第153話 私にとっては初の忘年会が開催されました♪ ~前編~
今日は12月30日。
この世界は1年が360日、1ヶ月が30日なので、地球で言う大晦日になる。
「今日は1年の最終日。締めくくりって事で、皆で飲み会しませんか?」
朝食を食べながら提案してみる。
さすがに『忘年会』って言葉は無いかも知れないから、無難に『飲み会』って言っておく。
「良いねぇ♪ 年始の社交パーティーが1月だった頃、王都では毎年やってたけど… ロザミアでの忘年会は初めてだから楽しみだよ♪」
あっさり承諾するミラーナさん。
忘年会って言葉、あるんかい…
「ここ何年か、ご無沙汰だったから楽しみだわ♪ と言っても、モーリィと2人だけの小さな忘年会だったけどね」
「そうなんだよねぇ… 飲んで食べて、朝まで騒いだっけ♪」
盛り上がるミリアさんとモーリィさん。
「「ボーネンカイ?」」
アリアさんとライザさんは忘年会を知らない様で、首を傾げている。
「一般的には、その年の苦労を忘れる為に執り行われる宴会ってトコですね。年末に、その年の慰労を目的として執り行われる宴会と考えても良いと思います」
「そうなんですね? じゃあ、私達だけじゃなくて、もっと大勢で忘年会を開きませんか?」
「それ、良いねぇ♪ ギルドの食堂で開くのはどうかな? あそこなら結構な人数が入れるしさ♪ エールも飲めるし食事もできるし、丁度良いんじゃないかな?」
アリアさんとライザさんが言うと、他の皆もウンウンと頷く。
「でも、お酒がエールだけ──ギルドで扱ってる酒はエールのみ──ってのも寂しいですね。折角の忘年会なんですから、私達で持ち寄りませんか?」
場所を貸して貰うんだし、何か提供しないと悪い気がするんだよね。
「なら、ミリアさんとモーリィさんとで酒を買ってきてくれないか? アタシはギルドに行って、マークさんに話を通して参加者を募るよ」
以前『エリカを囲む飲み会』ってのが開催された時は、参加者が殺到したみたいだったけど…
今回も同じ事にならないだろうな…
「エリカちゃんは寿司を握ってくれないか? ギルドの食堂で提供される食事だけじゃ足りないだろうし、ハンター連中が食った事の無い料理があった方が良いだろ?」
「それもそうですね♪ じゃ、今日は治療院を休みにして寿司を握りまくりましょうか♪ ついでに刺身も用意しましょうかね?」
そして私とアリアさんは魚を仕入れに商店街へと向かい、ミラーナさんとライザさんはギルドへ、ミリアさんとモーリィさんは酒を仕入れに動いたのだった。
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私達4人は閑散とした商店街をトボトボと歩いている。
「考えが甘かったですね…」
「確かに… 年末年始で商店街が軒並み休んでる事を忘れてました…」
「まさか酒屋も閉まってるなんて…」
「そこは仕方無いから、お酒は私達が買い溜めしてるのを提供しようか…?」
「寿司飯を作るお米と酢は治療院に有りますけど… 肝心の魚が買えないと、お寿司は握れませんねぇ…」
「う~ん… 魚さえ手に入れば…」
そこまで言った私の脳裏に、1つの考えが浮かぶ。
「アリアさん、急いでギルドに行きます! 私の考えが間違ってなければ、魚は手に入りますよ! ミリアさんとモーリィさんは、治療院に戻ってお酒を運んでおいて下さい!」
言いつつ私はダッシュでギルドへ向かった。
バァンッ!
「ライザさん! 私とアリアさんを乗せて漁村まで飛んで下さい!」
私はギルドのドアを開けると同時に、ライザさんに向かって叫ぶ。
「えっ!? 何!? えぇっ!?」
ワケが分からず妙な動きをするライザさん。
「理由は移動しながら話します! とにかく私達を漁村まで運んで下さい!」
「よく分からないけど分かった!」
言いつつライザさんはドラゴンの姿に…
「建物の中でドラゴンに戻るんじゃありませんっ!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
ずどべしゃぁあああっ!!!!
私の渾身のハリセンを食らい、ギルドの外へとフッ飛ぶライザさん。
タイミングを見極めたアリアさんがドアを開ける事で、建物に被害はなかった。
アリアさん、ナイス♪
「さあ、ここでならドラゴンに戻っても大丈夫です! 早く私達を漁村まで運んで下さい!」
私はダッシュでライザさんを起こし、血走った目──後でアリアさんが言ってた──で叫ぶ。
「わ… 分かった…」
ライザさんがドラゴンの姿に戻り、私とアリアさんは背中に乗る。
「さあ、ライザさん! 南へ向かって飛んで下さい!」
「了解!」
ライザさんはフワリと浮かび上がり…
「そっちは西だ! バカたれぇえええええっ!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
ドサドサドサッ
「エ… エリカさん… 空中でハリセンを使うのは… せめて、ライザさん仕様のハリセンは止めて下さい…」
「ゴメン… 忘れてました…」
ともかく私達は漁村へと魚を求めて出発したのだった。
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「思ったより魚を仕入れられましたね♪」
「はい、これなら忘年会の参加人数が多くても大丈夫そうですね♪」
「ボク、何発ハリセンを食らったんだろ…? そりゃ、方向を間違ったボクが悪いんだけど…」
間違え過ぎなんだよ…
真っ直ぐ飛べば良いだけなのに、鳥が飛んでるのを見る度に方向を変えるんだから…
注意力が散漫と言うか、集中力が無いと言うか…
「とにかく、早く治療院に帰ってお寿司を握ります! きっとライザさんも気に入ると思いますよ? 今まで何度か作りましたけど、誰からも好評でしたからね♪」
「楽しみにしてるよ♪ じゃ、ボクは先にギルドへ行ってるね♪」
そして私とアリアさんは治療院へと戻り、私は寿司を握りまくり、アリアさんは刺身を大量に用意したのだった。
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「さすがに予想を上回ってますよ…」
アリアさんが冷めた目で大皿を見渡しながら言う。
「ちょっとねぇ… 気持ちは解らないでもないけど、アタシから見ても常軌を逸してると言うか…」
ミラーナさんも同意見の様だ…
もっとも、大皿で25皿も並べられたの寿司を見れば仕方無いか…
「まぁ、参加者はアタシ達を含めて50人って事だから、丁度良い量かも知れないけどさ…」
「それにしてもエリカちゃん、握り過ぎなんじゃない?」
「だよねぇ… でも、マークさん達はエリカちゃんのロザミア滞在1周年記念だっけ? あの時に食べてるから知ってるよね? だけど、ハンターの連中は…」
杞憂でした。
ハンターの兄ちゃん達は特に気にする事もなく、私の作った料理ってだけで次々と食っていた。
それで良いのか、お前ら…
まぁ、美味しく食べてくれるのは嬉しいけど…
何だかんだと言いつつ、ギルドでの忘年会は開催されたのだった。