結構キツいんで… 防寒魔法を掛けて、気圧シールドも展開しますね…」
このままじゃ凍えるし、酸欠になってしまうわいっ!
ブォンッ!
気圧シールドを展開して内部の気温を地上と同じぐらいの20℃に、酸素含有率も地上と同じぐらいの20%を少し上回る程度に設定する。
「…あれっ? 呼吸がラクになった… それに、寒さも…」
「私だけじゃ勿体無いですからね♪ ライザさんも一緒に囲んじゃいました♪」
5000m上空でも、まだまだ大森林の全体は見渡せない。
まったく…
ニュールンブリンクの大森林って、どれだけ広大なんだか…
「とりあえず、大森林の真ん中辺りまで行って下さい。それから全体が見渡せる高さまで上昇をお願いします」
「らぢゃ~♪」
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「うん、この高さなら全体が見渡せますね♪」
ようやく大森林の全体が見える様になり、私は身体の内部を診る要領でワイルド・ウルフの分布を確かめる。
てか、本当に広いな…
高度は… 軽く10000mは超えてるぞ…
こんなに高く上がらないと見えんのかい…
「なるほど… 中央に行くほどワイルド・ウルフの数は多いですけど、外周部に行くほど数が減ってますね… それに、他の魔獣や魔物と比べても突出して多いとは言えない状態みたいです」
「…て~事は、魔獣暴走が起きる可能性は…」
私はコクリと頷き…
「はい♪ この状態を維持できれば、何も問題は無さそうですね♪ ロザミアに戻って、皆に知らせましょう♪」
「らぢゃ~♪」
そしてライザさんはロザミアまで一直線に急降下し…
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私が気付いたのは、ライザさんに背負われて治療院の前に着いた時だった。
どうやら急降下の途中で気を失ったらしい。
そりゃ、殆ど真下に向かって全力で急降下されりゃ、誰でも失神するわいっ!
「お… お帰り、エリカちゃん… 早速で悪いんだけど、ギルドで報告… 頼めるかな…?」
「はい、分かりました♪」
私の足元を見つつ、ひきつった笑顔で話すミラーナさんに私はニッコリ笑って応える。
私の足元には、ハリセンでシバき倒されたライザさんが地面にめり込んでいた。
ちなみに私はライザ仕様ハリセンを握り締め、ライザさんの頭を踏みつけている。
「ちょっと、やり過ぎなんじゃ…」
「何を言ってるんですか!? 10000mを超える高さから殆ど真っ逆さまに、自由落下より遥かに早い速度で急降下されたんですよ!? こんな程度で済ませて貰えたんだから、感謝して欲しいぐらいですよ!」
私はライザさんの頭を踏みつけた足をグリグリさせながら憤る。
「マジかよ…」
私の説明を聞き、さすがのミラーナさんも青褪める。
「と… とにかくギルドへ行くか! マークさん達も話を聞きたがってたしさ!」
「分かりました♪」
そう言ってギルドへ向かう私は、最後に一発ライザさんの頭を踏みつけていった。
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「…と、そんな感じですね」
超高高度から観察したニュールンブリンクの大森林の様子を説明し終えると、ハンター達から歓声と安堵の声が挙がる。
「やっと終わるんだなぁ…」
「結構、大変だったよなぁ… 戦の方がラクだったんじゃねぇか?」
「おいっ、テメー等ぁ! 安心してんじゃねぇぞ!? 気を抜いたらアッと言う間に増えるのがワイルド・ウルフなんだからな! それに、魔獣暴走の危険があるのはワイルド・ウルフだけじゃないんだぞ!」
さすがにマークさんだけは、まだまだ気を許していない様子だ。
今回の作戦でワイルド・ウルフの魔獣暴走は抑えられたが、魔獣暴走の危険性があるのは他の魔物や魔獣も同じだしな。
フォレスト・ウルフもだし、ホーン・ラビットやキラー・ラビットだって成長が早いから魔獣暴走を起こす可能性は否定出来ない。
ワイルド・ウルフに比べるとマシなだけだ。
「まぁ、一応は落ち着いたってトコですかね? それでもマークさんの言う通り、油断してたらワイルド・ウルフ以外の魔獣が魔獣暴走を起こすかも知れませんからね。ハンターの皆さんには、これまで通りの間引きをお願いしますね♡」
私は満面の笑みを向けて、ハンターの兄ちゃん達を鼓舞する。
「任せてくれよ! エリカちゃんの頼みとあっちゃ、張り切らないヤツは居ないぜ!」
「二度と魔獣暴走の気配さえ起こさない様にしてやるさ!」
等々、口々に言う兄ちゃん達の隙間から、落ち込むマークさんの姿が見え隠れしていた。
マークさんが言っても反応が薄いのに、私が言うと皆が呼応したからか…
ミリアさんとモーリィさんが慰めてるみたいだけど、まぁ頑張ってくれ。
それにしてもマークさん、意外にメンタルが弱かったんだなぁ…
「いえ… 弱かったらギルドマスターは務まらないんじゃありませんか…?」
アリアさんの至極もっともな突っ込み。
まぁ、言われてみれば確かに…
「俺が言うよりエリカちゃんが言う方が効果が高いってのがな… ギルドマスターとしての威厳って、何なんだろうな…」
そっちで悩んでるんかい。
「まあまあ、マークさん… エリカちゃんの人気には誰も敵いませんから、仕方無いですよ」
そ… そうなのか…?
「そうそう♪ エリカちゃんの笑顔には勝てないからねぇ♪ 特に怒った時の笑顔には…」
モーリィさん… 余計なお世話だよ…
てか、青褪めるぐらいなら言うなよ…
何はともあれ、モーリィさんは後で拷問しなきゃだな…
「あの~… エリカさん…? モーリィさんを見る目が凄く怖いんですけど… 殺したりしませんよね…?」
ンなワケ無ぇだろ…
アリアさん… 私を何だと思ってんだよ…
人を治して助ける魔法医が人を殺しちゃ、本末転倒も甚だしいだろ…
「いえ… 本当に殺すとは思ってませんけど… エリカさん、さっきからズ~ッと殺気に満ちた笑顔のままなんですよ…」
あら?
そうでしたか?
意識してたワケじゃないんですけどねぇ…?
「エリカちゃん… 殺さないでね!?」
私達の会話を聞いていたモーリィさんが、涙をダバダバ流しながら懇願してくる。
殺さねぇよ…
てかアンタ、不老不死だから死なないだろ…
死ぬかもと思わせる事はできるけど…
やらないけどね…
ちなみにミリアさんは、我関せずと言った感じでポヤポヤしている。
後でハリセンの一発でも食らわせるか…
「まぁ、とにかくですけど、一応は一安心ですかね? マークさんが言う様に油断はできませんけど、お疲れ様でした♪」
一応は取り繕った感じで締め括ったのだが…
とりあえずモーリィさんを追及する事だけは忘れなかった私でした。