第163話 王都への私の使いは、違う意味で疲れますよ?
浴室からリビングに戻ると、グッタリしてテーブルに突っ伏すアリアさん。
少しは私の気苦労を理解出来ただろ。
「こ… こんなに疲れるんですね… エリカさん、これを王宮へ行く度に…?」
「そ~ゆ~事です。しかも、最大7人に寄って集って洗われましたからね…」
「そ… そうだったんですね…」
テーブルに突っ伏したまま、力無く応えるアリアさん。
「エリカちゃん1人に洗われるだけでもアリアちゃんみたいに疲れるんなら、7人から洗われたエリカちゃんは…」
想像して青褪めるライザさん。
私はそれを何度も経験してるんだよな…
「しかも、相手は王族ですから下手に抵抗も出来ませんしね。でも、良い練習になったと思いますよ?」
「…練習って、何の練習ですか…?」
まだ脱力してテーブルに突っ伏したまま質問してくるアリアさん。
「そりゃ勿論、アリアさんが王都に招聘された場合の練習ですよ♪ 招聘されなくても、また王妃様達がロザミアに来た時にはお風呂で洗われるかも知れませんからね♪ 多分ですけど、アリアさんも王妃様や子女の皆さんに気に入られてると思うんですよ♪」
何らかの理由で私をお風呂で洗えない場合、アリアさんがターゲットになる可能性は充分に考えられる。
…って言うか、そうなる様に仕向けるつもりなんだけどね。
案外、ライザさんも気に入られたりしてw
そうなると、私が受ける被害が軽減されるかもw
「…そんな事、考えてたんですね…?」
「ボクまで巻き添えにするつもりだったワケ…?」
あらっ?
もしかして、また?
「しっかり声に出てました…」
「相変わらず、うっかりしてるよねぇ…」
すぱぱぁああああああんっ!!!!
2人のハリセン攻撃を顔面に受けてダウンした私は、薄れ行く意識の中で10カウントを聞いた気がしたのだった。
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「じゃ、行ってきま~す…」
翌朝、朝食を終えた私はライザさんに王都まで一直線に行って私からの手紙を渡し、また一直線にロザミアまで戻る魔法を掛けた。
勿論、王妃様達が引き留めた場合は王都に滞在できる様にしておいた。
用事さえ済ませれば、慌てて戻る必要はないからな。
そしてドラゴンの姿になったライザさんは、緊張した面持ちのまま王都に向かって飛び立った。
「随分、緊張してますねぇ…」
「まぁ… ライザさん、初めて王族に会うかも知れないんですからねぇ… 私も初めて会う前は緊張しまくってましたし…」
「でしょうね… 私も王妃様達がロザミアに来訪された時は、緊張しまくってましたから…」
私とアリアさんは顔を見合わせ…
「「会ってしまえば、緊張なんて吹き飛ぶ人達ですけどね…」」
そう言って苦笑したのだった。
実際、凄ぇフランクな人達だからな…
会えるかどうかは判らないけど、会ったら拍子抜けするんじゃないかな?
『ボクの緊張感は何だったんだぁああああああっ!』
とか叫んだりして♪
そんな事はどうでも良いけど…
「さて、私達は診療の準備でもしましょうか♪ 今日も1日、頑張りましょう♪」
「はいっ♡ …ところで、昨夜のハリセンのダメージ… 大丈夫ですか…?」
「気にしなくても大丈夫ですよ♪ 前歯が上下合わせて8本折れて、脛椎を捻挫しただけですから♡ それに、もう治しちゃいましたからね♪」
私がニッコリ笑って言うと、アリアさんは土下座して謝りまくったのだった。
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「ここが王都のヴィランかぁ… ロザミアの何倍の大きさなんだろ…?」
ライザは少しでも早く用事を済ませてロザミアに帰ろうと全速力で飛び、昼過ぎにはヴィランの上空に辿り着いた。
ドラゴンの姿なので下手に気付かれない様にと思い、高高度でヴィランを見下ろしている。
同じ高度で見たロザミアは点にしか見えなかったが、ヴィランは文庫本ぐらいの大きさに見えていた。
ヴィランに入る門を守る兵士に見られない距離に降りたライザは人間形態になり、徒歩で街へと向かう。
門に着いた時、既に日は暮れかかっていた。
ライザは方向音痴なだけでなく、距離感も鈍かった。
「止まれ。何処から来たんだ? 見た感じ旅人の様だが荷物も無いし、怪しいな…」
門番に止められ詰問されたライザは、慌てて懐から1通の封筒を取り出す。
「ボ… ボク、怪しい者じゃありません! これっ! これっ! エリカちゃん… じゃなくて、エリカ・ホプキンスって知ってます? 彼女から国王陛下宛の手紙を持って来たんです!」
「エ… エリカ様から!? ちょっと見せてくれ!」
ライザが封筒を渡すと、門番の兵士は封筒に書かれている不可思議な文字を見て…
「間違いないな… これは確かにエリカ様からの物だ。通って良いぞ。王宮には、この大通りを真っ直ぐ行けば着く。王宮の門にも兵士は居るが、この封筒を見せれば入れてくれるから安心しろ」
「は… はぁ… ありがとう…」
封筒を受け取り、門を通ってヴィランの街に入るライザ。
「この変な文字… こんなのでエリカちゃんからの手紙だって判るんだ…」
封筒には片仮名で『エリカ・ホプキンス』と書かれていた。
が、この世界では誰も読む事はできず、エリカと王族を繋ぐ暗号だと認識されているのだった。
ライザは門番に言われた通り、大通りを真っ直ぐ歩いていく。
やがて立派な門に到着し、やはり門番に止められるが封筒を見せる事で王宮への立ち入りが許可される。
1人の兵士が先導し、王宮の入り口で案内人らしき人物に引き継がれる。
案内人に付いて行くと、だだっ広い部屋に通された。
待つ事しばし、奥の扉が開くと国王と思しき人物、王妃と思しき人物、子女と思しき4人の若い男女が小走りで部屋に入ってきた。
「エリカちゃんの使者なんですの!?」
「エリカちゃん、元気にしてますの!?」
「エリカお姉ちゃんの話、何でも良いから聞かせて♪」
「エリカお姉ちゃん、居ないの~?」
4人の子供達に詰め寄られ、困惑するライザ。
「あらあら… そんなに一度に聞いちゃ、使者さんが困るでしょう? とりあえず、旅の疲れを癒して貰いませんと♪ ですので、まずは親睦を深めるべく浴室へ参りましょう♪」
何が何だか解らない内に、ライザは浴室に連行(?)されて行った。
そして全身を洗われまくり、疲労困憊でエリカからの手紙を国王に渡したのだった。
(何が『旅の疲れを癒して』なんだよ… 余計に疲れたじゃん… エリカちゃん、よく耐えられたな…)
口に出すワケにもいかず、心の中で愚痴るライザだった。