第154話 私にとっては初の忘年会が開催されました♪ ~後編~
ドンチャン騒ぎ…
まさに、そんな言葉が相応しい状況だった。
むしろ混沌と言っても良いだろう。
ギルドで開催された忘年会に参加しているのは50人。
多からず少なからずだが、選考方法は単なる籤引き。
勿論、主催者でもある治療院のメンバー6人は無条件で参加。
残りの44人はギルド職員やハンターの区別無く、籤引きにて選出されている。
以前に開催された『エリカを囲む飲み会』と同様に無礼講な為、参加者全員が羽目を外しまくっている。
「それでは不肖ナッシュ、ブランデー一瓶一気行かせて貰いますっ!」
「止めんかっ! このバカたれぇっ!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
ずどべしゃぁあああっ!
改良型ナッシュ仕様ハリセンMARK Ⅱがナッシュさんを吹っ飛ばす。
「ブランデーみたいなアルコール度数の高いお酒を一気飲みなんかしたら、急性アルコール中毒で死ぬかも知れないんですよ!? 死にたいなら止めませんけど、死にたくないなら考えて飲んで下さいっ!」
「あ~あ… ナッシュのバカは相変わらずか… あいつ、参加者から強制的に排除した方が良かったんじゃないか?」
辛辣な意見を言うミラーナさん。
まぁ、言いたい事は理解できるかな?
ナッシュさん、私が参加する飲み会では相変わらずテンション高いからなぁ…
まさかと思うけど、まだ私を狙ってるんじゃないだろうな?
だったら、後で死なない程度に殴ろう…
「エリカちゃ~ん。ナッシュ失神してるけど、どうする~?」
ハンターの兄ちゃんの1人が私に声を掛ける。
「面倒なんで、その辺の隅にでも置いといて下さ~い♪」
「分かった~♪」
「エリカちゃんも、大概ナッシュに冷たいよなぁ…」
苦笑いしながら言うマークさん。
エリカちゃんもと言うのは、自分も冷たいと自覚してるからだろうか?
「ナッシュに冷たいのは皆だろ? 特にアタシを含めた女性陣は、殆どが嫌ってると思うけど?」
「でしょうねぇ… ナッシュさんが治療院の屋上に干してた下着を、わざわざギルドの屋上から望遠鏡で見てたって知った時は… 魔法医って言う人を救う立場を捨てて、殺したくなりましたから…」
「俺には少し理解し辛い事だが… 女性にとって下着を覗き視られるってのは、それ程の嫌悪感を抱かせるって事か…? それが洗濯物であっても…」
思わず言った本音に、若干後退るマークさん。
「そりゃ~嫌ですよぉ~。男のマークさんには理解できないかも知れませんけどねぇ~? 帰ったら、奥さんに聞いてみたらどうですか~?」
すっかり酔いの回ったモーリィさんが、マークさんの肩をポンポン叩きながら絡む。
「おい、モーリィ… お前、ちょっと飲み過ぎじゃないか? ぶっ倒れて、エリカちゃんの手を煩わせるんじゃないぞ?」
マークさん…
なんか、娘を諭す父親みたいだぞ?
まぁ、駆け出しの頃に面倒を見てたんだから、ある意味では父親みたいなモンなんだろうけど…
「マークさんとモーリィさん、なんだか父娘みたいですねぇ… もしかして、ミリアさんとも似た様な感じなんですか?」
「ん… まぁ、2人がハンター登録する前から知ってるからなぁ… ハンター登録した後も、色々と俺が経験から知ってる事を教えてたし… その意味では娘と言うか、少し歳の離れた妹みたいなモンかな…?」
年齢差を考えると、そうなるかな?
そろそろ40歳(?)のマークさんと26歳の2人だと、娘と言うには歳が近いからな。
「だが、2人の年齢を考えるとなぁ… 言っちゃ悪いが、婚期を逃したんじゃないかと思う事もあるんだよ… ギリギリ貰い手は在るとは思うんだが… って、こんな事を考えてる時点で親父みたいだけどな…」
頬を指先でポリポリと掻き、自虐気味に笑うマークさん。
「本当に父娘みたいですねぇ…」
「出来の悪い娘って感じだけどな…」
すぱぱぁあああああああんっ!!!!
言った瞬間、マークさんの後頭部にミリアさんとモーリィさんのハリセンが炸裂する。
「「出来の悪いは余計ですっ!!」」
不意を突かれたマークさんは、その場に倒れ伏す。
対するミリアさんとモーリィさんは、してやったりの表情。
おいおい…
「痛てててて… 俺に気配を感じさせないとは、腕を上げたな…」
感心するんかい…
「そりゃ当然だと思うよ? アタシもだけど、ハングリル王国やチュリジナム皇国との戦を経験してるからね。そりゃ、腕も上がるさ♪」
あんたの後ろを付いていっただけってのが殆どだったんじゃなかったっけか?
全く戦わなかったってワケじゃなかったみたいだけど…
特にハングリル王国との戦では、マインバーグ伯爵が戦場に到着してからしか活躍の場が無かったらしいじゃんか…
チュリジナム皇国との戦では、投石機や弩砲での攻撃の後始末って感じだったし…
私に言わせりゃ、そろそろ四十路に差し掛かったマークさんの勘が鈍ってきただけな気もするけど…
「エリカちゃん… そんなにハッキリ言わないでくれ… 俺も最近、気になってるんだから…」
あら?
また声に出てましたかね?
「ハッキリ言ってましたよ? エリカさん、思ってる事を口にするクセは治ってませんね…」
アリアさんが呆れた様に言う。
「エリカちゃんらしいと言えば、エリカちゃんらしいんだけどな♪ 隠し事って言うか、権謀術数ってのが苦手なんだろうさ♪ 良く言えば素直、悪く言えばバカ正直ってヤツかな?」
「余計なお世話だっ!!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
びったぁああああんっ!
何の遠慮も無いハリセンの一振りに吹っ飛んだミラーナさんは、ギルドの壁にめり込む。
「ミラーナさんに対しても容赦無いんだねぇ… で、今のハリセンって、どれを使ったの? 勢いからして、ライザ仕様じゃないと思うんだけど…」
「ご明察、恐れ入ります♪ お察しの通り、今のはミラーナさん仕様のハリセンです♪ ライザさん仕様のだと、壁を突き破って円形広場の真ん中か、下手したら治療院まで吹っ飛んでたかも知れませんねぇ♪」
「にこやかに言うなぁっ! この一撃だけでも充分な威力じゃんかぁっ!」
失神しなかったミラーナさんが、声を荒げて抗議する。
知らんがな…
そもそも自業自得だろ…
「ミラーナさんも、エリカちゃんとは違う意味で正直なのよね♪ 歯に衣を着せない物言いって言うか、思った事をそのまま喋るって感じ? でも、嫌な気分にはならないのよねぇ♪」
「そうそう♪ それに、ミラーナさんって裏表が無いんだよねぇ♪ だからエリカちゃんは、怒るけど嫌わないんだよね♪ 勿論、私達もだけどさ♪」
それは言えてるかな?
何か言われて怒る事はあっても一時的なモンだし、ハリセンでブッ叩けば気分も晴れるし♡
「単にハリセンの一撃で、言われた分を返してスッキリしてるだけでは…?」
アリアさんが冷静に突っ込みを入れる。
「それはまぁ… 遣られたら遣り返すと言うか、私も私が言った事でミラーナさんからハリセンを食らいますし… それはもう、お互い様と言うか… って、また声に出てました?」
「「「「「「しっかりと」」」」」」
治療院のメンバーに加え、マークさんまでがハモって答える。
思った事を口に出すクセ、もう治らないかもなぁ…
そんな事を考えながら周囲を見渡すと…
忘年会に参加しているハンター達の半数程はドンチャン騒ぎを続けていたが、残りは酔い潰れて床で寝ていた。
翌日の元旦は、朝から二日酔いのハンター達の治療で忙殺されたのは言うまでもない…