第165話 肉体的、精神的… 連絡役は、全員お疲れの様子です…
時は少し戻り、ライザが死んだ様に眠る前の事。
与えられた自室に戻ったライザは独り言を呟いていた。
「2回お風呂に入ったのは良いとして、とにかく疲れた… 明日の朝食を食べたら、すぐにロザミアに戻っ…」
そこまで言って、肝心な事を思い出す。
「ダメだ… 国王陛下から手紙の返事を貰ってないや… 手紙を読んで、ニュールンブルクの大森林の事は理解して貰えただろうけど… なんだかんだで返事を聞きそびれたからなぁ…」
そんな事を考えている内に眠気を感じてきたが、考えも纏まらないのに眠るワケにはいかないと懸命に睡魔と戦っていたライザだったが…
「ふにゃあぁ…」
翔んでいても眠ってしまうライザが睡魔に勝てる筈もなく、あっさり眠ってしまうのだった。
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ライザは困惑していた。
朝も早い内から強引に起こされ、朝食も食べずに浴室に連れて行かれ…
王妃、キャサリン、ロザンヌの3人から全身を洗われている事に…
(なんで朝早くからお風呂…? なんでボクは皆から洗われてるの…?)
状況が全く理解できず、ボケ~ッとしながら全身を好き放題に洗われながらボンヤリと考えるライザ。
ようやく解放されたのは、本来の朝食時間から1時間余りが過ぎた頃だった。
「昨夜はバタバタしておった故、手紙の返事を伝えられなくて申し訳なかったな、ライザ殿。手紙の内容からニュールンブリンクの大森林でのワイルド・ウルフの魔獣暴走が起こる可能性についての状況は解った。王都からも討伐隊を派遣する事は吝かではない。早急に対処しよう。貴殿はロザミアに戻り、ミラーナとエリカ殿に伝えて貰いたい。ミラーナには落ち着いて対処し、絶対に暴走しない事。エリカ殿にはミラーナが暴走しない様、ミラーナの監視を怠らない旨を伝えて貰いたい。余の… アインベルグ・フェルゼンの名に於いて、ミラーナの暴走だけは食い止めてくれ…!」
国王の苦渋に満ちた表情に、ライザは心の中で呟く。
(ミラーナさん… あんた、ある意味では実の親からも全く信用されてないんだね…)
ビミョーな雰囲気の朝食を終えたライザは、逃げる様にヴィランからロザミアに帰ったのだった。
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「大変でしたねぇ… まさか初対面のライザさんがお風呂の被害(?)に遭うなんて、予想してませんでした…」
私は帰ってくるなりグッタリとソファーに凭れるライザさんに声を掛ける。
「ボクも思ってなかったよ… てかエリカちゃん、王都滞在中は毎日だったの…? よく耐えられたね…」
「最初は何も無かったんですけどねぇ… 王都で大勢の傷病人を治療して、疲れた私に食事を食べさせてくれたりしたまでは良かったんですけど… 更にお風呂の世話までしてくれたのが始まりなんですよ… それで他人を洗う楽しさ? ってのに目覚めちゃったみたいで…」
ライザさんは、話を聞いてげんなりとした様子。
うん、気持ちは解るよ…
「私は被害(?)に遇ってませんけど、お2人の様子を見ると、かなり疲れるみたいですねぇ…」
アリアさんの言葉に、私とライザさんは何度も頷く。
「正直に言わせて貰うと、アリアさんにも経験して欲しいぐらいなんですけどねぇ…」
「だよねぇ… 何の抵抗もできずに好き放題に洗われるって、精神的にキツいんだよねぇ…」
アリアさんはジリジリと後退りしながら苦笑を浮かべ…
「いや… 私は先日、エリカさんに洗われたじゃないですか!? ホラ、ライザさんに抑え付けられて…」
あぁ、少し前にそんな事もあったっけ。
「でも、精神的な疲労と言うか、ダメージは大して受けてませんよねぇ?」
「やっぱり王妃様や王女様達に洗われないとねぇ… あのツラさは理解できないよねぇ?」
私とライザさんは顔を見合せ、大きな溜め息を吐く。
と、ここで私は思い出した。
「そう言えばアリアさん… 王妃様達が治療院に泊まった時も、お風呂攻撃(?)を逃れてましたね…」
「えっ!? 王妃様達、ロザミアに来たの? 治療院に泊まったの?」
あぁ、ライザさんは知らないんだったな。
まだライザさんがロザミアに来る前だったし。
「ライザさん、ロザミアにテーマパークが在るのは知ってますよね? そのテーマパークを体験したくて来られたんですよ。その時、治療院に宿泊されたんです」
「それで、あのお風呂攻撃(?)から逃れられたの? …でも、王妃様や王女様達の目的がエリカちゃんだったら大丈夫かな…?」
「それに、あの時点ではお互いに初対面でしたからね。私も出会ったばかりの頃は被害(?)に遇わなかったし… さっきも言いましたけど、王都で大勢の傷病人を治療して疲れた私を… って、私が原因って事やんかぁあああああっ!!!!」
私は頭を抱えて悶絶する。
「エ… エリカさん!? 落ち着いて… 落ち着いて下さいっ!」
「アリアちゃん、ボクに任せて!」
ずばぁああああああああんっ!!!!
べしゃぁあああああっ!
ライザさんのハリセン・チョップが脳天を直撃し、私は顔面から床に叩き付けられる。
こ… こいつ、全力でハリセンを叩き込みやがった…
意識は失わなかったものの、かなりのダメージを食らった私をアリアさんが起こしてソファーに横たえる。
「エ… エリカさん、大丈夫ですか!? ライザさん、ちょっと力の入れ過ぎです! エリカさんの前歯が3本折れて、頭蓋骨にヒビが入ってるじゃないですか!」
マジかい…
何の変哲も無い普通のハリセンで頭蓋骨にヒビを入れるとは、さすがドラゴンのパワー…
てか、アリアさん、逞しくなったなぁ…
ちょっと前までは、こんな状況だとアタフタしてたのに…
アリアさんは冷静に折れた私の前歯を再生し、頭蓋骨のヒビを修復する。
だけど、まだ少し観察力が甘いかな…?
「ア… アリアさん… この場合… 衝撃の加わった場所… だけじゃダメ… 頭頂部から垂直の… 首… 頸椎にも… 衝撃… 多分… 頸椎椎間板… ヘルニア… 手足… 痺れて…」
私は何とか言葉を紡ぎ、アリアさんに頸椎椎間板ヘルニアの治療を促す。
ちなみに頸椎椎間板ヘルニアで言語障害が起きる事は無い。
これは単にハリセンを脳天に食らったダメージと、顔面を床に叩き付けられたダメージが原因。
恐らく、脳天にハリセンを食らった事で首に垂直方向の強烈な衝撃が発生し、それが原因で頸椎椎間板ヘルニアになったんだろう。
アリアさんは私の指示で頸椎から突出した椎間板を元に戻し、ライザさんを正座させて説教した。
そして更に、罰として銀貨1枚を私の治療費として徴収していた。
ちゃっかりしてんな、おい…
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「さ… さすがに疲れたよ… 考えてみりゃ、一晩休んだだけで疲れも残ってる状態でフィクセルバートまで全力疾走してきたんだからな…」
僅か半月と言う驚異的な早さでロザミアに戻ってきたミラーナさんは、疲労困憊でソファーに横たわる。
飲まず食わず、更には不眠で走れる魔法は掛けたけど…
疲れは回復させなかったし、疲れない様にはしなかったな…
こりゃ、ミリアさんやモーリィさんも同じ様な状態…
いや、ミラーナさん以上に疲れた状態で戻ってくるだろうな。
回復魔法、サービスしてやるか…
数日後、戻ってきたミリアさんとモーリィさんは無言で部屋に入り、翌朝まで眠り続けたのだった。
戻ってきたの早朝だったんだけど、かなり疲れてたんだな…
成仏しろよ?
いや、死んでないけどね…