第149話 年末の忙しさと新しい料理への挑戦。だけど、食材を無駄にするんじゃないっ!
年末が近付くにつれ、普段と違う作業で怪我人も増える。
少しは気を付けろよ…
「今日もハンター以外の怪我人が多かったですねぇ~… 捻挫に脱臼なんて当たり前、骨折すら珍しくないんですから…」
1日の治療を終え、アリアさんは大きく伸びをしながら呆れた様に言う。
「年末が近付くと、普段と違う作業なんかも増えますからね。慣れない作業が多くなるから、一般の人の怪我も多くなるんですよねぇ…」
「だからって皆さん、怪我し過ぎです! いくらエリカさんか居るから安心だって言っても、下手したら死んじゃうんですから!」
珍しく憤慨するアリアさん。
まぁ、言いたい事は解る。
普段行わない作業ってだけでも怪我のリスクが上がるのに、誰もが私達の治療をアテにして注意を怠ってるみたいなんだよなぁ…
治療院の片付けを終えて2階に上がると、ミラーナさん達4人は全員キッチンで料理をしていた。
「よ~し、行くぞ~… そりゃっ!」
「「「あ…………」」」
「また失敗したぁ~っ!」
「じゃあ、今度は私が… ていっ!」
「「「あ…………」」」
「私もダメだった~っ!」
「皆さん、何を作ってるんですか?」
「「「「!!!!」」」」
私が声を掛けると、一斉に固まる4人。
そして、ゆっくりと此方を振り返る。
4人の隙間から料理と思しき大量の残骸が見える。
「いったい何を作って… って、これ… もしかして…?」
アリアさんが絶句し、ジト目で見つめるモノ。
それは裏返すのに失敗し、無惨な姿になったお好み焼きの山だった。
数日前、新たな料理としてお好み焼きを披露して、好評だったから再現しようとしたんだろうけど…
「どれだけ失敗してるんですか… って、聞くまでもありませんけどね…」
私は思わず溜め息を吐く。
「だってさぁ~… 難しいんだよ、裏返すのが…」
「何回も挑戦してるんだけど、どうしてもエリカちゃんみたいに上手く裏返せないのよねぇ…」
そりゃまぁ、最初から上手に裏返すのは難しいだろうけど…
何枚失敗してんだよ…
「よ~し、次は私の番だからね! 今度こそ… とりゃっ!」
モーリィさんが気合いを入れて裏返すと…
「やったぁ♪ 初めて成功… って、焦げてるぅううううううっ!!!!」
真っ黒け…
焼き過ぎだよ…
「今度はボクが… うりゃっ!」
べちょっ…
ライザさんのは焼きが足りず、ヘラを差し込んだ部分だけが裏返る。
ミラーナさんやミリアさんのは持ち上げるまでは良いが、裏返す途中で折れて落下。
グチャグチャに潰れてしまい、どれもお好み焼きとしての形を成していなかった。
「裏返すコツぐらい、言ってくれたら私が教えますよ… こんなに失敗しちゃって… これ、どうするつもりなんですか?」
お好み焼きの残骸を指差し、私はジト目で4人を見つめる。
「食べられませんよねぇ… 生焼けに焼け過ぎ、どちらも身体に悪そうですし…」
「勿体無いですけど、廃棄するしか無さそうですね… まぁ、材料が有るんですから、今日の夕食はお好み焼きにしましょう。材料を無駄にしない為にも、作り方は私が徹底的にレクチャーしますから。覚悟して下さいね♡」
言って私は殺意を込めた笑顔で4人に微笑んだ。
苦学生だった前世。
医科大学生として勉学に励んだ前世。
奨学金の負担を減らす為に、アルバイトで食費や学費を稼いでいた前世。
自炊に失敗した日なんかは悲惨な食事だった。
オカズがモヤシだけだったなんて事は数え切れない。
金が無かった時なんか、ご飯に塩をかけただけの夕食を泣きながら食ったなんて事も…
テメー等に、そんな苦労が理解出来るのか?
そんな怒りを内に秘めた笑顔に、その笑顔を向けられたミラーナさん達4人は勿論、何故かアリアさんまでもが青褪めて萎縮していたのだった。
そして私が行った『お好み焼きの作り方』のレクチャーは、私の『食べ物を粗末にするヤツは万死に値する』との気迫の元、苛烈を極めたのだった。
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「「「「「ごちそうさま…」」」」」
全員、死んだ魚の様な眼をしてお好み焼きを食べ終え、食器を洗いにキッチンへと向かう。
「はい♪ 自分で作ったお好み焼きは美味しかったでしょう? 好きな具材を入れて作れるのがお好み焼きの魅力ですから、完璧に作れる様になって良かったですね♡」
「「「「「……………」」」」」
全員が無言、更に疲れ果てた様子。
まぁ、かなり厳しく指導したからな…
「なんで私まで… ハリセンを食らわなかっただけマシですけど…」
アリアさんは、私がお好み焼きを作った時に近くで見ていたからか、多少の注意はしたものの特に問題無く焼き上げていた。
だが、アリアさん以外の4人は先程の失敗も踏まえ、ハリセンを食らいまくっていた。
「ヘラを差し込んで焼け具合を確認してから裏返さんかいっ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
「力の配分が違うっ! 持ち上げる時は優しく慎重にっ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
「遅いっ! 持ち上げたら早く優しく裏返すっ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
「早過ぎるっ! もう少し持ち上げてから早く優しく裏返すっ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
等々…
前世の私は東京の医科大学に進んだが、それ以前は大阪で過ごしていた。
大阪人として、粉物文化に妥協はできない。
いや、大阪は関係無いかも知れないけど…
お好み焼きは勿論、たこ焼き、イカ焼き、ヤキソバ…
うどん、蕎麦、パスタなんかも粉物として外せないだろう。
蕎麦の実が異世界に在るかは判らないが、在るなら是非とも再現したいモンだ。
「やっぱり食い意地が張ってんだな…」
「食べる事に関しては妥協しませんよねぇ…」
「だからってハリセンを使うのは、やり過ぎだと思うけど…」
「ボク、何回ハリセン食らったか分かんないよ…」
ブツブツ文句を言う4人。
「それもこれも、食材を無駄にしない為です! 何食分、無駄にしたと思ってるんですか!? 挑戦するのは悪い事ではありませんけど、食材を無駄にする様な無謀な挑戦は控えて下さい! 世の中には、食べたくても食べられない人が大勢居るんですからね!」
「「「「「はぁ~い………」」」」」
5人は素直(?)に反省し、新しい料理──私が前世で作っていた料理──への挑戦は私の指導を仰ぐ事に同意したのだった。
本当に守るかは疑問だけどな…