第161話 魔獣暴走を減らせる方法を考えてみました♪ 上手く行くかは知らんけど…
ニュールンブリンクの大森林を、ミラーナ、ミリア、モーリィが駆け抜ける。
大森林の東側でワイルド・ウルフ討伐に当たっている街への連絡は、討伐に参加していないDランク以下のハンターで馬の扱いに長けている者が担当。
大森林の西側の街への連絡は、大森林を迂回して馬で駆けるより一直線に走り抜けた方が早い。
ミラーナ達3人以外に、それが可能な者は居なかった。
「よ~し、もう少ししたら分かれるよ! アタシはルグドワルド侯爵領のフィクセルバートに向かう! ミリアさんはベルナール、モーリィさんはタルキーニに向かってくれ! それぞれ街に着いたら、大森林に近い周辺の街に連絡する様に伝えてからロザミアに帰還!」
「「了解♪」」
そして3人は、それぞれが目指す街に向かって分かれていった。
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「…昨日、言ったばかりじゃないですか? 大森林で気を付けなきゃいけないのは、討伐対象のワイルド・ウルフだけじゃないって…」
「いや、まぁ… それは解ってたんだけどさ… いや! エリカちゃんの言いたい事は、充分に理解してるよ!? でもさぁ…」
私が治療してるのは、前日にジャイアント・スパイダーの毒液を目に浴びて失明しかかったギルバートさん。
今回は逃げるワイルド・ウルフを追ってる最中、フォレスト・ウルフに不意を突かれて襲われたそうだ。
フォレスト・ウルフはワイルド・ウルフより小型だが、小さいワリに凶暴な狼型の魔獣である。
ワイルド・ウルフと同様に、魔獣暴走を起こし易い厄介な魔獣と言われている。
まぁ、ワイルド・ウルフより天敵が多い為、ワイルド・ウルフよりは魔獣暴走の可能性は低い。
それに、ワイルド・ウルフより小さくて攻撃力も低いから、Dランクのハンターでも5人以上のパーティーなら討伐依頼も受けられる。
そんな魔獣でも、油断したらBランクのハンターであるギルバートさんですら怪我する羽目になる。
「でもさぁ… じゃありませんよ。私だから治せましたけど、他の街の魔法医だったら言いたくありますけどハンターを引退する事になってましたよ?」
「それ、言いたくありませんじゃ…?」
隣で別のハンターを治療しながら突っ込むアリアさん。
…突っ込みを入れる余裕も出てきたんかい。
コホン!
と、私は咳払いし…
「と… とにかく! もっと周りに注意して下さい! 怪我の度合いにも依りますが、今の状況だと1つのパーティーが抜ける様な事が起きると、他のパーティーの負担が大きくなって、それが原因で怪我するハンターが増えるかも知れないんですからね!?」
「わ… 解ってるってば! だから、そんなに怒らないでくれよ!」
本当に解ってくれたのかな?
ギルバートさん、意外にドジなトコがあるからな…
「そんなに慌てる事はないと思いますよ? エリカさんが怒った顔で言ってる時は、怒ってる様に見えて意外に怒ってませんから♪ むしろ笑顔で怒ってる時こそ、エリカさんがキレてる証拠です♪」
「そ… そうなのかい? 良かった~… エリカちゃんが本気で怒ったら、命が無いと思えって言われたから…」
「誰が言ったんですか、そんな事! てか、人を救う魔法医が人を殺すかぁあああああっ!!!!」
すぱぁああああああんっ!!!!
ずどべしゃぁあああああっ!!
思わずギルバートさんをハリセンで叩きのめしてしまった私でした…
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「えっ!? それじゃあミラーナさん達、しばらくロザミアには…」
ここ数日、私とアリアさんは毎日ギルドで昼食を食べている。
理由は単純。
ワイルド・ウルフ討伐の状況を知るには、ギルドで話を聞くのが確実だから。
纏め役のマークさんは、昼と夜の引き継ぎと指示を行うとギルドに戻ってくる。
なので、昼食を兼ねたマークさんからの情報収集ってワケだ。
そこでマークさんから聞かされた話が、ミラーナさん達が大森林に近い街への連絡役を買って出た事だった。
「そういう事だな。いくらミラーナさん達でも、ニュールンブリンクの大森林を駆け抜けて、周辺の街に連絡してロザミアに帰ってくるのに、10日程度じゃ無理だろうからね」
だよなぁ…
ニュールンブリンクの大森林って、北は王都のヴィラン近くから、南は漁村のノルン近くまであるし、東西も同じぐらいの大きさだからな…
馬で迂回するより、ミラーナさん達なら大森林の中を突っ切った方が早いだろう。
出会った魔物や魔獣は斬りまくるだろうから、討伐も兼ねられて一石二鳥ってヤツかな?
「…て事はミラーナさん達、どれぐらいで戻ってくるんでしょうか? 1ヶ月も2ヶ月も掛かるとは思えませんけど…」
「そうだなぁ…」
宙を仰いでマークさんは考えて…
「ミラーナさん、ミリア、モーリィが、それぞれ違う街へ向かって、そこで近隣の街への連絡を頼むらしいから… だいたい半月から1ヶ月もしない内に帰ってくるかな? 街への距離がそれぞれ違うから何日か… 状況次第では10日前後ズレるかも知れないけどね」
なるほど…
ミラーナさんの事だから自分は一番遠い街へ向かって、次にミリアさん、モーリィさんの順かな?
「あの~… ところでライザさんは…?」
「あぁ… ライザちゃんね…」
アリアさんの質問に、マークさんは何やら口ごもる。
いや、何となく想像できるんだけど…
「致命的な方向音痴だから排除されたとか?」
「エリカちゃん… そんなにハッキリ言っちゃ…」
私の言葉にマークさんは困った様な表情になる。
やっぱりか…
「だって、私が北や南に向かってくれって指示してるのに、東や西に向かう人ですからねぇ。治療院からギルドに行くだけでも迷子になってましたし、排除されても仕方無いですよ」
「…そんなに酷い方向音痴だったのか… そりゃ、ミリアとモーリィがハリセンってヤツを食らわすワケだよ…」
食らわせたんかい…
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ミラーナさん達が連絡役となって他の街へと向かってから、早くも半月が過ぎた。
ニュールンブリンクの大森林では、相変わらずワイルド・ウルフ討伐が続けられている。
「結構、長引いてますね… ワイルド・ウルフって、そんなに厄介な魔獣なんですか?」
今日も私とアリアさんは、ギルドで昼食を食べつつ情報収集。
「まぁ、厄介だね。たった2年で成獣になって繁殖するから、ちょっと気を抜いてるとアッと言う間に増えるんだよ」
「それは… 確かに厄介ですね。何とかして抑制できれば良いんですけど…」
「抑制かぁ… 相手が魔獣だから、難しいんじゃないかなぁ…」
腕を組んで悩むマークさんとアリアさん。
いや、繁殖を抑制するだけなら、何とかなるんじゃないか?
「ちなみにですけどマークさん、ワイルド・ウルフの雌雄を見分けるのは可能ですか?」
「ワイルド・ウルフの雌雄? あぁ、雄は鬣が黒っぽくて長く、雌は白っぽくて短いのが特徴だな。で、それが何か関係あるのかい?」
「ありますよ? 絶滅させるのは止めた方が良いですけど、雌に絞って討伐すれば、生まれる子供の数は大きく減るでしょうね。子供を生んで増やすのは雌ですから、雌が減れば繁殖を抑制させるのは可能でしょうね♪」
私の意見に2人は何やら考え…
「「なるほど!」」
理解したみたいだな。
仮に雄だけを減らしても、単に雌を巡る競争相手が減るだけで、子供を生み育てる個体は雌なので意味は無い。
逆に、雌を減らせば子供を生み育てる個体が減るので、必然的に全体の数が減少する。
それなら雌雄共に減らせば良いとの意見もあるだろう。
勿論、それが最善なのも解る。
問題は危険性。
雌雄共に討伐するには、当然それなりに危険が伴う。
しかし、雌だけを討伐するなら話は変わる。
雄を牽制するチームと雌を討伐するチームとで連携すれば、危険性は大きく下がる。
更に言えば、子供は雌が守ってる場合が多いので、雌の討伐は同時に子供も討伐する事になる。
まさに一石二鳥♪
まぁ、そう簡単に事は運ばないだろうけどね。
それに、この案は将来の保険の意味合いの方が強い。
現状を打開する案ではなく、将来の魔獣暴走が起きる可能性を減らす案なのだから。
「それに、さっきも少し言いましたが、完全に雌を絶滅させるのはダメです。雌を絶滅させる事はワイルド・ウルフの絶滅を意味し、それは大森林の生態系を激変させる危険性も伴いますからね。絶滅させない程度に減らすのが肝要です」
「承知した。その作戦をハンター連中に伝えよう。これで、魔獣暴走を起こす魔獣が1つ減ったかな? 他の魔獣にも適用すれば、更に魔獣暴走を起こす可能性を減らせるだろうな♪」
そう言ってマークさんは、ギルドを出ていったのだった。